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第24章|白いコンテナ

白いコンテナは、静かに走っていた。


車輪の音がしない。

床に触れていない。


浮いている。


磁気搬送。

“揺れない”ための移送手段。


人間を運ぶためじゃない。

壊れやすい“資産”を運ぶためのものだ。


その側面に刻まれた名前は、短かった。


ALTO。


シオンは喉の奥が熱くなる。


そこにいる。

間違いなく。


けれど、呼んでも届かない。


箱は閉じている。

箱は正しい。

箱は保護だ。


逃げられないように作られている。


ユウが走りながら吐き捨てる。


「ふざけてんな……」


セイルは目を細めて周囲を見る。


「護衛が多い」

「一本道に誘導されてる」


一本道。


その言葉が嫌だった。


境界の外で生きるために、

ユウは“道を拾う”。


アルトは“穴を作る”。

シオンは“未来を残す”。


BORDER REMAINSは一本道を拒むためのチームだ。


なのに今、一本道に押し込まれている。


そして一本道の先には、必ず“結論”がある。


処理。

回収。

消失。


シオンは息を吸った。


怖い。

でも怖がっている時間はない。


ユウが先に言った。


「止める」

「ぶっ壊す」


セイルが即答する。


「壊すなら、タイミングがいる」

「この搬送は“止まる瞬間”がある」


「通過認証だ」


シオンが頷いた。


管理は止まらない。

でも管理は必ず照合する。


未来の隙間は、その照合の瞬間に生まれる。


通路は白い。


壁は光を反射する。

陰影が消える。


逃げ場がない。

影がない。


影がない場所は、レンカの世界じゃない。


代わりにこれは――管理の世界だ。


セイルが小声で言う。


「次が照合区画」

「止まるのは三秒」


ユウが笑う。


「三秒で十分だ」


シオンは笑えない。


三秒で救える未来は残るのか。

それとも――救えない未来が確定するのか。


SAVE LINEは、優しい能力ではない。


救える未来を残す。

それは必ず、救えない未来を確定させる。


その重みを背負い続けるのが、シオンだ。


そして背負ったまま、進む。


照合区画の手前で、警告灯が点滅した。


赤ではない。

淡い青。


管理の光だ。


コンテナが減速する。


止まる。


ほんのわずか。

三秒。


その瞬間だった。


背後から、足音が追いつく。


重い音。


確定の音。


ラザルが現れた。


黒いコート。

白い壁にその影だけが濃く落ちる。


彼は落ち着いていた。

追いつくのは当然だと知っている顔。


ラザルが言う。


「逃げ道はない」


ユウが吐き捨てる。


「お前、口癖かよ」


ラザルは銃を構えたまま淡々と答える。


「違う」

「これは結果だ」


その言葉が、ユウの神経を逆撫でする。


結果。

正しい結果。

確定する未来。


ラザルのΔは、そこにしか価値を置かない。


シオンが短く宣言した。


「……Δ:希望収束セイヴ・ライン


三秒の隙間で、アルトを救う未来を残す。


残った線は一本。


“コンテナに触れられる未来”。


それだけだ。


ユウが飛び出す。


コンテナへ走る。

手を伸ばす。


その瞬間――


ラザルが撃った。


銃声。


弾が飛ぶ。


当たる未来が確定する。


避ける未来は消える。


ユウが息を吐き、短く言った。


「……Δ:拾遺干渉リクレイム


拾ったのは、床に落ちた小さなボルト。


その瞬間、現実が歪む。


床の磁気搬送ラインがわずかにズレた。


コンテナが揺れる。


ほんの一瞬、軌道が逸れる。


弾はユウに当たった。


だが致死じゃない。


肩を抉っただけだ。


血が飛ぶ。


ユウは痛みに顔を歪めながらも、手を伸ばした。


触れた。


コンテナのロック。


硬い。

冷たい。


扉は開かない。


三秒が終わる。


照合が再開する。


コンテナが再び動き出す。


ユウは叫ぶ。


「クソ!」


シオンが叫び返す。


「まだ!」

「まだ残せる!」


シオンは歯を食いしばった。


SAVE LINEを重ねる。


未来をもう一度引き直す。


“触れる未来”から

“開く未来”へ。


シオンは短く言う。


「……Δ:希望収束セイヴ・ライン


扉が開く未来。


残った。


だが――


その未来は、誰かの犠牲を要求した。


セイルが一歩前に出る。


「私がやる」


シオンが息を呑んだ。


セイルが?


セイルは遺物を扱う。

彼自身も危険だ。


軌道同期(ORBIT SYNC)は、外れない。

当てる。

掴む。

起動する。


その成功が外れない代わりに、

人間側が先に壊れる。


セイルが短く宣言した。


「……Δ:軌道同期オービット・シンク


指先が動く。


遺物の鍵が、コンテナのロックに正確に噛み合う。


外れない。


噛み合う。


そして――開く。


白いコンテナの扉が、わずかに開いた。


中から、冷気が漏れる。

薬品の匂い。

金属の匂い。


そして、かすかな呼吸。


シオンの声が震えた。


「アルト!」


だが、返事はない。


返事がないのに、

“いる”と分かる。


それが怖い。


生きている。

けれど“判断できない”状態で生かされている。


そしてその瞬間――


ラザルが動いた。


迷いがない。


一歩踏み込む。

銃口がセイルへ向く。


セイルを撃てば、扉は閉じる。

アルトは再び運ばれる。


ラザルが静かに言った。


「正しい結果に戻す」


その言葉が、刃だった。


シオンは息を吸い、叫ぶ。


「……Δ:希望収束セイヴ・ライン!」


セイルが死ぬ未来を消す。

扉が閉じる未来を消す。


残るのは――


“誰かが当たる未来”。


その瞬間、ユウが前に出た。


「……いい」


「俺が拾ってやる」


ユウは歯を食いしばり、短く宣言した。


「……Δ:拾遺干渉リクレイム


拾ったのは、床に落ちた破片。


その破片が、弾道に噛み合った。


弾がユウに当たる。


腹を抉る。


膝が落ちる。


シオンの呼吸が止まった。


ユウが――


ユウが倒れる。


救えない未来が、確定した?


違う。


死ぬ未来は残っていない。


まだ残ってる。


ギリギリ生き残る線が残ってる。


シオンは震える声で呟いた。


「ユウ……」


ユウは血を吐きながら笑った。


「……拾えた」


「開いたろ」


扉はまだ開いている。


アルトはまだ、ここにいる。


だが代償は来た。


ユウが受けた傷。

セイルの指先の震え。

シオンの胸に溜まる罪。


そして――


搬送ラインの奥で、新しい警報が鳴り始めた。


《Δ適合者接触》


《回収優先度:SSS》


セイルが低く言う。


「終わりじゃない」


「ここからが」

「戦争になる」

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