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第23章|搬送区画

搬送区画は、音で満ちていた。


金属が擦れる音。

油圧が唸る音。

短く鳴る警告音。


崩壊都市の音とは違う。

生きるための音ではない。


“運ぶための音”だ。


ユウが壁際に身体を寄せる。

視線は真っ直ぐ、搬入口の奥へ。


「……あれだ」


セイルが頷く。


輸送車が停まっている。

灰色のコンテナが積まれている。

人間を載せるサイズじゃない。


それでもあれは、人間を運ぶ。


いや――“対象”を運ぶ。


シオンの喉の奥が苦くなる。


アルトは、そこに入っている可能性が高い。


人が人として運ばれない。

番号として運ばれる。


評価値は、ただの数字だったはずだ。

だが数字は、いつの間にか檻になった。


そして今、檻はΔを基準に作り替えられている。


セイルが小声で言う。


「搬送先は監視ドーム経由」

「最終は、研究区画だ」


ユウが吐き捨てる。


「研究?」

「人で試す気かよ」


セイルの返事は短かった。


「人じゃない」

「Δ適合者だ」


その言葉が、刺さる。


Δは超能力じゃない。

世界の差分が、人間という器に定着した事故だ。


事故を研究する。

事故を武器にする。

事故を資源にする。


その発想が、管理の本質だった。


シオンは息を吸う。


ここで止めなければならない。

アルトのためだけじゃない。


世界のためだ。


でも――


シオンは知っている。


世界のために動くと、必ず誰かを切り捨てる。

SAVE LINEはその罪を、何倍にも重くする。


それでも進む。


輸送車の周囲には、兵がいる。


ドローンが旋回している。

搬送作業員の白い制服が動いている。


その全員が、同じ顔に見えた。


感情がないわけじゃない。

感情を切り捨てることが合理だと教えられた顔だ。


その中で一人、違う気配がいた。


黒いコート。

肩に赤い線。

規格外の装備。


そして――歩き方が静かすぎる。


セイルが目を細める。


「……執行官じゃない」


ユウが低く言う。


「やな感じだな」


シオンはその男を見た瞬間、背中が冷えた。


彼は“戦場”の匂いをしている。


管理の人間じゃない。

管理のために戦う人間だ。


男が、輸送コンテナに手を置いた。


指先が、ひとつの印をなぞる。


まるで確認するように。


その仕草だけで分かる。


彼は、アルトの価値を知っている。


そしてそれを――“扱える”。


シオンの喉が鳴る。


敵Δ能力者。


ついに来た。


セイルが言う。


「ラザルだ」


その名前だけで、空気が変わる。


ラザル。


CORRECTION EXECUTOR。

是正執行。


“正しい結果”を強制するΔ。


攻撃が当たる。

壊れる。

止まる。


それが確定する。


バトルで一番分かりやすく、

一番最悪なタイプだ。


ユウが歯を食いしばる。


「……当ててくる奴か」


セイルが頷く。


「避けても意味がない」

「避ける未来を潰す」


シオンは息を吸う。


SAVE LINEは負け筋を消す。

だがラザルは、“勝ち筋”を固定する。


能力の方向が真逆だ。


そしてその真逆は、最悪に噛み合う。


ユウが小さく言った。


「奪うぞ」


それは計画じゃない。

意思だった。


セイルが視線を走らせる。


「正面は無理」

「裏から、搬入口の制御を落とす」


シオンが頷く。


「私が未来を残す」

「ユウが道を拾う」

「セイルが穴を開ける」


三人の役割が自然に揃う。

それはBORDER REMAINSの形だ。


アルトがいなくても、

アルトの影がそこにいる。


その影が、三人を繋いでいる。


ユウが短く息を吐く。


「……やるぞ」


シオンは胸の奥で、

ひとつの祈りを潰した。


祈っている暇はない。


残す。

それだけだ。


搬入口の裏は狭い。


金属壁と配線。

監視カメラが二つ。

センサーが三つ。


セイルが端末を取り出した。


「一分だけ」

「制御を落とす」


ユウが言う。


「一分で十分だ」


シオンは息を吸い、短く宣言する。


「……Δ:希望収束セイヴ・ライン


一分だけ生き残る未来。

一分だけ開く未来。


それだけが残った。


セイルの指が動く。


端末が一瞬だけノイズを吐く。

監視カメラの映像が乱れる。

センサーが沈黙する。


穴が開いた。


ユウがコンテナへ走る。


だがその瞬間――


世界が止まった。


いや、止まったように見えた。


搬送区画の中央で、ラザルが顔を上げた。


こちらを見ている。


気づいた?


違う。


“気づく未来が確定した”。


ラザルは静かに言った。


「そこだ」


銃を構える。

そして撃つ。


シオンは瞬時に理解する。


避けられない。


避ける未来が残らない。


ラザルのΔは、当たる結果を強制する。


シオンは叫んだ。


「……Δ:希望収束セイヴ・ライン!」


残す未来を、無理やり引き直す。


弾が当たる未来は消せない。

なら――


“致死にならない未来”を残す。


弾が逸れるのではない。

当たっても死なない場所に当たる未来。


シオンの肩に、衝撃が走る。


熱い。

痛い。

だが生きている。


致死ではない。


ギリギリの線が残った。


ラザルの目が細くなる。


「……外した?」


彼の声には苛立ちが混じる。


“正しい結果”が成立しない。


それは彼にとって、世界の裏切りだ。


ユウが叫ぶ。


「今だ!」


ユウはコンテナに飛びついた。

ロックを外す。


強引にこじ開ける。


だが中は――空だった。


シオンの呼吸が止まる。


空?


そんなはずがない。


セイルが叫ぶ。


「違う!」

「これはダミーだ!」


ラザルが静かに笑った。


「正しい結果を教えてやる」


「回収対象は」

「ここにはいない」


その瞬間、背後の扉が開いた。


別の搬送通路。


そこから現れたのは、白いコンテナだった。


真っ白。


汚れがない。


まるで“存在を消すための箱”だ。


そしてその箱に、刻まれている。


ALTO。


シオンの喉が鳴った。


アルトだ。


アルトが運ばれている。


しかも、こちらとは逆方向へ。


ラザルが言う。


「追え」


「追えば、当たる」


その言葉が、確定の刃だった。


ユウが歯を食いしばる。


追う。

追えば戦う。

戦えば代償が増える。


でも追わなければ、アルトが消える。


シオンは短く息を吐いた。


「行きます」


そしてシオンは理解する。


この戦争は、

敵を倒す戦争じゃない。


未来を削られないための戦争だ。

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