009 最強の騎士団長と最強の戦士
マシェリィ・スカーレットは考える。
ジャック副団長との模擬戦を見たところ、剣の腕や戦闘の動きに関しては素人も同然。余裕? そんなはずがないだろう。
燈値50,000。意味不明――ふざけているとしか言いようがない数値。
だが、素晴らしい。タケルさん。貴方は、私より強いかもしれない……ッ!
マシェリィの口角が少し上がる。
クズ・タケルは考える。
ゴリゴリの副団長を相手に何とかなったんだ。単純な力なら騎士団長さんより絶対に強いはず。
とにかく、相手の剣を防ぎつつ一発入れればいいんだ。
いける……よな?
女だからって躊躇してるとたぶん怪我じゃあ済まない。
副団長もめっちゃ本気みたいだったし、たぶんこの人も本気でやってくるはず。
見た目で人を判断してはいけないが、タケルの想像通り、肉体的な力ならマシェリィ騎士団長よりジャック副団長に軍配が上がるだろう。
だが、肉体の強さがこの世界における強さではないことは、燈値の存在が証明している。
「タケルさん、お願いします」
その言葉が合図となり、距離を取って向かい合った二人は瞬時に剣を構える。
マシェリィの細い脚にグッと力が込められたかと思うと、地面を抉るほどの爆発的な力で踏み込み、引き締まった太ももには筋肉の繊維が浮かび上がる。
踏み込んだ足先で燈値を爆発させ、その勢いを推進力にした超速度でタケルとの距離を詰めて一気に剣を振り抜く。
「――危ねえッ!」
「まさか……この速さに反応し、それも燈値を割ることなく防ぎきってみせるとは。さすがです、タケルさん」
タケルの燈値は、彼の顔面すれすれのところでマシェリィの剣を防いでいた。その事実にマシェリィは顔を紅潮させて喜んだ。
本来なら、このあと瞬時に返しの一撃を入れるところだろうが、あまりの速さにタケルは剣を振ることを忘れている。
マシェリィの剣を受け止めた衝撃の余波が途切れた頃、タケルはようやく腕を動かすことができたのだが、素人の剣捌きが騎士団長に通用するはずもない。
「おりゃっ!」
まるでおもちゃの剣でチャンバラごっこをする子供のような動き。タケルの剣は当然マシェリィに届くことなく燈値の壁に防がれてしまう。
「おりゃ、おりゃっ!」
「ふふふっ。その剣、素晴らしい燈値の密度です。私程度の燈値では簡単に割られてしまいますね」
タケルの剣を防いだ光の壁はその役目を果たしたかのように砕け散り、綺麗な光の粒子となって消えていく。
タケルは感覚的に理解していた――具現化した燈値は、破壊されずに持ち主に戻ると消費しない。つまり、自分は50,000という莫大な燈値を維持したままで、マシェリィは徐々に燈値を減らし続けている。
圧倒的にタケル優位と思われる中、マシェリィは強者の棒立ちで、不恰好に剣を振り回しているだけのタケルに語り続ける。
「燈値消耗の我慢比べなら確実に私の負けですね。すごいですよ、本当に。こんなに振り回しておきながら、その剣はまだ一度も割れていないんですから」
「くっそ! 全然突破できやしねぇ、どうすりゃいいんだよ!」
次第に腕が重くなり、剣を振ることができなくなってしまう。
そしてついに、何度も何度も光の壁を殴り続けたタケルの剣は刃こぼれし、同時に光の粒子となって散ってゆく。
その瞬間、短距離を全力疾走したかのような疲労感と動悸が彼を襲う。
これが燈値を消費する、という感覚なのだ。
「次は、こういうのはどうですか?」
マシェリィは真紅の瞳を輝かせ、超速度でタケルの胴を狙う。と同時に、可視化させた燈値――パチンコ玉のような光の粒が十個程度、きらきらとタケルの頭上を舞っている。
どういう状況なのかはわからないが、とりあえず防御体制を取らないとヤバいということをタケルは理解する。
胴元を狙っているマシェリィの剣、頭上の燈値、そのひとつひとつを的確に防ぐことは難しいと判断し、全身を包むように光の膜を具現化させた。
タケルの体は神々しく発光し、マシェリィの剣を防いだ。
頭上に可視化した燈値はドッ、ドッ、ドッ、ドッとリズム良く具現化して剣となりタケルを襲うが、その剣先は光の壁に拒まれて散っていく。
眩いほどに美しい光の残骸が二人を包み込み、まるで星空に放り出されたようであった。
「タケルさん、ここまでにしましょう。いやあ、素晴らしいの一言です。ははは、最強の戦士……うん、納得です」
「ぷはッ! 息できないくらい集中してた!」
呼吸が乱れた様子を感じさせないマシェリィと違い、肩で息をするタケルはかなりの疲労を感じているようだった。
さすが歴代最強の呼び声高い騎士団長、真の力は窺い知れない。
「ふふっ、すごいです。剣の技術は粗削りですが、判断力や対応力は超一流。莫大な燈値量を活かした私達には絶対に真似できない戦闘スタイル。ぜひ、ヴィクトリア王国にその力を貸していただきたい」
合意を求めて差し出したマシェリィの手を握り返し、「考えてみれば別にやることないからな」と二つ返事に彼女の誘いにタケルは乗った。
「ありがとうございます。私が王国議会に話を通してみます。タケルさんの力は必ず役に立つはずですから」
最強の騎士団長と最強の戦士の団結に、これまで息を飲んで二人を見届けていた騎士団員達は「うおぉぉ!」と雄叫びを上げる。
異世界に来て四日目となり(三日間は気を失っていただけだが)、タケルはようやく自分の立ち位置を見出した。
しかし、本当の意味で彼の力が試されるのは、ここから十日ほど経った頃に突然やってくるのだった。




