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虹色の光が燈る異世界統治ーー転移者のスキルが規格外すぎた件  作者: 青山ハル
第I章 異世界転移とヴィクトリア王国
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007 燈値の使い方

 騎士団長のマシェリィは、他の団員以上に己の実力を試したいと思っていた。

 スクールを卒業し、周囲からの圧倒的な支持と信頼を得て近衛騎士団に入った彼女は一抹の不安を抱えていた。

 ――私の力は実践で役に立つのか、と。


 マシェリィの真紅の瞳が小動物を狩る獣のようにギラリと光る。

 試したい、試したい、試したい――私はマシェリィ・スカーレット。ヴィクトリア王国、王家直轄、近衛騎士団、騎士団長。力を試したい。最強の戦士と剣を交えてみたい。


「ちょっとー、盛り上がってるところ悪いけど。そいつはさっき目を覚ましたばっかりでまだご飯も食べてないんですけどー」


 タケルの入浴中に食事の準備をしていたメイドのジュディが、テーブルに料理を運びながら騎士団員を睨みつけた。


「リリシア様の客人をもてなすっていう、私の仕事の邪魔しないでくれる?」


 17歳のメイドの小娘が、平均年齢40歳を超える近衛騎士団の幹部達にどうしてこうも横柄な態度を取ることができるのか甚だ疑問だが、仕事の邪魔と言われた彼らはたじたじだ。

 マシェリィも、ふっと我に返る。


「ごめんなさい、ジュディ。確かに貴女の言う通りですね。タケルさんが食事が済まされて、少しお休みになられた頃に出直すこととしましょう」


 マシェリィは大人の対応でジュディを宥める。

 それでもジュディはそっぽを向いたように、ふんっと鼻を鳴らして、私は機嫌が悪いですといった表情をして見せた。

 そんなジュディのおかげで騎士団員達はこの場を去り、三日振りの食事にありつけたタケルはご満悦のようで、能力覚醒イベントを逃したことなど気にしてない様子だった。


「アンタさぁ、燈値(トーチ)の使い方わかってんの?」


 使い方? と、口いっぱいに食べ物を詰め込みながらタケルは言葉を返した。


「あの人達は近衛騎士団、わかってる? タケルの燈値(トーチ)がバカみたいに膨大なのは宮殿内に知れ渡っちゃってるけど、アンタ剣は使えるの? 相手の剣から身を守る方法とかわかってんの? 痛いじゃ済まないわよ?」


 ジュディはタケルの隣の席に座って足を組んだ。

 短いメイド服のスカートから大胆に太ももを露出させていて、メイドとはとても考え難いほど行儀の悪い態度で話を続けた。


「タケルも燈値(トーチ)を可視化させることはできたわよね。この光のひとつひとつが可視化した燈値(トーチ)


 言いながら、ジュディは手のひらに光の粒を出現させる。


「でもこれだけじゃ意味なくて、ようは可視化した燈値(トーチ)を具現化しないと何の役にも立たないってわけ」


 今度は光の粒が真っ白なナプキンに形を変え、ジュディはそれを広げて膝の上にそっと置いた。


「太もも見てんのバレバレだから」


「なんだと……ッ!? というかメイドさんがそんな格好で足組むなよ。はしたない」


「は? 黙れ。で、ようするに、さっき私がやったみたいに燈値(トーチ)は変幻自在なの。頭の中でイメージしたことを具現化させることができるから、今みたいに日常の役にも立つし、それこそ戦闘で勝つためには燈値(トーチ)の使い方が大事ってこと」


「騎士団の人達は燈値(トーチ)を使って剣を具現化させて戦うってことか?」


「そういうこと。しかも近衛騎士団に選ばれてるってことは、ヴィクトリア王国の中でもバリバリに戦闘技術が高い人達ってことなんだからね、わかってる?」


 燈値(トーチ)についてジュディから指南を受けたタケルは、この異世界の基本的な設定を理解することができた。

 タケルが持つ特異な力は、燈値(トーチ)の総量が一般人のおよそ500倍であることよりも、自分が異世界モノの主人公的ポジションにあることをメタ的な視点で考えていることかも知れない。

 そのおかげで、こういう物語にありがちなお約束の展開に驚くことなく対処できているのだろう。


「マリィ、アンタもほらこっち来て」


 ジュディの指示でマリィが静かに動く。

 細く長い脚が前後する動きに合わせてメイド服のスカートが僅かに揺れるので、本当にお淑やかで美形のメイドさんだな(オーバーニーソックス最高)とタケルは鼻の下を伸ばした。


「はい、剣を持った二人から挟み討ち状態になりました。さてどうする?」


 メイドの二人はタケルを挟み、燈値(トーチ)を具現化させて剣を構えた。


「……本物、じゃないよな?」


「いや。普通に本物だけど」


「危ねぇよバカ!」


「うそうそ、大丈夫だから安心しなさいって」


 ジュディは自らの手にポンポンと剣を叩きつけ、レプリカであることを証明してみせた。

 そんな二人のやりとりを見たマリィは「あ……」と小さく息を漏らし、持っていた剣を儚い光の粒子に変えて消滅させ、改めて具現化させた剣を構えた。


「おいマリィ、お前絶対マジもん構えてただろ」


「……タケルくん。人を疑うのはよくないと思います」


「ごたごた言わないで準備しなさい。ほらマリィも早く構えて」


 仕切り直し。再びタケルは挟み討ちの状態になる。


「こうやって剣を振り下ろされたら……はい、どうする?」


 前方からジュディがゆっくりとレプリカの剣を振り下ろすと、タケルは腕でそれを止める。

 当然、レプリカなのでなんともない。

 殴る蹴るの攻撃ならそれで防げるかもしれないが、真剣となるとさすがに無理だろう。

 後方からは、隙をついたマリィがタケルの首に優しく剣を押し当てた。


「真面目にやれ。今ので腕と首がスパッと逝ってるわよ」


「どうしろってんだよ! わかるように説明してくれ!」


「んじゃ、はい。コレ持って」


 言われるがまま、ジュディから渡されたレプリカの剣を構える。

 レプリカとはいえ、生まれて初めて握った剣は思っていたよりも重たく感じるものだった。


燈値(トーチ)ってすごいな。重さまで本物みたいだ」


「はいはい。それじゃあ、思いっきりそれで私の頭をぶった斬って」


「おいおい、さすがに女の子相手にそんな真似できねぇよ」


「はぁ? 騎士団長も女でしょ。そんなんじゃ命がいくらあっても足らないわよ。大丈夫だから、早くしなさい」


 ジュディに言われて、「どうなっても知らねえぞ」と心の中で呟きながら目をぐっと閉じて剣を振り抜いた。

 ガッ! という音とともに腕に鈍い衝撃が伝わった。

 恐る恐る目を開けると、振り下ろした剣はジュディの頭上に現れた小さな光の壁に拒まれており、彼女は口角を上げた超ドヤ顔でタケルを見つめていた。


「ほらね?」


「す、すげぇ! 結構思いっきりやったんだぜ!?」


 剣を防いだ小さな光の壁は実体を失い、儚い輝きとともに散っていく。

 燈値(トーチ)は変幻自在、剣にも盾にも何にでも具現化することができるのだ。


「これくらい基本中の基本よ。はい、やってみて」


 今度はジュディが剣を振り下ろす。

 体の内側にある燈値(トーチ)に集中し、頭上に落ちてくる剣にタイミングを合わせて可視化させると、パチンコ玉ほどの光の粒がいくつか出現したものの、それは簡単に弾き飛ばされてしまった。

 そして剣の勢いはそのまま、タケルの頭にコツンと叩きつけられる。


「はい死んだー」


「いや、普通に痛いんだけど……」


燈値(トーチ)を一度可視化させてるからワンテンポ遅いのよ。剣が来るところに一気に具現化させるイメージでやってみて」


 タケルは剣を振り下ろした時に目を開いていなかったから知らないだろうが、先ほどのジュディはいきなり光の壁を具現化させていた。

 ジュディの言うように一度可視化させてから具現化するのでは時間のロスになってしまう。

 なるほど、理解した。とタケルは納得するが、()()()、と()()()、はまったく別モノ。


 どう考えてもメイドさん二人と仲良くチャンバラごっこでもしているようにしか見えないが、これでもかなり真剣にやっているみたいで、それから数十分の特訓が終わる頃にはなんとか剣を防げるレベルにまで成長していた。

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