004 最強の戦士?
いやいやいや。異世界? マジぃ?
知ってるよ? 知ってる知ってる。死んだと思ってたら魔法とか使える世界に転生するヤツだろ?
よくあるよな、そういうベタな展開の物語。どーせ、ものすごい能力に目覚めて無双するんだろ?
それでほら、アレだろ? いつのまにかハーレム状態なんだろ?
と、そこまで考えたところで、クズ・タケルは一旦落ち着いて周りを見渡した。
お嬢様みたいな美少女。中学生くらい? たぶん、この中で一番偉い人だと思う(リリシア・ヴィクトリア)。
お姉様系の金髪美人。俺と同い年くらいか? ちょっと性格キツそう(マシェリィ・スカーレット)。
気の強そうなメイドさん(ジュディ)と、気の弱そうなメイドさん(マリィ)。俺よりちょっと年下……高校生くらいか?
なるほどなるほど。ヒロインっぽいメンバーが四人ね。
あとは……お揃いの服を着ているめっちゃ歯が白いオッサンが十人くらい。俺より余裕で年上だよな……30代から40代?
「あははは! 全然ハーレムじゃねぇな!」
やっべ、声に出ちまった。と冷や汗をかく彼に全員の視線が集まる。
「クズ・タケル、あなた先ほどから私たちに馴染みのない言葉を使うのね。ハーレム、とはどういう意味の言葉かしら?」
王女は興味津々だ。
いや、この場の全員が気になっている――なにせ彼は、最強の戦士かもしれないからだ。
「いやその、ハーレムっていうのはですね、説明するの難しいッスね、あははは……」
「そうなのね。それではゆっくりとあなたのお話を聞かせて? ここに来る前はどこにいたのか、どういう理由でここに来たのか」
「いやー、ここに来る前は普通にパチンコっすねぇ。なんで来たのか俺にもわからないッス、はい」
「パチンコ、というのは、あなたがいた世界のこと?」
「いやぁ、なんも話通じねぇな……というか、やっぱここ異世界ってことッスか? 魔法とか使えます?」
王女とクズ・タケルの会話を聞きながら、他の者はゆっくりと紅茶のようなものを飲んでいる。
それを見てタケルもティーカップに口をつけると「普通にうめぇ」と言ってそれを飲み干した。
異世界に迷い込んだかもしれないというのに、意外と落ち着いている。
ついでに腹を空かせていたことを思い出し、焼き菓子っぽい物もペロリと食べ尽くした。
「あなたが言う魔法というのは、こういうものかしら?」
リリシアは、先ほどメイドのジュディがしてみせたように手のひらを上に向け、いくつかの光の粒を出現させた。
マジで魔法あるのかよ、とタケルは思った。
「へぇ、そのパチンコ玉みたいなものが魔法なのか……」
「パチンコ玉?」
「あ、いやいや。こっちの話なんで続けてください」
確かに、大きさや形状はタケルが言うようにパチンコ玉と大差ない代物だろう。
「私たちは、この光を燈値と呼んでいるわ。あなたがいた世界にはないのかしら?」
タケルの表情からあまり話が通じていないと感じたリリシアは説明を続けた。
燈値は変幻自在、そのひとつひとつが攻撃する剣にもなり、身を守る盾にもなる。
燈値は使うと消費され、体力と同じように休息することで回復する。
燈値は生まれつき誰でも持っていて、その総量は一生変わらないと考えられている。
燈値は回復しないまま消費し尽くすと絶命する。
「どうかしら。理解していただけた? ちなみに、燈値の総量は一般的に100前後と言われているわ。120を超えると優秀ね」
「IQみたいな感じッスね」
「あいきゅー?」
首を傾げる王女を見て、言語的な意思疎通はできるが、お互いに知らない単語があることをタケルは理解した。
それからは、自分が元いた世界のことや落ちぶれた大学生活を送っていたことなどを話し、代わりに王女からはこの世界のことやこの場にいる者のこと、そして王宮の裏庭にある謎の門から最強の戦士が現れる伝説の話を再度教えてもらった。
だからと言うべきかようやくと言うべきか、リリシアやマシェリィ、いやこの場の全員は勘付き始めていた。
この男、どう見ても貧弱そうだし服装はお世辞にも綺麗とは言えない(よれよれのジャージ)。
当人の口から聞くところによると、元いた世界では自堕落な遊び人で、しかも金に困った貧民のようだ。
王女、近衛騎士団長、騎士団幹部、王宮のメイド……この錚々たる人物の中にポツンといるただの貧民。
――あれ? もしかして最強の戦士じゃなくない?
しかしただ一人、当の本人であるクズ・タケルは舞い上がっていた。
マジで異世界かよ。そんで最強の戦士とかマジ主人公じゃん。パチンコで全財産溶かしたうえに財布ごと神社に捨てたわけだし、マジ人生逆転だわ――などと考えていそうなニヤけた顔である。
「あの光の玉って、生まれつき誰でも持ってるんスよね?」
そう言って、リリシアやジュディがやったように手のひらを上に向け、そこを見つめた。
その総量に差はあるにしろ、誰にでも燈値とやらがあるのなら、自分にだってあるはずだ。と言わんばかりの仕草だ。
「体の内側にあるエネルギーを意識してみて。そうすれば燈値が可視化されるわ」
おそらく彼は最強の戦士ではないのかもしれないと思いながらも、リリシアは優しく教えるように囁いた。
それに応えるようにタケルが集中すると――。
「やばいやばい! 止まらねえ!」
大当たりが終わらないパチンコ台のように、光の粒がジャラジャラと湧き出して長テーブルに転がり落ちるではないか。
「あの、ちょっと! これどうやって止めるんスか!?」
まだまだ大当たりラッシュは終わらない。
溢れ出る光の粒は100や200どころではない。
タケルの心臓が自分の意思を持ったようにバクバクと大きく跳ねる。
燈値は回復しないまま消費し尽くすと絶命する――嘘だろ?
500……1,000……2,000……まだまだ光の粒は溢れ出る。
王女達の顔は驚きから恐怖の表情へと変わっていった。
「あががががが、あががががが」
5,000……10,000……止まらない。
20,000……30,000……ついにタケルの眼球はくるりと上を向き、白めの状態でガタガタと体は震え始めたところで、リリシア達は血相を変えて立ち上がった。
「落ち着きなさい、クズ・タケル!」
その声が耳に届く前に、タケルは意識を手放した。




