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虹色の光が燈る異世界統治ーー転移者のスキルが規格外すぎた件  作者: 青山ハル
第I章 異世界転移とヴィクトリア王国
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002 クズと王女と騎士団長

 マシェリィ・スカーレットはこの春、ヴィクトリア王家直轄である近衛騎士団の騎士団長に就任した。

 それは、彼女自身はもちろん、彼女を含むスカーレット家にとって、富と名声、華々しい生活が約束されたことを意味していた。


 一般的に、物事を理解できるようになる6歳頃になるとスクールに入学し、初等教育6年、中等教育3年、高等教育3年、専門教育4年――計16年の歳月を経て、22歳になる頃に王国の公務に就く者をエリートと定義されている。

 しかし、スクールに通う大多数は専門教育課程には進むことなく、中等教育や高等教育課程を卒業した後、15歳や18歳前後で家業に入ることになる。


 王国の公務の中でも王家直轄の近衛騎士団はエリート中のエリート、いやキングオブエリートだ。

 さらに付け加えるならば、騎士団長という存在は誰もが憧れる絵本の中の主人公のようなものといえるだろう。

 現に近衛騎士団の活躍を描いた物語は数多くあるため、ヴィクトリア王国に住む子供達は誰しも一度は見聞きしているに違いない。


 そのような中、彼女はわずか19歳にしてスクールの専門教育課程を主席で卒業した才女だった。

 容姿端麗、頭脳明晰、さらには剣技において彼女の右に出るものはおらず、正義感が強く人望も厚い――いわゆるパーフェクト。


 そんなマシェリィ・スカーレットは、スクールに在籍中からヴィクトリア王家に仕え、王女の学習指導を務めるという超絶エリートっぷりを発揮していた。


 高い背丈が年齢に似合わない落ち着きを感じさせ、透き通った真紅の瞳はこの世の全てを魅了するかのように美しい。

 銀白のコートによく映える真っ直ぐな金髪はハーフアップに纏められており、ヴィクトリア王家の紋章が彼女の肩で輝いている。


「マシェリィ、ここが裏庭よ。たぶん、これで宮殿内の全てを案内したと思うわ。はぁ……歩き疲れた」


「リリシア様に案内していただけて光栄でした。しかし、さすがに王宮内は広いですね。覚えるのに時間がかかりそうです、ははは……」


 リリシアと呼ばれた高貴な少女は、疲れ顔で口元を吊り上げ、やれやれという感情を表現した。


 どうやら、この春から近衛騎士団のトップである騎士団長が変わったということで、騎士団長のマシェリィと幹部クラスの団員数名が宮中に招かれていたようだ。


 ただ、名目上は王族や貴族と新しい騎士団長の顔合わせなのだが、実際には宮殿内の造りや、国の要人がどの部屋でどのような公務に就いているのかを理解させる意味合いが強い。


「それにしてもマシェリィはすごいわね。つい先日まで私の先生だと思っていたら、近衛騎士団の騎士団長になったんでしょ?」


「それがですね、リリシア様。困ったことに、これまでは学習指導の先生という立場でしたので厳しく指導していましたけど、近衛騎士団ともなれば王家に心臓を捧げる忠実な公僕……勉強嫌いのプリンセスを叱るなんてことができなくなりました」


「なにそれ、いいわね!」


「スクールの先生にはリリシア様の成績を私に逐一教えていただくよう頼んでいますのでご心配なく」


「なにそれ、あんまりよくないわね……」


 風に靡く優雅な衣装に身を包んだ少女は、リリシア・ヴィクトリア――この国の王女、プリンセスだった。

 国にとって超要人であるプリンセスとはいえ、ごく当たり前に(近衛騎士団数十名の護衛付きで)スクールの中等教育課程に通っており、同世代の一般人との交流もあって年相応に思春期真っ最中の少女なのだった。

 しかし、華奢で幼い容姿とは裏腹に、その纏う雰囲気は王女の名に恥じないものを感じさせている。


「気になっていたのですが、リリシア様、奥に見える門のような建造物はなんでしょうか?」


 庭師によって丁寧に手入れされた草木や花、空の青を映し出す美しい水路――そんな宮殿の裏庭にある明らかな()()に、マシェリィが気付かないはずがなかった。


 鳥居、である。それも馬鹿デカイしめ縄が掛けられた馬鹿デカイ朱色の鳥居。

 おそらく彼女は初めてその異形を目にしただろう。


 尋ねられたリリシアは困ったような表情で、あの建造物については誰もよくわかっていないのだと答えた。


「ああ、そうそう。よくわかっていないけど、知っていることが二つだけあるわ。あの門を通ってはいけないことと、この国に危機が訪れるとき、東の東のそのまた東……太陽が登る異国の地から、最強の戦士があの門を通ってやって来るということ」


「なんですか、それ」


「だから、誰もわからないのよ。誰が言い出したことなのかも、いつからこんなヘンテコなことが言われているのかも。でも、この王宮に仕える者はみんな知っているんじゃないかしら」


 彼女らが鳥居について話しているため、取り巻いていた近衛騎士団の幹部たちは、自然とそちらの方に目をやっていた。

 マシェリィと違い、幹部たちは以前から近衛騎士団に属しているため、この宮殿内の造りはひと通り熟知している。

 当然、あの鳥居にまつわる話を聞くのは初めてではないが、誰もそんなことを信じてはいないし、王女と騎士団長が話のネタにしなければ頭の片隅にもなかっただろう。


 Are you ready!?-準備はできているか?-

 人を惑わす妖艶で魔女のような声がどこかの誰かの耳に届く。

 その誰かは、この時を待ち侘びたかのように口の端を上げでほくそ笑んだ。


「すっげぇ! コスプレ大会!?」


 この場の全員が鳥居を見ている時だった、

 何の前触れもなく、独り言にしては大きめの声とともに裏庭にいる全員の視線が集まる鳥居の中からジャージ姿の男が間抜け面を引っ提げて現れた。


「もしかしてモデルさんとかですか? なにやってんスか?」


 つい先ほど全財産をパチンコに飲まれ、財布ごと神社の賽銭箱に投げ入れた青年、九頭武尊(クズ・タケル)は、目の前に広がる非現実の世界が理解できないまま、煌びやかな衣装に包まれた王女と騎士団長に向かってくる。

 今日の食い物にすらありつけない状況はすっかり忘れて、見慣れない格好の(それもまあまあ露出度が高い)美人にテンションが上がっているようだ。


 どうやら芸能人やインフルエンサーの類がコスプレの撮影をしているとでも思っているのだろう。

 しかしそんなことはなく、ほんの数秒前に異国の戦士が鳥居を通ってやって来るという話をしていた彼女らは、目を丸くして口をあんぐりと開けていた。

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