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虹色の光が燈る異世界統治ーー転移者のスキルが規格外すぎた件  作者: 青山ハル
第I章 異世界転移とヴィクトリア王国
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012 シャルル大聖堂

 タケルを背に乗せた騎士団員を先頭に、約10騎の騎士達が王都シャルルの街を駆ける。

 春の太陽はまもなく沈み始める頃だった。


 初めて馬に乗ったタケルは体の揺れに驚きながらも、前で騎馬する騎士のコートをしっかり握りしめて、なんとか振り落とされないように体幹を意識する。


 急げ、急げ、急げ――騎士団員は馬を巧みに操り、狭い街路も難なく駆け抜けていく。

 王女リリシア・ヴィクトリアが何者かに襲撃されたという噂は瞬く間に王都中に広がり、人々の混乱を招きかねない。

 それどころか、他国に知れ渡れば外交にも影響が出るだろう。


「――どうして、王女の場所がわかったんスか?」


 近衛騎士団を倒し、王女を連れ去った何者かを追っているという現実が、タケルの心臓を強く締め付けている。


「団長と副団長がシャルル大聖堂に入っていくところを巡回中の団員が目撃している。リリシア様の目撃情報は今のところない。が、団長達が向かった場所で間違いないだろう」


「さすが近衛騎士団……すごいッスね。王女が襲われたとき、騎士団長達は一緒じゃなかったんスか?」


「いや、団長と副団長は王宮内にいたそうだ。門の前の騒ぎに気付いて駆けつけて来られたときには、負傷した数名の団員しかいなかったらしい。俺を含め、他の団員にはリリシア様の目撃情報の収集と、それからタケル殿を探すよう命じて、団長と副団長は二人で王都に出て行かれたんだ」


「どうして、俺を……」


「はっきり言って、近衛騎士団の護衛がある中、王女を拐った相手の実力は測り知れない。団長は……いや、騎士団員全員がタケル殿の実力を認めている。一度模擬戦をやっただけだが、間違いなく最強の戦士だ。力を貸して欲しいと誰もが思っている」


 タケルはごくりと生唾を飲み込む。

 最強と言っても真剣じゃないレプリカの剣を使った模擬戦……しかし今、騎士団員が言っているのは命の取り合いだ。


「でも俺、まだ王国議会ってやつから認められてないんじゃ……」


「今は王国の危機、そのようなこと気になされるな。それに……護衛の騎士団がやられるなんて、今までなかったことだ。敵は相当強いぞ、タケル殿……ッ!」


 力を貸して欲しいのか、恐怖を植え付けたいのか、どっちなんだ。とタケルは額に汗をかく。

 そしてついに、巨大で異質な雰囲気を纏うシャルル大聖堂を見上げる位置まで辿り着いた。


 間近で見ると、その異様さを肌で感じることができる。

 タケルの知識と経験に無い宗教的建造物だが、何か強い信仰の集合体であることがわかる。

 例えるなら、尖塔や飛び梁で有名なゴシック建築様式の教会だ。


 アーチ状の門を抜けると、外側からは気が付かなかったステンドグラスに夕陽が差し込み、その色硝子には宗教画と思われる絵が模られているようだ。

 女性とも少女とも見える聖女が、ステンドグラスから来訪者を見下ろしていた。


 おかしい。シャルル大聖堂の中は、タケルを含めた十数人の足音がコツコツと響き渡るほど静かだった。

 近衛騎士団達は剣を構え、辺りを見渡して慎重に歩を進める。当然、真剣だ。

 その後ろに守られるようにして、タケルも左右を確認しながら奥へ奥へと進んでいく。


「……血?」


 おそらく大聖堂の最深部に通じる扉の前で、タケル達は飛散した大量の血痕を発見した。

 王女は無事なのだろうか、騎士団長と副団長は一体どこにいるのか……騎士団員達に緊張が走る。


 一、二の三。呼吸を合わせて両側から勢いよく扉を開くと、そこには白銀のコートを血で染めた騎士団長マシェリィ・スカーレットと、無傷の副団長ジャック・カエサルが剣を合わせていた。


 状況を把握できない。

 天井は色硝子を繋ぎ合わせた一面のステンドグラスとなっており、この空間には七色の光が舞っていた。

 まるで、永遠の愛を誓う式場のようにも感じられる。

 そんな場所で、どうして近衛騎士団の騎士団長と副団長が戦っているのか。


 騎士団員達の到着をマシェリィとジャックの二人は横目で確認する。苦難の表情をした騎士団長と、余裕の表情を見せる副団長。

 近衛騎士団の騎士団長に就任して僅かな期間しか経っていないマシェリィは、まだ19歳の少女なのだ。

 歴代最強の騎士団長と呼ばれているとしても、命の取り合いは初体験――人に向かって真剣を振るという行為が、彼女の精神力を蝕んでいた。


 この異質な空間の奥に、王女が一人立っていた。

 綺麗な顔。衣装も乱れていない。おそらく王女は無事のようだ。

 しかし、王女は凛としているように見えるが、その顔には恐怖の色が浮かんでおり、拳を強く握りしめている。


「あ、あ、あ……リリシア様ぁッ!」


 王女を発見した騎士団員が、彼女を保護しようとすぐに駆け寄る。


「動くな……ッ!」


 騎士団員達を制するためマシェリィが声を張り上げる。

 この場には、リリシア、マシェリィ、ジャックの他にもう一人、影に隠れている者がいたのだ。

 それは当然、王女を連れ去った犯人である。

 一目散に王女に近寄ろうとした騎士団員は周囲の警戒を怠っており、気が付けば背後から心臓を貫かれていた。


 吹き出した血液が辺りに飛散し、他の騎士団員達は瞬時にタケルを囲んで彼の安全を確保する。


 もう何が何だか理解できない。タケルは考えることを放棄した。

 異世界に来て、最強の戦士と言われて調子に乗って、王宮の門の前で血溜まりを見て、犯人を追ってやって来た場所では騎士団長が血塗れの状態になっていて、次は騎士団員の一人が目の前で殺された。


「悪いなぁ。お前に個人的な恨みはないが、汚い手で()()に触れようとした罪だぁ」


 正気のない掠れ声が響く。

 ゆっくりと剣を抜いたのは、四十代後半くらいの恰幅の良い男だった。

 その男は、まるで宗教の教祖であるかのうな白金の衣装を纏っている。

 もちろんタケルは面識がない。

 しかし、騎士団員達は男の顔を見て驚いている。見知った顔、よく知っている顔という具合だ。


「どうして、あなたが……!」


「そんなツラで元上司の顔を見るもんじゃねぇぜ?」


 現役の騎士団の()上司――男は、デイビッド・クラウン、この春まで近衛騎士団の騎士団長だった人間だ。

 彼の後を継いで騎士団長となったのがマシェリィ・スカーレットであり、副団長のジャック・カエサルはついこの間までデイビッドを騎士団長の下に就いていた。


「よくやったジャック、その女はまもなく死ぬぅ。燈値(トーチ)を使って必死に止血しているようだがぁ、血を流し過ぎて死ぬか、燈値(トーチ)を消費し過ぎて死ぬかぁ、そのどちらかだぁ」


 副団長ジャックは、デイビッドが騎士団長の座を降りた今なお、彼の部下として繋がっていたのだ。

 その事実が、他の騎士団員達に衝撃を与える。

 ジャックは血の付いた剣をスッと燈値(トーチ)に戻し、デイビッドとリリシアの近くに歩いていく。


「マシェリィ団長、私は貴女を尊敬している。剣の腕も、戦いのセンスも、正義感、王族や貴族に対する忠信……王国に心臓を捧げる近衛騎士団の長に相応しい」


「……ジャック、副団長」


 マシェリィは副団長を睨み返す途中で膝から崩れ落ちてしまう。彼女は体力が尽きかけている中、誇り高い近衛騎士団の騎士団長として、気力でなんとか意識を保っているようだ。


「確かに貴女は最強だ。だが、私が負けることはない」


「ジャック副団長……どうしてこんなことを……」


 次第に弱っていくマシェリィを、王女リリシアは見つめることしかできない。

 声を出すこともできない。それが歯痒くて、下唇をグッと噛み締めている。


「くかかかか。意味分からないだろぉ? なぁ、騎士団長ぉ。この間まで近衛騎士団の長だった俺と、現役の副団長であるジャックがどうしてお前を殺すのかぁ。くかかかか。死ぬ前に教えてやるよ」


 デイビッド・クラウンは王女の前で片膝をつき、頭を下げて一礼して語り始める。

 他の騎士団員やタケルは動くことができず、彼の話を聞くしかなかった。

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