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虹色の光が燈る異世界統治ーー転移者のスキルが規格外すぎた件  作者: 青山ハル
第I章 異世界転移とヴィクトリア王国
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001 人生に絶望したクズ

 桜が咲く季節――何処かの誰は新たな人生を歩み始め、何処かの誰かは仲間との別れを偲び、何処かのバカは相も変わらず真っ昼間から眩い光が燈るパチンコ台の液晶画面と睨めっこをしていた。


 咽せ返るほどの爆音が耳障りであると同時に、それでいて実家のような安心感さえあるこの空間は、異常とも思える熱気と冷静さに包まれている。


《Drrrr-a.a.a.A-ARE!?→……》


 人の射倖心を煽るアホのような音量とバカ丸出しのクソ演出が、脳と心臓に重い呪いをかけている。

 

「……チッ。ガセ擬似かよクソが」


 しかしそれは好機に発展することのない、いわゆるガセの演出……チャンスに見せかけただけの、人を小馬鹿にする最高の仕様である。


 サラリーマンがちょっとした休みの日に遊び銭をパチンコに注ぎ込む程度なら笑って済ませるかもしれないが、このクズ……九頭武尊(クズタケル)という大学生は、講義をサボってパチンコ三昧――当然、単位は取れないダメダメのクズ学生だった。


 留年したせいで親からの仕送りは無しになってしまったが、だからといって自分でバイトをして生活費を稼ぐという選択肢は毛頭ない。


 大人になるまでのモラトリアムと言えば聞こえは良いが、この青年に関してはただのクズ人間としか言いようがないレベルで、大学に入学できたこと自体が奇跡である。


 そんなクズに二度も奇跡が起こるはずもなく、とりあえず生活費を稼ごうとパチンコ店に足を運ぶが惨敗に次ぐ惨敗。

 今日は全財産の数万円を握りしめて人生逆転を狙って挑んだ大勝負だったが、あっという間に残り1万円を割り込んでいる始末だ。


「わかったわかった。わかったから。ほんとにわかったから。マジでわかった、というか最初からわかってたから。だからもういいって。ほら、な? 当たらないんだろ? ほら……わかってるから。全部、マジでわかってるから」


 九頭武尊は壊れた機械のように呪文を唱え始めた。

 その声は、爆音が鳴り響くパチンコ店では誰の耳にも入らないが、そもそも誰かに聞いて欲しくて唱えているわけではないのだから何も問題ない。


《Drrrr-a.a.a.A-ARE!?→……》


「ッファいしゃキタ……ッッッ!?」


 パチンコ玉の一つがチェッカーと呼ばれる抽選の入り口に入った瞬間、アホを煽り立てる眩い光と爆音に合わせて、心臓に悪いバイブレーションが筐体から発せられる。


 わかっていたとしても、その演出に期待してバカ丸出しの奇声が漏れ出てしまう。


「来いっ……! 来いっ……!」


 ガンギマリの血走った眼球には、赤く燈る液晶画面が映し出される。

 その後すぐに、今度は金色に燈るイルミネーションが光り輝く。


「金イルミッ……! あるあるあるある、全然あるよ!? 当たっていいよ!?」


《Drrrr-a.a.a.A-ARE!?→-YOU!!↑》


「キタキタキタキタ、金文字チャンスアップ!!」


 バカを楽しませるには十分な演出。

 どうしてコイツのテンションが上がっているのか、一般人大多数には到底理解できないだろう。


 束の間の歓喜も数秒で意気消沈し、数十分後には全財産を吐き出し、九頭武尊は無一文の状態でトボトボと歩いていた。

 青年の足取りは重く、顔はひどくやつれており、寝不足でもないのに目の下には薄っすらとクマができているかのようだった。


「……人生詰んだってやつ?」


 これからどうするか以前の問題で、今日食べることすらできない現実が彼に襲いかかる。

 昨晩、今朝、それから昼と何も口にしておらず、思い出したかのように、ぐぅーと虚しく腹が鳴った。


 終わった、THE END、完。という言葉がよく似合う顔で歩いていると、これまで意識したことのない鳥居の前で自然と足が止まった。


 馬鹿デカイ朱色の鳥居には、これまた馬鹿デカイしめ縄が掛けられており、その荘厳な佇まいに気圧された九頭武尊は何を思ったのか(何も思っていない)、()()へ一歩踏み出した。


 こんな場所に神社なんてあっただろうかと考える前に、九頭武尊の頭では妙案を閃いた。


「……神社っつーことは、賽銭箱あるよな」


 ゴクリ、と乾いた喉を鳴らす。

 罰当たりというか怖いもの知らずというか、なんともクズらしい発想である。


「どーせ神様なんていやしねぇんだ。そうさ、神様がいるならこんな目に遭っているはずがない」


 そんな自己中心的な思考を巡らせながら、参道を奥へ奥へと進んで行き、社殿の前にある賽銭箱らしい木箱に目線を落とす。


 しかし、クズなりに善悪の判断は持ち合わせていたようで、ほんの少し静止していたかと思うと、今度はどこか吹っ切れた顔で空っぽの財布を賽銭箱に投げ入れ、パンパンと二度手を叩いた。


「大量の出玉お願いします!」


 心の中で、できれば5万発くらい、と付け加える。

 御神前で何を言うか、とは誰も言ってくれない。

 それもそのはず、()()()()()のだ。


「なんかいいことした気分だ」

 

 アホほど能天気な言葉とともに翻り、どこからとなく舞ってくる桜の花吹雪に包まれる。

 春だなあ、とかアホなりに考えている。

 振り向けば、先ほどまで認識していなかった――というよりも存在すらしていなかった竹林の中に一人立っていた。


「ん?」


 もう一度振り返る。

 ない。ない、ない、ない。ついさっき財布を投げ入れた賽銭箱も神社もない。

 認識が一致しているのは、最初に足を踏み入れた馬鹿デカイ朱色の鳥居が変わらずあるだけで、人気どころかあらゆる生き物の気配すら感じない静かな竹林の中に、九頭武尊はただ一人立っていた。


「……どゆこと?」


《Drrrr-a.a.a.A-ARE!?→-YOU!!↑-READY-!!!???→↑》


 困惑する青年の耳に、いつしか聞いたパチンコの大当たり濃厚の確定演出が流れる。


 Are you ready!?-準備はできているか?-

 時を同じくして、人を魅了する魔女のような囁きを、何処かの誰かが聞いていた。

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