第01話 片頭痛
側頭部に、ズキズキと脈打つような痛みを感じる。
目を覚ました俺、橘美鶴は、ぼんやりと目をあけて、壁に掛かった時計に目を向ける。時刻は真夜中。曇っているのか、カーテンの隙間から窓には、暗闇しか映らない。
片頭痛持ちの俺にとって、突然の頭痛を感じることは珍しくはない。だが今日の痛みは、いつもの頭痛とは違った。
(またか…)
少しだけ物思いにふけり、俺はベットから起き上がった。
部屋の壁際には、大きめの本棚が天井近くまでそびえている。その本棚には本だけでなく、雑貨やカラーボックスなども置いてあり、ある種の飾り台となっていた。雑貨の大半は、総合商社勤めで海外への出張や単身赴任の多い父が、ゆく先々で買ってきた民芸品(中米産の木彫りの置物、北米先住民の陶器、中東のエスニック柄の編み物など)が占めている。
そういうものを買い集めることが父の趣味であったが、今はで俺の趣味の一部になっている。間違えてほしくないのだが、買い集めることが俺の趣味というわけではない。子供の時は全く興味がなかったが、買い与えられて行くうちに愛着がわき、オブジェとして本棚に飾るようになったのだ。眺めているだけで、実際には行ったこともない国に行った気分になれるので、今ではその父からのいただきものを幾分か気に入っている。
本棚の隣には引き出しのないシンプルなパソコンデスクが並んでおり、その上には電源がついたままのノートパソコンと描きかけの絵を映したペンタブレットが煌々と明かりを放っていた。
俺はパソコンの電源を落とすために、デスクに近づいた。
暗順応してない目がノートパソコンの傍で、一瞬だけ小さく輝いたものを捉える。それは一つのネックレスだった。
紐は革製。ペンダントトップには、模様があしらわれ、小さな宝石が埋め込まれた金細工のネックレス。前述のものと同様に、父から貰ったものだ。
女性物のような見た目で、身に着けるには少し恥ずかしかったが、これだけは部屋に飾らずに常に肌身離さずに持ち歩いていた。ある理由から…。
(…ん?)
直感的に違和感を感じた俺はネックレスを手に取った。
金属製ではあるものの、ネックレスについている金細工は光沢がない。ノートパソコンのモニターが点いているとはいえ、光を感じるほどの反射はしないように思える。それが光ったと思ったのだ。
そうだ。寝る前に父からこのネックレスに関しての与太話を聞かされ、あることが気になって、眠くなるまで調べものをしていたのだと思いだす。刹那、数時間前の一コマが胸に浮かんだ。