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コンカフェで働いてたら村を救った話  作者: たこやき風味
コンカフェで働いてたら村を救った話
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9. 改革の話

 私はお店の裏にある倉庫にいた。


「やった! 使えそうなものがたくさん!」


 桶、クワ、鳥よけ、いろいろな農具がほこりをかぶっている。

 野菜と一緒に売ろうとしたけど、売れ残ったらしい。


「何に使うんだ? 畑でも作るきか?」


 農具のほこりを払いつつ運び出そうとしている私に、ステッキが尋ねてきた。


「食堂に飾るの。まあ見てて!」


 この農具を使う許可はすでにもらってある。

 私は倉庫と食堂を何往復かして、すべての農具を食堂に運び入れた。



 よーしっ! やるぞっ!


 まずはテーブルの配置換え。

 まばらに置かれていたテーブルを店の中心にまとめ、壁周りの空間を空ける。

 その空間にいい感じに農具を展示していく。


 あーでもないこーでもないと展示作業をしていると、またおばちゃん店員がやってきた。


「今度は何をやってるんだい?」


「この農具を店内に展示するんです。村の畑や農作業の雰囲気を表現したくて」


「へぇ、ほかの店じゃあまり見ない感じの飾りつけだね。おもしろいね。私にも手伝わせておくれよ」


 おばちゃん店員が私と一緒に農具の展示作業を始めた。

 すると、他の店員たちが私たちの様子を見て集まってきた。


「なになに? 楽しそう!」

「あーこれ、売れ残ってたやつじゃん!」


 店員たちのひとり、ちょっとギャルっぽい店員が話しかけてきた。


「あたしにもなにか手伝わせてよ!」


「えっと、それじゃ、みなさんにはこれを!」


 私はエプロンのポケットから色とりどりのチョークを取り出した。

 ギャル店員が、手に乗せたチョークを覗き込む。


「これ、チョーク?」


「はい、チョークです。これで、店内の壁に村の畑の絵を描いてほしいんです」


「えっ!? 壁に!?」


「はい! 絵の上手下手は関係ないです。みなさんの《思い出の畑》をおもいっきり描いてください!」


 私の言葉に、店員たちの目が子供のようにキラキラしはじめる。

 そして次々にチョークを手に取ると、店内の壁に大きく畑の絵を描き始めた。


「子供の頃、畑が遊び場だったんだよねー」

「俺、よく盗み食いして怒られた!」

「肥溜めに落ちたっけ……」


 店員たちが思い出話をしながら、チョークで顔や手が汚れるのも気にせず楽しそうに畑の風景を描いていく。

 私とおばちゃん店員も農具の展示作業を続けた。


 その後もみんな夢中になって作業をして――


「やった!」

「すごい!」

「これ、あたしたちでやったんだよね!?」


 食堂の中に、村の畑が現れた!


「……できた……」


 私から安堵(あんど)のため息が漏れた。

 最初は『なんとかしなきゃ』という思いだけで始めたけど、最終的にはみんなも協力してくれて、こんなに素敵なお店が完成した。

 正直、うれしいというよりも、ほっとした気持ち。



 店員のみんながわいわい言いながら店内を見て回る。


「この農具、作業順に並んでるのか。なるほどなー」

「あたしの描いた畑見てよ! いろんな野菜が大豊作なんだから!」

「農具と畑の絵が組み合わさって、まるで村の畑にいるみたいだ!」


 みんな楽しそう。

 これならきっとお客さんにも喜んでもらえるはず!


 と、そこへ、二人組の女性が尋ねてきた。


「あのー、すみません。この野菜って、このお店で食べられるんですか?」


 二人は入り口に展示された野菜を興味深そうに見ている。

 やった! 早速お客さんがきた!


「いらっしゃいませ! もちろんです! どうぞこちらへ!」


 私に案内されて店内に入る二人。

 一歩足を踏み入れたその瞬間、


「うわぁ! なにこれ! すてきなお店!」

「壁の絵かわいい!」


 二人は感嘆の声をあげた。

 それを見た店員たちは、お互いの顔を見合わせて笑顔でハイタッチ!

 ただの食堂が《村の畑の新鮮野菜食堂》に生まれ変わった瞬間だった。



 二人組のお客さんを接客しているところへ、買い出しを終えた息子さんが戻ってきた。


「そろそろ村に帰るぞ!」


 息子さんが食堂の入り口からひょいと店内を覗く。


「すごいな、ずいぶん見違えたな」


 店内を見渡している息子さんに、おばちゃん店員が今までの出来事を興奮気味に説明し始めた。


「みんなで協力して、店の中の飾りを村の畑みたいにしたのさ。これ、全部お嬢ちゃんのアイデアなんだよ。すっごく楽しくってさ、すっかりやる気が出ちゃったよ!」


「へぇ。おまえ、やるじゃないか」


「私はちょっとアイデアを出しただけで。私ひとりの力じゃなくて、みんなで頑張った結果なので」


「いや、それでもたいしたもんだ。こんなアイデアなかなかでないぞ?」


「そうだよ。お嬢ちゃんのおかげでみんなやる気になったんだから!」


「あ、ありがとうございます……。そうだっ、村に帰るんですよね! 荷物をまとめてきます!」


 二人に褒められて恥ずかしくなった私は、荷物をまとめるのを口実にその場から抜け出した。



 夕方。

 後ろ髪引かれる思いで、私は買い出しの荷物が積まれた荷台に上がった。

 荷車を引く準備をした息子さんが、見送りに来た店員さんたちに右手を挙げる。


「それじゃ、2日後にまた来るからな」


 荷車がゆっくりと動き出す。

 荷車は小路を抜け、大通りへと出る。


 店員さんたちが大通りまで出てきて私たちに手を振ってくれている。

 私も荷台から手を振り返す。


「落ちるなよ」


「わかってます!」


 私は荷台から落ちそうになりながら、さらに大きく手を振った。




 帰り道。

 ガタゴト揺れる荷台の上。


「あれでよかったのかな」


 ぽつりと独り言。


「どうしてだ?」


 ステッキが私の独り言に返してきた。


「いや、突然来た女の子がやりたい放題やってさ、帰ってったわけじゃない? ちょっと無責任かなって」


「そんなことはないだろう。お前は頑張っていたし、みんなも喜んでいた」


 ステッキが励ましてくれる。今日は優しいな。


「お客さん、いっぱいくるといいな」


「そうだな」


 荷台の上に寝転がり、うす紫になった空を見上げる。

 疲れていた私は、そのまま眠ってしまった。



「起きろ! ついたぞ!」


「あっ! えっ! なに!? どこ!? ここどこ!?」


 一瞬自分がどこにいるのかわからなくなり、あわてふためく。


「おまえ寝ぼけてるな。ここは村だ。ついたぞ」


 荷台で寝落ちしていた私は、積荷とともに村へと運ばれていた。

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