8. 食堂の話
販売所と食堂はのれんで隔てられていて、直接行き来ができるようになっていた。
「お手伝いに来ましたー」
そう言いながらのれんをくぐり、食堂へと入る。
食堂のフロアは広めで、4人掛けのテーブルが3セット、まばらに配置されている。
それと2人掛けのテーブルが2セット、壁沿いに置かれていた。
全体的にがらんとした印象。
そして、昼食の時間帯なのにお客さんはだれもいなかった。
路地に面した扉からひょいと顔を出して、大通りに近いレストランの様子を伺う。
レストランはお客さんでいっぱいみたい。並んでいる人もいる。
改めて食堂を見渡す。だれもいない。
いったいこの差はなんなんだろう。
味?
味は間違いなくおいしいはず。村の野菜はすごくおいしいし。
今もいい匂いがしている。
値段?
テーブルの上にあったメニューを見てみる。
こっちの通貨はよくわからないけど、なんか普通っぽい。
立地?
これは正直あんまりよくないかも。
大通りに面していないし、路地のちょっと奥だし。
やっぱり立地なのかな?
そういえば、私がバイトしているコンカフェも細い道を入った先にあって、そこまでいい場所じゃなかった。
けど、いつもお客さんでいっぱいだった。
なぜならメディアにも取り上げられたりして、結構有名なお店だったから。
もちろん食堂とコンカフェじゃお店自体が違うけど、知名度が大切っていう点では同じはず。
お店を知らなきゃお客さんは来ないわけだし。
知名度か……こっちの世界にも、宣伝ができるメディアみたいなのってあるのかな?
こればっかりは一筋縄ではいかなそう。
実は、食堂に入ってもうひとつ気になっていることがあった。
それは、店内の雰囲気。
フロアの広さに対してテーブルの数が少ないせいか、だだっ広く感じて落ち着かない。
壁も薄茶色一色。そこに小さな窓があるだけ。
料理がイメージできるものがなにもないから、どんな料理が食べられるのかもわからない。
一緒に店内を眺めていたステッキが、
「旨い料理が食えそうな店には見えないな」
私が言いづらかったことをはっきりと言った。
そう、このお店でおいしい料理を食べられる気がしないんだよね。
お客さんがいないから、店員も暇そうにしている。
はじめてのお客さん、絶対入りづらいと思う。
「ちょっと、このままだと厳しいよね」
うーん。
あっちの世界のお店をいろいろと思い出しながら考えを巡らせる。
そういえば、コンカフェは月替わりでお店のテーマを変えていた。
あんなにコロコロとテーマを変えていたのに、お客さんはいつでも楽しそうだった。
逆にそれがお店の売りになってたくらいで。
なんでなんだろう……?
――そうか!
お客さんに《お店のテーマ》が伝わるように、衣装、店内、言葉遣い、すべてを総合的にプロデュースしてるんだ。
お客さんが入店した瞬間《世界観に引き込まれる》そんな店づくり。
店長すごいじゃん! 今更ながら尊敬!
うん! 食堂のコンセプトを明確にしてアピールすれば、お客さんを増やせるかもしれない!
私は早速行動を開始した!
◇
のれんをくぐり、販売所に戻る。
「すみません、ここに売っている野菜で、食堂で料理として提供されているのってどれですか?」
先ほどの女性店員に尋ねる。
「えっと、これとこれと、あとこれ、これもかな」
女性店員がいろいろな野菜を指さす。
私はその野菜を次々とカゴに入れた。
「その野菜、どうするの?」
「食堂の入り口に並べるんです」
「入り口に並べる? 野菜を?」
女性店員は首を傾げている。
「ありがとうございます!」
首を傾げたままの女性店員に一方的にお礼を言うと、カゴを抱えて食堂へと戻った。
「このテーブル、使っていいですか?」
壁に寄せてあった2人掛けのテーブルを指さして、近くにいたおばちゃん店員に尋ねる。
「どうしてだい? そのテーブルはあんまり使わないから、別にいいけど」
「ありがとうございます!」
私のことを不思議そうに見ているおばちゃん店員を横目に、テーブルを持ち上げる。
「よいしょっと……」
テーブルを持ったまま、よちよちと歩きながら路地側の食堂入り口の前へと移動する。
通行の邪魔にならないこの辺りに置いて、と。
「ふぅ……。さてっ」
そのテーブルに、販売所から持ってきた野菜を並べる。
カゴを利用して、新鮮でおいしそうな感じで。
さらに、元からテーブルに置いてあったメニューを野菜の横に開いて置く。
「よしっ! 完成っ!」
そこへ、おばちゃん店員が様子を見にやってきた。
「へー、おもしろいことするね。これはあれかい? 『この野菜はここで食べられますよ』ってことかい?」
「そうなんです! 『村特産の新鮮野菜を使ったおいしい料理が食べられます』ってことです!」
よしっ! おばちゃん店員に意図が伝わった!
「それと……あの……」
……ちょっと言いづらいけど……この勢いで言っちゃおう。
「村特産の野菜、すっごくおいしいです! 村長さんのお宅で何度もごちそうになって、食べるたびに感動しました! 元気をもらいました!」
突然熱っぽく話し出す私に、おばちゃん店員がきょとんとしている。
「だから接客とかも、今より元気があった方がお客さんに野菜の魅力が伝わると思うんです! 村の人も村の野菜も元気いっぱい! っていうかなんというか、その……」
突然お店にやってきた女の子が、村の野菜について熱弁している。
そう思ったらちょっと冷静になってしまい、話がしりすぼみになってしまった。
そんな私の話を聞いていたおばちゃん店員、
「ふっ、はっはっはっはっ!」
突然大声で笑いだした。
「あんたの言うとおりだわ! 野菜から元気をいっぱいもらってるあたしたちが元気がないんじゃ、そりゃだめだわ!」
「あ、はい、そうなんです! この野菜を食べると元気になるんです、心も身体も!」
よかった! わかってもらえた!
ウンウンとうなずくおばちゃん店員。
そして、
「よしっ! 今日から元気だしていくよ! みんなもほら!」
他の店員や厨房に大きな声で活を入れた。
その瞬間、店内の雰囲気がちょっと変わった気がした。
だけど、私の食堂改革はこれだけでは終わらない。