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コンカフェで働いてたら村を救った話  作者: たこやき風味
コンカフェで働いてたら空を飛んだ話
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2. 廃村の話

 小鳥のさえずりで目を覚ます。

 ここが素敵なペンションだったら最高の目覚めなんだけど、背中の痛みが真っ先にそれを否定してくる。


「やっと起きたか」


 ぼんやりと青空を眺めていたら、ステッキが私の顔を覗き込んできた。

 ゆっくりと上半身を起こし、辺りを見回す。辺りは木々に囲まれ、その先には朽ちた家々が見える。

 どうやら、私は道の真ん中でひと晩中気を失ってたらしい。ふかふかのベッドどころじゃなかった……。

 ――そうだ!


「あの女の子は!?」


「お前が気を失ったあと、どこかへ行ってしまった。それっきりだ」


「ってことは、本当に幽霊だったってこと!?」


 改めて気を失いそうになる。

 倒れかけた私の頭をステッキが慌てて押さえた。


「いちいち気を失うな。ここはお前の世界とは違うんだ。魔物だっている。幽霊くらいいても不思議ではないだろう」


 ……うん、たしかに。

 こっちの世界に来てからというもの、あっちの世界では考えられないことばっかりだったっけ。

 今もこうしてステッキと話してるし、もしかしたら幽霊くらいいるのかも。そんな気がしてきた。


「もう大丈夫。一晩中見張っててくれたんだよね? ありがとう」


 ステッキにお礼を言いつつ立ち上がると、辺りに放り投げた荷物やランタンを拾う。

 荷物は盗まれてないみたいだし、ランタンも壊れてない。よかった。

 リュックの土埃を払い、背中に背負う。


 さてと。


 森から続く道は、朽ちたゲートへと伸びている。

 ここって、廃村かなにかかな?

 こんな場所地図にはなかったよね?

 けどなんなんだろう、すっごく気になるような。


「ちょっとだけ中を見てみよっか?」



 ゲートをくぐった先は広場になっていて、中心には石で組まれた井戸。

 その広場を囲むように、ぽつぽつと家が建っている。

 家の数は……ここから見た感じだと6、7件くらい? そこまで大きな村ではなさそう。

 そして人の気配はない。


 井戸の中を覗き込む。

 暗くてよく見えないけど、井戸の底にぼんやりと自分の影が映った。

 顔を上げ、周りを見回す。

 朽ちた家々の窓がこっちを見ているような気がして、背筋がスッと寒くなる。やっぱりちょっと怖い。


 気を取り直して、近くの家へと向かう。

 扉が外れた玄関から中を覗き込む。家の中は薄暗くてよく見えない。


「誰かいませんかー?」


 家の中に向かって叫ぶ。

 ――返事はない。


「やっぱり誰もいないか」


 家が崩れるかもしれないから、中に入るのはやめておこう。

 慎重にその場を離れると、私は広場へと戻った。



「ちょっと見た感じだと、やっぱり誰もいなさそうだよね」


「そうだな。やはり廃村だな」


 うーん。


「もう少し調べてみようか?」


 次はどの家を調べようかとキョロキョロしていたそのとき、

 

「あれ? 何かおいしそうな匂い?」


 くんくん、くんくん。

 何かを焼いているような香ばしい匂い。


 どこから香ってくるんだろう?

 さらに鼻をくんくんさせる。


「こっち……かな?」


 私は匂いのする方へと向かった。


 ちょうど村の正面ゲートから見て反対側。

 朽ちた家と家との間に路地が続いていた。


「この先から香ってきてる?」


 家の陰になって薄暗い路地。道に面した窓がちょっと怖い。

 けどその雰囲気には似つかわしくない、いい香りが漂ってきている。

 私は香りに誘われるように路地へと入った。


 薄暗い路地を進む。日中も日陰になっているせいか、空気が湿っぽい。

 路地はそこまで長くはなく、すぐに開けた場所に出た。


「なにこれ! すごい!」


 目の前に広がる広大な黄金色の畑。吹き抜ける風が穂をさざ波のように揺らしている。

 路地から続く道は、広大な畑へと伸びていた。


「なんの畑なんだろう?」


 道を辿って畑に近づく。

 あぜ道から落っこちないように注意しながら、穂を観察する。


「これって、麦?」


 あっちの世界の小麦みたいな植物。

 しっかりと実の詰まった麦穂が、風に吹かれてさらさらと音を立てている。

 再び小麦畑を見渡す。黄金の絨毯が、視界のはるか先まで続いている。


「廃村の裏にこんな畑が広がってるなんて……」


「あれ? 昨日の人?」


 壮大な小麦畑に見とれていると、突然後ろから声をかけられた。ビクッと肩をすくめる。

 恐る恐るゆっくりと振り返ると、そこには両手で水の入ったバケツを持った少女が立っていた。


『あっ! 昨日の夜に出会った女の子!』


 夜の記憶がよみがえり、体が硬直する。

 そんな、カチンコチンになっている私に、キョトンとした表情で少女が尋ねてきた。


「こんなところで何をしてるの?」


「え、あ、えっと、なんかいい匂いがして来てみたら、畑が広がってて、すごいなって⋯⋯」


 少女の問いにしどろもどろに答える。

 その答えに、少女の表情がぱっと明るくなった。


「すごいでしょ! この畑、わたしの自慢なの!」


 そのあどけない笑顔に、緊張が少し和らぐ。そして、無意識に言葉がこぼれた。


「うん、本当にすごい。こんなに立派な畑見たことない」


 私の言葉に、少女の瞳がキラリと光った。


「でしょでしょ! 毎日頑張ってお世話してるからね!」


 畑を指さし、嬉しそうに飛び跳ねる少女。


「この畑って、あなたがお世話してるんだ。って、この広大な畑をひとりで!?」


「うん!」


 ……この広大な小麦畑をひとりで管理するなんて、どう考えても無理だ。

 少女の表情とは真逆の顔で畑を眺める。すると突然、少女がぱんっと手をたたいた。


「そうだっ! ちょうどパンが焼けるところだから、あなたにご馳走するわ! こっち! きて!」

 

 私の返事を聞かず、バケツの水を揺らしながら少女が歩き出す。


「どうしよう。ついていっても大丈夫かな?」


『ぐぅぅぅ』


 私の疑問に、私のおなかが答えた。



    ◇



 小麦畑の中にぽっかりと開いた円形の土地。そこに建つ小さな家。

 レンガ作りのような壁に、かやぶき屋根。ちょっと独特な造り。

 煙突からは煙が上がっている。


「ここよ」


 少女が家の中に入っていく。


「おじゃまします」


 私も続けて家に入る。


 家の中はわりと広めのワンルームになっていた。

 テーブルにベッド、キッチン。かわいい感じの部屋には不釣り合いな立派な石窯。

 そして、部屋中にパンの焼けるいい匂いが漂っていた。


「どうぞ、座って」


 少女に促され、椅子に座る。

 テーブルの上には小さな花瓶があって、一輪の花が活けてある。

 部屋から何から全部かわいい。


 キッチンでは、少女が手慣れた手つきで石窯から次々とパンを取り出している。

 私もパンを焼いたことはあるけど、本格的な石窯で焼いたことはないな。


 そんなことを考えていたら、目の前にパンが盛られたカゴが置かれた。

 てっぺんが十字に開いたまんまるのパンや、しましまに開いた長細いパンなどなど。

 香ばしく焼き上げられた石窯パンの数々。


「おいしそう!」


 思わず声が出る。


「でしょ? 自信作なの」


 少女が私の前にマグカップを置いた。

 湯気を上げた白い飲み物が入っている。ホットミルクかな?


 少女は再びキッチンへ戻ると、淡い黄色の液体が入ったシロップピッチャーを持って戻ってきた。

 それらをテーブルに置くと、私の正面に座った。


「どうぞ! 召し上がれ!」


「いただきます」


 少し緊張しつつ、マグカップの飲み物をひと口ふくむ。

 うん、やっぱりホットミルクだ。


 さてと、どのパンにしようかな――よしっ、まずはこの丸いやつから。


 丸いパンを手に取り、半分に割る。

 ぱりぱりと心地よい音で裂けるパン。

 中からふわっと湯気が上がる。


 まずは何もつけずにひと口。

 うん! 表面はパリパリ、中はしっとり。そして口の中に広がる小麦の香り。

 何もつけなくてもおいしい!


 次はシロップピッチャーの中身をパンにかける。

 同時にハチミツのような甘い香りが漂う。


 シロップのかかったパンをこぼさないように慎重に口に運ぶ。

 しっとりとしたパンがシロップを吸って、じゅわっとした食感。

 素朴な甘さがすっごくいい!


 そこへ再びホットミルクをひと口。

 んー! この組み合わせ、最高っ!


「どう? おいしい?」


 さっきまでの恐怖心を完全に忘れてにっこにこでパンをほおばる私に、少女が尋ねてきた。


「おいしいよ! すっごくおいしい!」


「よかった!」


 私の言葉に、少女の顔もにっこにこになる。

 その笑顔に見守られながら、私はパンをほおばり続けた。

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