11. 歩行者天国の話
「聞いたよ! ホコウシャテンゴクの話!」
開店準備中の店内。
床を掃きながらサラさんが話しかけてきた。
瑠璃がほうきで床を掃く手を止め、両手でぐーを握る。
「はい! 以前お約束した歌と踊りもそこで披露する予定なので、是非見に来てください!」
「もちろんさ! っていうか、実は私もステージに申し込んでてさー」
「えっ!? そうなんですか!? 意外!」
隣で二人の会話を聞いていた私、思わず声をあげる。
「なんだいその言い方。私だって昔は歌手を目指したことがあったんだよ」
サラさんがほうきの柄で私の腕をつつく。
ごめんなさいごめんなさい。
再び床を掃きながら、サラさんがちょっと照れくさそうに続ける。
「いやさ、ホコウシャテンゴクってやつに歌を披露する場があるって聞いてさ。なんかうずうずしちゃってさ」
たしかにサラさんの声は綺麗だし、うるさい酒場の中でもしっかりと声が通る声量がある。
その声で歌ったらどんな感じになるんだろう。
サラさんの歌、聴いてみたいな。
「私もお二人のステージを見に行きたいんですけどね。当日は露店を出すことになっていまして」
マスターがカウンター越しに私たちの会話に入ってきた。
そういえば、この酒場も歩行者天国に出店するんだったっけ。
露店の申込を処理しているときに申込書を見たよ。
……けど、サラさんも瑠璃もステージがあるし、私は運営のお手伝いがあるし、マスターひとりで大丈夫なのかな?
「当日はマスターひとりでお店をやるんですか? それだと大変なんじゃ」
「そこは大丈夫です。実はホール担当として働いてくれる人が見つかったんですよ。当日はその方が入ってくれます。お店のことは気にせず、皆さんはそれぞれの場所で楽しんでください」
「あたしもその人に会ったけど、気さくで明るくて、いい子だったよ。それに、前にも同じような店で働いたことがあるって言ってたから、きっと大丈夫さ」
新しい店員さん見つかったんだ! よかった!
私たちもずっとここで働き続けられるわけじゃないから、心配してたんだよね。
「さてさて、おしゃべりはここまでです。もうすぐ開店の時間ですよ。開店準備を終わらせてください」
「はーい」
私たちは一斉に開店準備に取り掛かった。
◇
酒場の仕事の帰り。
私と瑠璃は宿に向けて大通りを歩いていた。
歩行者天国の入り口には大きなゲートが作られ、外灯や街路樹には飾り付けが行われている。
「なんか、あっちの歩行者天国とはちょっと違う感じかも。すっごく気合入っちゃってる」
そう言って私は飾り付けが進む町を見上げる。
「そうですね。けどこの感じ、とってもわくわくします!」
瑠璃も町を見上げる。
あれから私たちは何度か町長さんや町役場の人たちと打ち合わせを行っていた。
大通りのお店への協力依頼、ステージや飾り付けを行う業者の選定、露店の手続き、ステージ参加の手続きなどなど。
初めてのことばっかりだったからもっと難航するかと思ってたのに、話はとんとん拍子で進んで――
大通りのお店の協力もあっさりと得られたし、ステージを作る業者もすぐに見つかった。
っていうか、協力を申し出る人が連日役場にやってきていた。
いったいどこから聞きつけたんだろう?
そして、気が付けば歩行者天国は町全体を巻き込んだ一大イベントになっていた。
特別な観光や産業がある町じゃないから、今回みたいなイベントがずっとなかったっていうのが大きいみたい。
この数日のことを思い出しながら歩いていると、歩行者天国の突き当たりに着いていた。
ステージエリア。
道の横には製作途中のステージが置かれている。
当日はこれが道の正面に置かれて、いろいろなパフォーマンスが行われることになる。
「この世界にきて、まさかこんなことになるなんて夢にも思いませんでした」
瑠璃はそう言うと、作りかけのステージへと近づいていく。
「本当だよね」
私はステージを見上げる瑠璃の隣に立ち、一緒にステージを見上げた。
◇
歩行者天国当日。
大通りの正面に作られたゲートにお客さんが次々と吸い込まれていく。
通りは今までにない賑わいを見せていた。
私もお客さんに紛れてゲートをくぐる。
まず、ゲートをくぐった先にあるのが露店エリア。
このエリア、準備がけっこう大変だった。
露店の申請を開始したら、思いのほかいろんな種類のお店の申請がきちゃったんだよね。
食べ物を売るお店、道具を売るお店、工芸品を売るお店、などなど。
だから、売り物で配置を分けることにした。食べ物を売る露店と、それ以外の露店。
ゲートの近くに食べ物系の屋台を配置して、その先にそれ以外の屋台を配置。
まずは食べ物のお店でお腹を満たしてもらって、その後に道具や工芸品のお店をゆっくりと見てもらう、という流れ。
逆だと食べ物につられて素通りしちゃうかもしれないからね。
食べ物露店エリアにもひと工夫。
テーブルと椅子を設置して、お客さんが露店で買った食べ物をその場で食べられるようにした。
もちろん食べ歩きもいいんだけど、座って楽しみたい人もいるしね。
あと、ゴミ捨て場を設けて、ゴミはそこに捨てるように案内も設置。
食べた後の串や包みをその辺に捨てられると通りがゴミだらけになっちゃうからね。
実は、あっちの世界のフードフェスの会場をマネしてみた。
前に肉フェスっていうイベントに行ってみたことがあったんだけど、会場の真ん中にたくさんのテーブルと椅子が設置されていて、お店で買った料理をそこで食べることができたんだよね。
それと、会場横には大きなゴミ捨て場が設けてあって、ゴミはそこに捨てられるようになっていた。
今回、その肉フェスみたいな配置を食べ物露店エリアに取り入れてみたってわけ。
食べ物露店エリアを見渡す。
お客さん、みんなテーブルでおいしそうに食べてるし、食べ終わった人もゴミをゴミ捨て場に捨ててくれてる。
思惑通り、うまくいってるみたい。
次に、食べ物以外の売り物を扱う露店エリア。
魔道具を売るお店や、綺麗なガラス細工のような工芸品を売るお店など、いろんなお店が軒を連ねている。
見ているだけでもかなり楽しい。
どのお店もかなり賑わってる。
お祭りの雰囲気でお客さんの財布も緩みがちなのかな?
ふと、一軒の露店に目がとまる。
その露店には何本もの《光る棒》が並べられていた。
これって、もしかしてペンライト?
どんな仕組みなんだろう。魔道具なのかな?
ちょっと気になってお店を覗こうとしたら、ちょうどお客さんがやってきた。気になるけど、またあとにしよう。
露店エリアの次にあるのが《歩行者天国運営本部》のテント。
会場で発生した問題や急病人の対応、迷子センターなど、多岐にわたる業務を担当している。
たくさんの人が集まるイベントだから、必ずアクシデントが発生する。だけど、嫌な気持ちで帰ってほしくないんだよね。みんな笑顔で帰って欲しい。
第二回があるかはわからないけど、「また行きたい!」って思ってもらいたい。
だから、この運営本部の設置を真っ先に決めた。
運営本部テントの前を通過して、最後にあるのがステージエリア。
前に見たときは未完成だったステージが、本番当日には見事に完成していた。
ステージ自体は地面から1メートルほどの高さがあり、左右にはステージに上る階段が設置されている。
ステージのバックには装飾された文字で「ホコウシャテンゴク」と書かれている。
歩行者天国って書かれてるのはちょっと不思議な感じだけど、まあいっか。
ステージの左右には魔道具の箱が設置されている。
この箱、なんとスピーカーなのです!
こっちの世界にはスピーカーなんて無いって思ってたんだけど、あった。
マイクとセットになってて、マイクに仕込まれたクリスタルに声を当てると、スピーカー側に仕込まれたクリスタルが共鳴して音を鳴らす仕組みらしい。
さらに、録音用のクリスタルに音を記憶させることで、その音を再生することもできる。
これなら幻聴魔法を使う必要もないし、一般の参加者も利用できるってことで、設置してもらった。
けど、レンタル料がかなり高かった!
金貨30枚だよ! 30枚!
そのレンタル料なんだけど、瑠璃が全額支払ってくれた。
廃墟で得たお金がほとんど戻ってきたから、少しでも還元したいんだって。
私も半分出すって言ったんだけどね。
そのスピーカーが、かわいらしい歌声を会場に響かせていた。
見ると、ステージ上で小さな女の子が歌を披露している。
既にステージのプログラムは始まっていて、会場では観客たちが盛り上がっていた。
って、あれ? 観客席の一番前にいるのって、町長!?
いつも険しい顔の町長さんが、今まで見たことがないような優しい笑顔で女の子に声援を送っている。
女の子も歌いながら町長に手を振っている。
もしかして、町長のお孫さん!?
私は町長さんに見つからないように、そそくさとその場を後にした。
さてと、一通り会場の確認も終わったし、私も歩行者天国を楽しもうかな。
ちょっとお昼には早いけど、何か食べよっと。




