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コンカフェで働いてたら村を救った話  作者: たこやき風味
コンカフェで働いてたら魔女に出会った話
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9. 再就職の話

 翌朝。宿併設のレストラン。

 私と瑠璃は少し遅い朝食を食べていた。


「先輩、実は私、お金がないんです」


 パンを小さくちぎって食べる瑠璃。


「さっき全部預けちゃったもんね」


 目玉焼きをつつく私。


 さっきカールラさんが王都支所の人と一緒に宿にやってきて、金貨の箱を持って行ったんだよね。

 あの金貨が瑠璃の全財産だったから、所持金はゼロになった。


 しばらくの間私がお金を出してもいいんだけど……そうだ!


「私、この町の酒場で働いてるんだけど、そこのマスターに瑠璃も雇ってもらえないか相談してみようか? 人手が足りないって言ってたから、きっと雇ってもらえるよ」


「いいんですか!? 是非おねがいします!」


 瑠璃の表情がぱっと明るくなる。


「今日も仕事があるから、一緒に行こう」


「わかりました! よーし、それならしっかり食べないと!」


 瑠璃はパンを大きくちぎって頬張った。

 ハムスターのようにほっぺが膨らむ。


 そんな瑠璃を、両手で持ったスープのカップに口をつけたまま見つめる私。

 瑠璃って、本当にかわいいんだよね。

 ちょっと私に似ているところがあって、感情が豊かで表情がコロコロ変わる。

 一所懸命なところとか、なんていうか、守りたくなる感じ。

 瑠璃の精神属性レベルが高いのも納得だよ。


「どうしたんですか先輩? 食べないんですか?」


「あ、うん、たべるたべる」




 食事を終え、支度を済ませると私たちは酒場へと向かった。

 大通りを抜け、専門店街を抜け、路地へと入る。


 瑠璃が不安そうな表情で私の後ろをついてくる。

 わかるよ。私も初めて来たときは不安でしょうがなかったよ。


 薄暗い通りを進む。

 肩をすぼめ、私の背中にぴったりとくっついて歩く瑠璃。


 やがて、私はジョッキの描かれた扉の前で立ち止まった。


「ここだよ」


「ここ、ですか?」


 瑠璃が扉を見上げる。


「そう、ここ。私が働いてる酒場。お店の中はとっても明るいし、それにお客さんも楽しい人ばっかりだから」


「そう、ですか」


 変わらず不安そうな表情の瑠璃。

 思い返すと、私よくひとりでこのお店に飛び込んだよね。

 こっちの世界に来てから度胸が付いたのかも。


「それじゃ、入るよ」


 私は酒場の扉を開けた。



    ◇



「是非お願いします。こちらとしても大助かりですよ」


 マスターに瑠璃を紹介したところ、二つ返事でオッケーだった。

 大丈夫だとは思ってたけど、雇ってもらえてちょっとホッとした。


「またずいぶんと可愛らしい娘だねー。頼むからこれ以上お店を繁盛させないでおくれよ! ただでさえ忙しいんだから!」


 店の奥からサラさんが出てきた。

 サラさんの冗談にマスターが苦笑いをしている。


「乃神瑠璃っていいます。よろしくお願いします!」


 サラさんにお辞儀をする瑠璃。


「あたしはサラ。よろしくね! となると、制服制服っと」


 サラさんはお店の奥へと戻っていった。



「すてきなお店ですね」


 瑠璃が店内を見渡す。


「でしょ? 私が初めてこのお店に来たときは営業時間中で、すっごく賑わってたんだよ。圧倒されて入り口で立ち尽くしてたら、なんか働くことになってた」


「どういうことですか?」


 瑠璃が首を傾げる。


「どういうことなんだろうね?」


 私も首を傾げる。

 そこへサラさんが制服を持って戻ってきた。


「その話はもう勘弁してよ! 何度も謝ったじゃない!」


 サラさん、いっつも変な冗談言うからね。

 たまにはお返し!


 そんな私とサラさんの会話を聞いて、


「楽しいお店ですね」


 瑠璃がクスクスと笑った。




「いらっしゃいませ!」


 店内に高く澄んだ声が響く。

 瑠璃の元気な声に、お客さんも思わず振り向く。


 早速今日から働くことになった瑠璃。

 働き始めて数時間で、ホールの仕事を難なくこなしていた。


「あなたと同じく、慣れたものですね」


 マスターが感心している。

 うん、私と同じで接客の仕事は慣れてるからね。


 私はマスターから料理を受け取ると、それを待つテーブルへと向かった。

 途中男性二人組が飲んでいるテーブルを横切ったとき、二人の会話が耳に入ってきた。


「例の廃墟、閉店したらしいぞ?」

「本当か? 俺まだ行ったことなかったのに」


 今日はあちこちのテーブルから『廃墟閉店』の話題が聞こえてきていた。

 廃墟が閉店っていうのも変な話だけど。


 けど、これで廃墟騒動も終息するだろうし、あとはカールラさんにお願いした返金対応が終われば万事解決だよね。


「おまたせしましたー」


 私はにっこりとほほ笑んでお客さんの待つテーブルに料理を置いた。


 ん?

 ふと見ると、遠くのテーブルで瑠璃がお客さんと会話している。

 その表情は苦笑いみたいな、複雑な感じ。

 手を左右に振って、会話を切り上げようとしているような。



「何かあった?」


 戻ってきた瑠璃に尋ねる。


「実は……『ミルリーじゃないですか?』って聞かれて。一応否定はしました」


 ステージのときとは衣装も髪型も違うけど、やっぱり顔でバレちゃうか……。

 ちょっと心配はしてたんだよね。


 あ、さっきのお客さん、まだこっち見てる。

 うーん、どうしようかな。


「あっちのテーブルは私が担当するから、瑠璃はこっちをお願い」


 ひとまずあのお客さんがいるテーブルの方は私が担当することにした。

 しばらく様子を見て、もし瑠璃に話しかけてくるお客さんが多くなってきたら対策を考えよう。


「ありがとうございます。いきなり迷惑をかけてしまってすみません……」


「大丈夫大丈夫! お客さんみんな酔ってるし!」


 私はよくわからない理屈で瑠璃を励ました。

 それから閉店まで、瑠璃がお客さんに声をかけられることはなかった。



    ◇



 宿併設のレストラン。

 私と瑠璃は晩御飯を食べていた。


「酒場で働いてみてどうだった? 悪くない仕事でしょ?」


 グラタンみたいな料理のマカロニの穴にフォークを通しながら瑠璃に尋ねる。


「そうですね。皆さん優しいし、仕事も楽しいです。ただ――」


 瑠璃の食事の手が止まる。


「初日から身バレしかけました。今後も同じようなことがあるかもしれないと思うと、ちょっと心配です」


 別に悪いことをしてたわけじゃないし、返金もしてる。

 後ろめたいことはなにもない。

 だけど、仕事中にお客さんに何度も尋ねられたら面倒だよね。


「もういっそのことミルリーとして働くとか? なんて」


「私はそれでもいいんですけど、お店に迷惑をかけそうで」


 そうだよね。

 ミルリー目当てのお客さんが増える可能性もあるけど、あのお店常連さんもいっぱいいるから、ちょっと面倒なことになりそう。


「とりあえず、何か問題が起こる前にマスターには話しておいた方がいいかもしれないね」


「私もそう思っていました。早速明日話してみます」


 その後も食事をしながら身バレ対策についてあれこれ考えたけど、良いアイディアはでなかった。




 翌日、開店前の酒場。

 瑠璃はマスターに事情を話していた。


 噂になっていた廃墟の魔女というのが実は自分のことで、ミルリーという愛称でお店を開いていた。

 廃墟のお店はすでに閉めている。

 お客さんの中に、自分がミルリーだということに気づいている人がいる。

 もしかするとお店に迷惑をかけてしまうかもしれない。


「ここに来たときにきちんとお話すべきでした。すみませんでした」


 瑠璃がマスターに頭を下げる。

 黙って瑠璃の話を聞いていたマスター、


「話してくれてありがとうございます。事情はわかりました」


 そう言うと、にっこりとほほ笑んだ。

 続けて瑠璃にやさしく語りかけた。


「酒場は色々な事情を持った人が集まる場所です。お酒で嫌なことは忘れられる、たとえ一時でもね。酒場はそんな場所なんです。だからルリさんの事情だって、この場所ではさしたる問題ではないんですよ」


 マスターの言葉に、瑠璃は下を向いたまま黙ってうなずいた。

 そこへ、


「こら! マスター! ルリちゃんを泣かせたらダメじゃないか!」


 怒りながらサラさんが倉庫から酒瓶を抱えてやってきた。


「ち、違うんです! これは――」


 うっすら涙の滲んだ目で慌てる瑠璃。

 その様子を見てケタケタと笑いだすサラさん。


「わかってるって! 冗談よ、冗談! マスターの言う通り、ルリちゃんはなーんにも気にしなくていいんだよ。変な客が来たら私がぶん殴って店から追い出してやるから!」


 そう言って酒瓶を振り上げる。


「冗談にならないことはやめてくださいよ!」


 マスターがサラさんをたしなめた。


「それも冗談だって! けど、なにかあったらルリちゃんを守るって言うのは本当だからね!」


 瑠璃に優しい微笑を向けるマスターとサラさん。


「本当にありがとうございます! 改めてよろしくお願いします!」


 瑠璃は二人に深々と頭を下げた。



 それから数日。

 瑠璃とお客さんとの間にトラブルは起きていない。

 私とサラさんが目を光らせてるっていうのもあるんだけどね。


 瑠璃はというと、最初は少し怯えた感じで働いていたけど、今はいつもの元気な瑠璃に戻っていた。


「二名様、こちらへどうぞ!」


 店内に瑠璃の元気な声が響く。



「廃墟の噂は知ってたけど、ルリちゃんがその廃墟の魔女だったとはね」


 ジョッキを下げて戻ってきたサラさんが私に話しかけてきた。


「けどさ、何で『魔女』なんだろうね?」


 うっ! サラさん、へんに鋭い!


「え、えっと、たぶん瑠璃の歌や踊りが素敵すぎて、まるで魔法のようだったんじゃないかなー、なんて」


「そういうことか! あたしも観てみたかったねぇ」


 よかった、私の適当な回答に納得してくれたみたい。


「そうだ! ルリちゃんにこの店で歌ってもらおうよ!」


 ホッとしたのも束の間、サラさんがとんでもないことを言い出した!


「ねえマスター、どうだい?」


 カウンターのマスターに空のジョッキを渡しながらお伺いを立てるサラさん。

 もう! そんな無茶なこと言ったらマスターも困っちゃうでしょ!


「面白いですね! ルリさんさえよければ是非お願いしたいですね!」


 って、マスターも乗り気だし!

 そこへ、料理を運び終えた瑠璃が不思議そうな顔でやってきた。


「私の話をしてましたか? なんか名前を呼ばれた気がしたので」


「実はね――」


 私はここでの会話を瑠璃に説明した。


「えっ!? お店の中でですか!?」


 瑠璃がびっくりしながら店内を見渡す。


「この広さであれば、いくつかテーブルを片づければできそうですね。ステージをやること自体は私は構わないですが……」


 私の方を見る瑠璃。

 うーん。

 事前にカールラさんに確認した方がよさそうだよね。

 ステージをやって問題を起こしたりしたらまた迷惑かけちゃうし。


「カールラさんに確認した方がよさそうだね」


 私は瑠璃にそう言うと、マスターとサラさんに事情を説明した。


「――というわけなので、返事は後日でもいいですか?」


「わかりました。もし舞台をやれそうであれば教えてください。私もルリさんの舞台を見てみたいので」


 さすがマスター。

 詮索なんてしないスマートなお言葉。


「ありがとうございます」


 瑠璃はマスターにお礼を言うと、ホールの仕事へと戻っていった。

 さてと、私もお仕事お仕事。

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