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コンカフェで働いてたら村を救った話  作者: たこやき風味
コンカフェで働いてたら村を救った話
5/50

5. 能力の話

「おなかいっぱい……くるしい……」


「いくら何でも食べすぎだろう」


 ベッドに倒れている私を、ステッキがあきれた感じで見ている。


「なんか最近食欲がすごいんだよね。そこまでたくさん食べる方じゃなかったんだけど」


「魔力の使いすぎだろうな」


「えっ? そうなの?」


「お前、店で一日に何度も魔法を使っていただろう。それに、こちらの世界へ来るためにゲートも開いたしな。魔力が枯渇したんだ」


 魔力って使うと減るのか。

 なんかゲームみたい。


「魔力を回復するためには大量のエネルギーが必要だ。そのために無意識に食べる量が増えたんだろう」


 そうだったんだ。

 最近食べすぎかなーって心配してたけど、ちょっとほっとした。

 カロリーが魔力に変換されるなら太らないよね? ね?



 さてと、ステッキとおしゃべりしてたらお腹も落ち着いてきたし、水浴びに行ってこようかな。


 私は奥さんが用意してくれたタオルと着替えを持って部屋を出た。


 一階の奥にある水浴び用の部屋。

 浴室みたいな部屋で、外からは見えない作りになっている。

 寒い季節にはお湯を使うらしいんだけど、今の季節は水で身体を洗うんだって。

 ちょっと冷たいけど贅沢は言えないよね。


 仕事に行く前にシャワーを浴びてからだから……ほぼ二日ぶりの入浴。

 まさか『あー、早くお風呂入りたい』がこんな盛大な振りになってたなんて。



 さっぱりして部屋に戻った私は、再びベッドに転がり込んだ。

 天井を見上げ、ここまでの出来事を振り返る。


 コンカフェの仕事が終わりかけたところで、魔法少女のコスプレがコスプレじゃなくなって。

 お手洗いがゲートになって、知らない村に来て。

 村のみんなに警戒されて、けど誤解が解けて。

 おいしいご飯をお腹いっぱいごちそうになって。

 水浴びしてさっぱりして。

 知らない部屋でくつろいでる。


 なんなのこれ?

 振り返ってみたけどさっぱりわからない。

 けど、ひとつだけわかることがある。


 この村はピンチだってこと。


 王都に魔法使いの派遣を要請したって言ってたけど、たぶん魔法使いはやってこない。

 だって、もう王都に魔法使いはいないから。


 でも、村長さんも村の人たちもそのことを知らない。

 私から教えてもいいけど、信じてもらえるかもわからないし、それに知ったところで状況は変わらない。


「どうしたらいいんだろ」


 なんかちょっと胸が苦しくなって、まくらをぎゅっと抱いた。




 コンコン……コンコン……


 ドアをノックする音で目が覚めた。

 まくらを抱えたまま寝落ちしてたみたい。


「どうぞ」


 寝ぼけた声で返事をすると、そっとドアが開いた。

 そこには奥さんが立っていた。


「夜遅くにごめんなさい……」




 真夜中の部屋。

 私はベッドに腰かけ、奥さんはテーブル横の椅子に座っている。


 少しの沈黙。

 やがて奥さんが口を開いた。


「……主人は死ぬ覚悟なんです」


「えっ!?」


 奥さんの話に言葉を失う。

 どういうこと!? 死ぬ覚悟って!?


「昨日最後の家畜が襲われて、ついに村から家畜がいなくなりました。こうなると、次に襲われるのは……」


 なっ!!

 そんな状況で、やってきたのが王都の魔法使いじゃなくて、へんなカッコの魔法少女……。

 どう返していいかわからず、無言になる私。


 奥さんが続ける。


「主人は狩人でした。今は村の代表を務めているので狩りには出ていませんが、村に魔物が現れるようになってからは、毎日欠かさず武器の手入れをするようになりました」


 元狩人。そうか、だからあんなに体格がいいんだ。


「主人以外に魔物と戦った経験のある人はこの村にはいません。主人は村の代表として、最後までひとりで村人を守る覚悟なんです」


 うん、あの優しそうな村長さんならそうする気がする。

 けど、


「……なんでその話を、私に?」


 私は王都から派遣されてきた魔法使いじゃない。それは二人に説明した。

 それなのに、なんで私に。


「なぜでしょうか……もしかしたら……」


 奥さんは言葉を詰まらせた。


 次に魔物が現れたとき、主人が魔物に殺されるかもしれない。

 奥さんの『もしかしたら』という言葉、間違いなく(わら)にもすがる気持ちの表れだ。


「あの……」


『私にできることがあれば』って言いかけたけど、言葉にできずにうつむく。

 自分が魔法少女なのかもよくわかっていない、何ができるのかもわからない。

 それなのに無責任なことは言えない。

 そう思ってしまったから。


「ごめん……なさい。こんな話を……してしまって……」


 奥さんが声を詰まらせながら私へ謝る。

 私は奥さんの泣いている顔を見ちゃいけない気がして、


「いえ……」


 うつむいたまま力なく返事をした。



    ◇



 眠れない。眠れるわけがない。

 私はベッドで枕を抱え、右へ左へと転がっていた。


「で、どうするんだ?」


「どうするって、じゃ逆に聞きますけど、私は何ができるんですかっ!?」


 ちょっとすねた感じでステッキに聞き返した。

 私だってどうにかしたいよ!


「お前は魔法が使える」


「魔法って、料理がおいしくなるやつでしょ!?」


 それはわかってる。料理はおいしくできる。

 そうじゃないんだって!


「敵を攻撃するやつ! そういうの使えないの!?」


「そうだな……お前の持つ能力をきちんと調べていなかったな」


 私のぷんぷんした問いかけに、冷静に答えるステッキ。


「よし、今から調べるぞ」


 ステッキがふわっと浮き上がり、私にゆっくりと近づいてきた。

 先端のダイヤが私のおでこに触れ、ぼんやりと光りだす。

 なんかちょっと暖かい。


 しばらくして、先端の光が消えた。


「よし、完了だ。お前の魔法属性レベルが分かったぞ」


「魔法属性? レベル? なにそれ?」


 私の質問に、やれやれという感じでステッキが答える。


「魔法属性っていうのはだな――」


 ステッキの説明によると――

 魔法には属性がある。炎の魔法は炎属性、水の魔法は水属性、みたいな。

 魔法は元となる魔法属性のレベルで使える魔法の種類や強さ、効果なんかが決まるらしい。

 たとえば、炎で攻撃する魔法なら炎属性レベルが高ければより強力な炎が出せる。

 なるほどね。


「それでどうなの? 私ってどれくらいのレベルなの?」


 合格発表を聞くようなドキドキ感。


「まずは、料理属性Lv.48」


 私の《料理をおいしくする魔法》って、料理属性なのか。なんかそのままだな。

 けど、48!? 48ってかなりレベル高そう! 高いよね!


 私が料理属性レベルの高さに喜んだのもつかの間、


「炎属性Lv.0、水属性Lv.0、雷属性Lv.0、土属性Lv.0――」


 レベルゼロが続く。


「以上だ。料理属性は上位魔法使い級だな」


「他の属性は?」


「言った通りだ。料理属性以外はレベルゼロだ。レベルゼロは、その特性を持たない、ということだ」


「あの、攻撃できるやつとかは――」


「ないな……」




 無言の時間が流れていた。


 私はベッドで枕を抱きかかえたまま横になっている。

 ステッキは椅子に立てかけられた状態で黙っている。


 しばらくして、


「悪かったな……お前が魔力を持っていることに興奮して、能力についてまで考えが及ばなかった」


 ステッキが申し訳なさそうな口調で話しかけてきた。


「いえ、ダイジョウブです……」


 結構ショックを受けている私がいた。

 たぶん、奥さんの話を聞いていなければここまでショックを受けなかったと思う。


 自分の無力さがつらい。

 なんでお料理以外の魔法が使えないの?

 私、魔法少女なんでしょ!?


「あのさ、特訓とかしたらさ、他の魔法も使えるようになるの?」


「特訓や経験によって新たな魔法を得ることは可能だ。だが、元となる魔法属性レベルがゼロだと、その魔法は使えない」


 そっか。そう言ってたよね。特性を持たないって。

 それにもし仮に使えるようになるとしても、今から修行してたら次の魔物の襲来には間に合わない。


 どうすればいいんだろ。


 ……そうか、そもそもの話だ。

 私、魔法少女かどうかもよくわからないままこっちの世界に来たんだった。

 魔法が使えなくたって、それはあたりまえ。

 だから普通の人として、この村を救う方法を考えればいいんだ。

 うん! そうだ!


 なんか胸の痛みみたいなやつが、ふっと消えた気がした。

 よしっ! 村を救う方法を考えよう!


 何かいい方法……何かいい方法……私はそのまま寝落ちした。

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