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コンカフェで働いてたら村を救った話  作者: たこやき風味
コンカフェで働いてたら魔女に出会った話
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2. 酒場の話

 店の奥の部屋。

 薄暗いその部屋には、たくさんの酒樽や食材が積まれている。

 ここは、倉庫?


 きょろきょろしている私に、女性店員がきれいに畳まれた服を渡してきた。


「はい、これが制服ね」


 渡された制服を広げてみる。

 北欧の伝統衣装みたいなデザインで、赤を基調としたちょっとかわいい感じの衣装。


「あの、これって?」


「だから、制服だって。ほら、そこで早く着替えて」


 女性店員が指さす先には、ついたてで仕切られた簡易的な更衣室があった。


「えっと、あの」


「ほら! 早く!」


「あ、はいっ」


 私は急かされた勢いで更衣室へ入った。


 試着室程の広さの更衣室。

 壁には姿見が取り付けられている。


 腰から外して床に置いたステッキが小声で話しかけてきた。


「あの女、なにか勘違いしているんじゃないのか?」


「たぶんね。私を新しく入った店員と勘違いしているとか、そんな感じじゃないかな」


 今着ている服を脱ぎ、渡された制服へと着替える。

 鏡に全身を映して確認。

 うん、ちゃんと着れてるっぽい。サイズもぴったり。


「お店、忙しそうだしさ。ちょっと手伝ってあげようかなって。危険もなさそうだしね」


 くるくる回りながら最終チェックをする私。


「お前がそれでいいならば、俺はかまわないが」


 ちょっと怪訝そうなステッキを腰に装着して、更衣室を出た。



「着替えました」


「うん、似合ってるね。それじゃ行くよ!」


 私は女性店員に連れられてホールへと戻った。




「こっちにも酒だ!」


「はーい! ただいまー!」


 カウンターでジョッキを受け取り、テーブルへと運ぶ。

 案の定、私は女性店員と一緒にホールの仕事を任されていた。


「おーい! 注文頼む!」


「お待たせしました! ご注文をお伺いします!」


 店内はほぼ満席なのに、マスターと女性店員、私の三人で回している状態。

 これ、店員の数足りてないよね!?


「店員さん! こっちもたのむ!」


「はーい!」


 ジョッキを運び、注文を取って、料理を運び、空いた皿を下げる。

 そんな忙しい時間が閉店まで続いた。




 閉店後の後片付けが終わり、カウンターの明りだけが灯った静かな店内。

 一息ついていると、女性店員がお茶の入ったカップを渡してきた。


「おつかれさま」


「おつかれさまです。ありがとうございます」


 カップを受け取り、お茶を一口飲む。

 女性店員がカウンターに肘をついて、ふーふーとお茶を冷ましながら尋ねてきた。


「あんた、かなり慣れてるね。この仕事したことあるの?」


「はい。接客の仕事を長い期間やっているので、多少は慣れています」


 ホールの仕事、普通にこなしちゃってたからね。

 あっちの世界でもこっちの世界でもかなりやってます。


「それはいいね! あんたみたいな人がこの店に入ってくれるなんて、大助かりだよ!」


 女性店員の表情がぱっと明るくなった。


 あー、そんな顔されると言い出しづらいなぁ。

 けど、はっきり言わないと。


「あの、私、店員として来たんじゃなくて、お客として来たんですが……」


 女性店員の目が大きく見開き、口が大きく開く。


「あっえっ? なっ!? えっ!? ほ、本当!? あんた、求人に応募してきた人じゃないの!?」


 動揺からか、女性店員の持つお茶が少しこぼれた。


「はい。お店に入ったら突然着替えさせられて……」


「あー! やっちゃった!」


 女性店員が手で目を覆いながら天を仰ぐ。

 そして、


「完全にあたしの勘違いだった! ゴメン!」


 私に向けて両手でゴメンのポーズをとり、煙が出そうな勢いで手をこすり合わせた。

 そこへ、店の奥からマスターがやってきた。


「またやったのですか? 何度も言っていますよね、もう少し落ち着きなさいって」


 マスターは冗談っぽく女性店員の頭にグーにした手を乗せる。

 女性店員がテヘっと舌を出す。


「すみませんでしたね。こんなことになってしまって」


「あ、いえ、大丈夫です。接客の仕事は好きなので」


 マスターがカウンター裏の引き出しを開けて何かを取り出し、それを私の前に置いた。

 これは、金貨?


「今日の賃金をお支払いします。少なくてすみませんが」


「いえ、ありがとうございます。いただきます」


 受け取った金貨を鞄にしまう。


 さてと、お茶を飲んだら帰ろうかな。

 私はカップに残ったお茶を飲み干した。



「それじゃ、私はこれで失礼します」


 着替えを終え、二人にお辞儀をして帰ろうとすると、マスターが私を呼び止めた。


「相談なのですが、この店で働いてはみませんか?」


「えっ? 私がですか?」


「ええ。先日ホール担当が二人も辞めてしまって、困っていたのですよ。あなたの働きぶりを見ていて、ぜひ店の手伝いをしてもらえたらなと」


 そっか、だから店員が足りない状態でお店を回してたんだ。

 あの状況じゃ、私がいなかったら絶対無理だったと思う。


 うーん、どうしよう。


 今は貯金もあるし、廃墟の調査もしなくちゃいけないし。

 よし、あとでステッキと相談して決めよう。


「あの、返事は明日でもいいですか?」


「もちろんいいですよ。良い返事を待ってます」


 にっこりとほほ笑むマスター。


「それじゃまた明日来ます。失礼します」


 私はマスターと女性店員にぺこりとお辞儀をした。



    ◇



 宿に併設されたレストラン。

 私は少し遅い晩御飯を食べながら、さっきの話をステッキに相談していた。


「どうしよう。マスターも困ってたみたいだし」


「働くべきだな。かなり好都合だ」


 私の相談に、ステッキは即答だった。


「好都合って?」


 お肉に添えられたブロッコリーみたいな野菜をフォークでつつきながら、ステッキに尋ねる。


「店員として働いていれば、堂々と情報収集ができるだろう」


 ステッキの言葉に、フォークを持つ手に力が入る。

 ブロッコリーが半分に割れた。


「なるほど! そうだよね! 町で聞き込みしたりコソコソと調べて回るよりかなり効率がいいよ!」


 あれだけ人が出入りする酒場だもん!

 きっと廃墟の情報も手に入るはず!


「明日すぐに酒場に行って、マスターに返事をしよう!」


 調査に行き詰まりかけてたから、この展開は悪くないかも!

 初日から聞き込みでうんざりしてたし。

 よし! なんかやる気出てきた!


「すみませーん! お肉のお代わりお願いします!」


 私はお皿のお肉をほおばった。




 翌日、私は酒場の制服に着替えて開店準備をしていた。

 サラさんは鼻歌まじりで嬉しそうにテーブルを拭いている。


「まさか、あんたが本当に働いてくれることになるとはね!」


 そうそう、さっき改めて自己紹介したんだよね。

 前に来たときはお互い名乗らずに帰っちゃったから。

 改めて、店員の《サラ》さん。


「旅の途中なので期間限定ですけどね。それまではよろしくお願いします」


 隣のテーブルを拭きながら答える。


 昨日の返事をする前に、マスターに『私は旅の途中でこの町には立ち寄っただけ』って話をした。

 そしたらマスター、それでもいいから働いてほしいって。

 だから『新しい店員を雇うか、私が旅に出るまでの間』という条件で働くことにした。


「期間限定でもありがたいよ。こっちは忙しすぎて毎日目を回してたんだから」


 サラさんが頭をくるくる回しながら笑う。

 二人で談笑しながらテーブルを拭いていると、マスターがカウンターから顔を出した。


「そろそろ開店の時間ですよ。急いでください」

 

「はーい!」

「はい!」


 二人で急いでテーブルを拭き上げる。

 椅子をきちんと並べて、と。

 店内の準備は完了!


 私は入口の扉へ向かい、鍵を開けた。


「開店しますね!」


 扉から顔を出す。

 店の前には結構な数のお客さん。

 聞いた話によるとこのお店、居心地がいいということで結構人気のお店らしい。


「おまたせしました! 開店です!」


 私の声に、ぞろぞろとお客さんたちが店内に入ってくる。

 そして、あっというまにテーブルのほとんどが埋まった。


 よし! お仕事と廃墟の情報収集開始!

 私は両手でほっぺを軽くたたいて気合を入れた。



 今日もお店は大賑わい。次から次へと注文が入る。

 私とサラさんは休む間もなくテーブルを行き来していた。


 働きながら情報収集なんて考えてたけど、それどころじゃない忙しさ。

 お客さんの会話を聞いている余裕なんてない。


 昨日もかなり忙しかったけど、今日はさらに忙しい!

 そんな中――


「――お前、廃墟の――」


 賑やかな店内の音に紛れて「廃墟」という言葉が耳に入ってきた。

 すぐにその言葉が聞こえてきた方を向く。

 そこには三人組のお客さんがお酒を飲んでいるテーブルがあった。


 私は怪しまれないようにそのテーブルへと近づくと、三人の会話に聞き耳を立てた。


「知ってるも何も、この前行ってきたぜ!」

「俺も!」


 えっ? 行ってきた!?

 その話詳しく聞きたい!

 さらにテーブルに近づこうとしたそのとき、マスターが私を呼んだ。


「料理ができましたよ。運んでください」


 あー、いいところだったのに!


「はーい、ただいま!」


 私はカウンターに料理を受け取りに向かう。

 料理を受け取ると急いで廃墟の話をしているテーブルへと戻り、その横をゆっくりと歩いた。


「――カネはたくさん持って行った方がいいぞ! それと――」


 またお金の話をしてる!


 私は聞き耳を立てつつテーブルの横を通過して、料理を待っているお客さんのテーブルへと向かった。

 立ち止まって聞くわけにいかないから仕方ないんだけどさ。『それと』って何? 気になる!


 気持ちだけをそのテーブルに残したまま、笑顔で料理をお客さんのテーブルへと置く。


「おまたせしました!」


「ありがとうな。おや? お嬢ちゃん、けっこう可愛いな」


 テーブルの男性がまじまじと私の顔を見る。


「ありがとうございます!」


 にっこり笑顔で返す私。

 コンカフェでもこんな感じの会話はあるから、この手の会話は慣れてるんだよね。


 そんな私の顔をじっと見つつ、首を傾げる男性。


「いや、廃墟の娘の方が可愛かったかな?」


 ちょっ! 酔ってるとはいえ、ちょっと失礼じゃない!?

 本人の前で他の女の子と比較するなんて――

 って、えっ!? 廃墟の娘!?


「あの! 廃墟の娘って!?」


 私の勢いに男性がたじろぐ。


「お、おお。俺の言い方が悪かったな。謝るよ」


 違う違う!

 比較されたことを怒ってるんじゃなくて!


「廃墟に女の子がいるんですか!?」


 申し訳なさそうにしている男性に言葉を変えて質問し直す。

 完全に怯えている男性。


「あ、ああ。いるよ。すごくかわいい感じの娘が」


 よしっ! 魔女の情報ゲット!

 この仕事(まだ二日目だけど)頑張ってよかった!


 もうちょっと詳しく知りたくて、さらに男性に質問する。


「あの、その女の子って、どんな――」


「注文たのむ!」


 質問の途中で、後ろのテーブルのお客さんから注文のリクエストが入る。

 笑顔のままで眉間にしわが寄る私。

 あーもー! やきもきする!


「はーい! ただいまー!」


 私は表情と身体の向きをくるりと変えた。



 それからも忙しい時間は続いた。

 たまに聞こえてくる「廃墟」という言葉に敏感に反応しつつ、ホールの仕事を次々とこなす。

 結局その日は「廃墟に女の子がいる」という情報しか得ることができなかった。


 仕事を終えた私は、疲労でふらつきながら宿へと戻った。

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