8. 討伐作戦の話
それから数日後、私は村のとある家のキッチンにいた。
テーブルには肉、魚、野菜、ありとあらゆる豪華な食材が並ぶ。私は早朝から〝美味しく作れる魔法〟をフル回転させて、これらの食材で豪華な料理を作り続けていた。
そこへ――
「奴らが来ました!」
村民の格好をした兵士が私に知らせてきた。
キッチンの窓から外の様子を伺う。
村の広場に設営された宴会会場。そこへ、もじゃもじゃの髭をたくわえたかなりかっぷくのいい男が、何人かの手下を連れてやってきた。
男が椅子にどかっと座り、大股を開く。あの男が海賊の船長だ。
「こんなしけた村の飯なんて食えたもんじゃないが、お前らがわざわざ準備したってんだ、味見ぐらいしてやるよ!」
げらげらと下品に笑う男。周りの手下達も一緒に笑っている。
なんなの? 見てるだけでムカムカする! こんな奴らに食べさせる料理なんてない! けど作戦のためだから、仕方ない。
「それでは、料理を運んでください」
村民に変装した兵士たちに指示を出す。
「わかりました!」
兵士たちは料理を次々と宴会会場へと運んだ。
ローストビーフ、スペアリブ、魚のグリルなどなど――テーブルの上いっぱいに、ありとあらゆるご馳走が並ぶ。
げらげらと笑っていた海賊たちは全員無言になり、目の前の料理にくぎ付けになった。
「「ゴクリ……」」
静まり返る会場に、海賊たちの鳴らす喉の音だけが響く。
そして、
「お、おお、おお。な、なんだ、ちっとはうまそうじゃねぇか」
引きつったような苦笑いの船長。そんな船長に、綺麗なドレスで着飾ったカールラさんが葡萄酒の入った瓶を持って近づく。
「さ、どうぞ」
「お、おう」
彼女が船長の持つジョッキに葡萄酒を注ぐ。
「お口に合うかはわかりませんが、是非楽しんでくださいませ」
「そ、そうだな。どれ、味見してやるか」
船長は一口葡萄酒を飲んで口を潤すと、目の前にある肉料理にフォークを突き立てた。そして、きらきらのソースが垂れる肉を口へと運ぶ。
次の瞬間、船長の目が大きく見開いた。
「……なん、じゃ、こ、りゃ!?」
肉を飲み込みながら、途切れ途切れの言葉をなんとか発する船長。再びフォークを肉へ突き立て、口へと運ぶ。
肉を噛みしめ、葡萄酒を一口、そして――
「うまい!!」
船長が叫んだ。それを横で見ていた手下たち。
「キャプテン! 俺たちも食っていいッスか!? 食っていいッスよね!? 食うッス!!」
手下たちは船長の返事を待たずに一斉に料理を食べ始めた。
「おい! お前ら! それは俺のだ!」
船長の制止も聞かず、手下たちが料理をがっつく。
「うまいッス!」
「こんな料理初めて食った!」
「酒もってこい!」
船長と手下たちがすごい勢いで料理を平らげていく。カールラさんや村の女性たちがジョッキに葡萄酒を注ぐ。葡萄酒の樽も次々と空になっていく。
おっと、こうしちゃいられない! 次の料理を作らないと!
私はキッチンに戻り、次の料理に取り掛かった。
料理の皿が片づけられたテーブルに両足を上げ、
「げふっ。うまかった」
とても満足そうに、さらに大きくなったお腹をさする船長。手下たちもみな椅子に座りぐったりとしている。
しばらくして、船長がそばに立っているカールラさんへ尋ねた。
「こんなうまい料理を作るやつは誰だ? そんなやつこの村にいたか?」
きたっ!
「はい、先日捕らえられた女性です。彼女は料理人なのです」
「そうだったのか。おい! そいつを連れてこい!」
よしっ!
気合を入れ、私は船長の元へと向かった。
「あの、お料理はお口にあいましたでしょうか」
「そうだな。まあまあだな」
さっき『うまい!』って叫んでたよね? どれだけ負けず嫌いなんだ? この船長。
「ありがとうございます」
私は深々と頭を下げた。
「お前を連れて行く。俺の船で料理を作れ」
「はい、仰せのままに」
悲壮感を出しつつ、返事をする。
「それと女、お前もだ」
船長がカールラさんを指さす。
「ご一緒いたします」
私たちの態度にとても満足そうな船長。
「女が集まってないなんてぬかしやがるから、見せしめに子供を何人か殺してやろうかと思ってたが、勘弁してやる! なかなかの上物が手に入ったからな!」
物騒なことを言いながらげらげらと笑った。
◇
浜辺に着けられた海賊の小型船に、村人が次々と食材を運び込む。
例のキノコは、海賊たちにバレないように下処理をして別の袋に入れてある。その袋を食材に紛れ込ませて、船に持ち込む手筈になっていた。
食材の積み込みが終わると、最後に私たち二人も小型船に乗せられ、船は浜辺を離れた。
海上を船が進む。やがて、沖合に停泊してある海賊船が見えてきた。近づくにつれ、船体がどんどん大きくなる。真っ黒な船体に、巨大なマストが3本立っている。
海賊船はかなりの大きさだった。
「海に落ちるなよ」
手下に促され、小型船から海賊船へと乗り移る。
船内は思っていたよりも綺麗で、壁にはサーベルが飾られている。あちこちにランタンが灯っていて、かなり明るい。
船内の廊下を進む。しばらくして、
「この部屋だ。入れ!」
私たちはどこかの一室へ入れられた。
外から扉に鍵をかける音。やっぱり自由には動けないか。
カールラさんと部屋を見回す。
ベッドが二つ。トイレとお風呂もある。ちょっとした客室みたいな部屋。丸い窓からは水平線が見える。
「案外いい部屋ですね。てっきり牢屋とかに入れられるのかと思ってました」
窓の外を見ながら言った私の言葉に、
「そうね。すぐに私たちを売り飛ばすつもりはないようね」
壁の装飾品を眺めている彼女が答えた。
カールラさんがお酌するお酒を飲みながら、私の料理を食べる。きっとまたあれをやりたいんだよね。その料理人や美女が牢屋で煤だらけってのもね。
なんて、船長の考えを勝手に想像する。
しばらくして、扉の鍵を開ける音がした。扉が開き、ひとりの手下が部屋へと入ってきた。
手下は右手に綺麗なドレスと装飾品、左手には使用感のある作業着を持っている。
「お前ら、これに着替えろ。化粧はそこの化粧台を使え」
綺麗なドレスをカールラさんへ、作業着を私へと差し出す。うん、そうだよね。私はこっちだよね。
「またあとで来るからな。それまでに支度をしておけよ!」
手下が部屋を出て行く。扉には再び鍵がかけられた。
「とりあえず着替えますか」
高級そうな真っ青なパーティードレスは、細身の彼女にとても似合っていた。装飾品も高級感が漂う。
そんな姿に私が見とれていると、鏡で後ろ姿を確認している彼女が冷めた口調で言った。
「きっと盗品よ」
着替えを終えた彼女は化粧台に座り、引き出しを開ける。興味本位で横からのぞき込む私。
引き出しの中には高そうなメイク道具が一式揃っていた。
「すごいですね……」
私もコスプレのときにいろいろなメイクをするけど、こんなに種類は持ってない。
けど、これも盗品なんだよね、きっと。
お互い身支度を終え、手下が呼びに来るのを待つ。やがて、扉の鍵を開ける音。
――決戦の時が来た。




