5. 探し物の話
「驚かせちゃってごめんなさいね」
そこには、昨日お風呂で話しかけてきたあの女性がいた。青い色をした薄手のローブのような服装。金色のストレートロングヘアー。色白で緑色の瞳。お風呂場では湯気でよくわからなかったけど、かなりの美人。
「あなたに用があってね。一緒に来てくれないかしら?」
私が寝ている間に他人の家に忍び込むなんて、ただでさえ怪しさ満点なのに、一緒に来いって!? 私は目の前の彼女へと疑心の目を向けた。
すると、彼女が驚くべきことを口にした。
「あなた、大切なものを無くしたわよね? 困ってるんじゃない?」
「えっ!?」
彼女の言葉に、困惑した表情のまま固まる私。その私に微笑みを向ける彼女。
彼女はステッキのことを知っている? もしかして、ステッキのありかも? ……ということは、盗んだのは彼女?
急に目の前にいる彼女が怖くなる。私は震えそうな声をなんとか抑え、彼女に尋ねた。
「もしかして、ステッキのことを知っているんですか?」
「ええ、そうね。知っているわ」
彼女はあっけらかんと答えた。動揺する様子はない。そんな彼女に、私は思い切って尋ねた。
「ステッキを盗んだのは……もしかして、あなたですか?」
頑張って発した私の質問に、彼女はくすくすと笑いだした。
「ふふふ。そうよね、この話の流れだもの、そうなるわよね」
そんな彼女の態度に、すこし腹が立ち始める。
「どうなんですか!? あなたが盗んだんですか!?」
私は彼女に詰め寄った。
「私は盗んではいないわ、本当よ! 最初に言ったでしょ。あなたに用があるから一緒に来てほしいって」
私の気迫に押されて、彼女が後ずさる。
彼女の言葉に少し冷静になる。たしかに、彼女は最初から「来てほしい」と言っていた。それに、彼女はステッキのことを知っている。
私は朝からずっとステッキを探したけれど、手掛かりを得ることはできなかった。
――うん、虎穴に入らずんばってやつだ。
「わかりました。あなたと一緒に行きます」
「ありがとう。それでは行きましょうか」
私は彼女と一緒に家を出た。
彼女は村の中を抜け、そのまま村の外へ出る。ヤシの木の森を抜け、やがて見覚えのある場所へと到着した。
そこは私が打ち上げられた浜辺だった。
「ちょっと待っててね」
彼女は砂浜に無造作に転がっている箱をあさり始める。そして箱の中から何かを取り出し、私へ渡してきた。
「はい、これでしょ?」
彼女の手には私のステッキが握られていた。
「ステッキ!」
彼女の手からステッキを奪い取る。
「心配かけたな」
ステッキがすまなそうな声で謝ってきた。
「ぼんどだよぉ! ぢんばいだっだんだからぁ!」
私はホっとしたのと安心したのと、いろんな感情がごっちゃになってすでに号泣していた。そして、ステッキを抱きしめたままその場に座り込んだ。
「見つかってよかったわね」
そんな私の背中に、彼女が優しい声をかけてきた。
「ありがどうございばず……」
しばらくして、やっと落ち着いた私は、彼女とステッキから事情を聞いていた。
「お前が風呂場へ行った後、俺は布に包まれたまま誰かに持ち出されたんだ。飛んで逃げることもできたが、怪しまれると思ってな。ひとまずそのまま捕まることにした。しかし、中から開けられない箱に入れられてな。脱出できなくなってしまった」
そうだったんだ。
ステッキは布に包まれた状態で持ち出された。周囲に少しでも怪しまれないようにするためか。
ん? もしそうだとして、
「あなたはどうして、布に包まれた〝何か〟を〝犯人が盗んでいった〟って思ったんですか?」
「私がお風呂から出たとき、ちょうど犯人がカゴから持ち去るところだったのよ。動きも怪しかったし、もしかして、と思ってね」
そっか。犯行現場を見てたってわけか。
あれ? だけど、
「犯行現場を見たとして、なんで盗まれたものが私のだってわかったんですか? 私がステッキを持っているところを見てないですよね」
「それはね、お風呂屋さんから肩を落として出てくるあなたを見たからよ。それに今日も村中をあちこち探し回ってたわよね?」
ぜんぶ見られてたんだ……ちょっとはずかしい。けど、ステッキが盗まれた状況は分かった。
あとは――
「それで、私のステッキを盗んだ犯人は……?」
ごくり……。
「あなたのステッキを盗んだ犯人はね……お風呂屋さんのおばさんよ」
「えっ!? 店番をしていた、あのおばさんですか!?」
彼女の答えに驚く。
「そうよ。おそらくだけど、お客さんがお風呂に入っている隙にカゴから金品を盗んでいたんでしょうね」
「俺が閉じ込められていた箱にも、いくつもの宝石や硬貨が入っていた」
二人の言葉に、私は愕然とした。普通に店番をしていたおばさんが、まさかそんなことをしているなんて。
ここまで話を聞いて、私の中ですべてが繋がった。
「もしかしてですけど、おばさんを縛って浴槽に入れたのって、あなたですよね?」
「そうよ。あなたのステッキを取り返してあげようと思ってね!」
彼女は早朝にお風呂屋さんに忍び込んで、盗まれたステッキを探してくれていた。
そこにおばさんが出勤してきたので、気づかれないように気を失わせて縛り上げ、浴槽に入れた。
その後、ステッキと盗品を見つけ出した。
見つけた盗品をさっきの箱の中に隠し、私を探し出してステッキを返してくれた。
ということだった。
けど、忍び込んだり気づかれないように捕まえたり、なんでそんなことができるの?
なんか、納得できたようなできないような……。
「この女は精霊魔術師だ」
ステッキからまた新しいワードが出てきた。え? なにそれ? 精霊?
困惑する私に、彼女自身が説明を始めた。
「私は精霊魔術師よ。魔力ではなく、精霊の力を借りて魔術を使うの」
へー、そういうのがあるんだ。
彼女が続ける。
「この村に来てから、ずっと姿を消す魔術を使っているわ。だから村人からは私の姿は見えていない。魔力を持っているからなのか、なぜかあなたには効かなかったけどね」
えっ!? 私の魔力のことを知ってる!? 私の顔が一気にこわばる。
「安心して。ステッキからあなたのことは聞いているから」
「俺からお前のことは説明してある。安心しろ、この女は信用できる。なぜなら――」
ステッキが言いかけたとき、彼女が胸元からペンダントのようなものを取り出して私へ見せた。
ペンダントには紋章の入った、小さいけど立派な感じのプレートが付いている。
「私は《カールラ》。魔法国家イグラルト所属よ。これ以上は機密事項なので詳しい説明はできないけど」
えっ? ステッキと同郷ってこと?
それに国家所属なんて、なんかすごい。
「魔法国家所属のあなたが、なぜこの島に?」
お風呂では旅行って言ってたけど、絶対違うよね?
「実は、ある事件を捜査するためにこの島に来たのよ。そこで相談なんだけど、その捜査に協力してもらえないかしら」
「私が捜査に協力?」
「ええ、ぜひお願いしたいの」
本当は、この話がしたくて私を浜辺まで連れ出したってことか。
協力の内容にもよるけど……ステッキを取り返してもらった恩もあるし、私でできることなら協力したい。
「わかりました、協力します。それで、私は何をすれば?」
「ありがとう! それじゃ早速、捜査内容について説明するわね」
彼女は周りの様子を伺いながら小さめの声で説明を始めた。




