4. 事件の話
「ん……んー……」
何かが聞こえる。
何!? なんの音!?
「……んー……」
人の声?
私は耳を澄ます。
「んー」
お風呂場の方だ! 私は急いでお風呂へと向かった。
「んーんー」
声がだんだんと近づいてくる。
どこ? どこ?
「んーんーんー」
もしかして、浴槽の中!?
浴槽を覗き込む。
空の浴槽の中には、さるぐつわをされて手足を縛られたおばさんの姿があった。
あっ! 昨日お風呂の受付をしてたおばさんだ!
大急ぎで浴槽に降り、おばさんのさるぐつわを外す。
「ぷはー!」
さるぐつわを外されたおばさんが大きく息を吸う。私は続けて手足を縛っている紐をほどいた。
縄から解放されたおばさんが、縛られていた手首をさする。
「助かったよ」
「大丈夫ですか!? いったい誰がこんなこと……」
「それがわかんないんだよ。開店の準備をしていたら、いつのまにか縛られて浴槽の中さ」
おばさんに気づかれないように、意識を失わせて浴槽に運んだってこと!?
そんなこと普通の人にできる!?
魔法とか魔道具ならできるのかな?
こんなときにステッキがいてくれたら……。
って、今はここから出ないと!
私はおばさんに付き添ってお風呂屋さんを出た。
おばさんが縛られていたことはあっという間に村中に知れ渡り、村は大騒ぎとなった。
「怪しいやつはいたか!?」
「こっちにはいないな」
「怖い!」
村人が右往左往している。
村が混乱している中ステッキを探すこともできず、仕方なく私は一度ロニーの家に戻ることにした。
「ただいまー」
……あれ?
「ロニー?」
誰もいない?
キッチンやベッドルームを覗く。
ロニーの母親もいない。
仕事かな? 二人におばさんのことを伝えようと思ったんだけどな。
まあ、村は大騒ぎだから、もう伝わってるとは思うけど。
それからしばらく待ってみたけど、二人が帰ってくる様子はなかった。
これ以上待っていても仕方ないか。
おばさんを縛った犯人も見つかってないからちょっと怖いけど、早くステッキを探さないと。
私はロニーの家を出た。
◇
再び村の広場。
あれから時間が経って、村の混乱はだいぶ落ち着いていた。
けど、村全体の雰囲気が少し変わった気がする。ちょっとピリピリしているというか、緊張感が増したというか。
さてと、どこから探そう。
村を見渡す。
家がいっぱいあるけど、人の家に上がり込んで探すわけにもいかないし。
――ふと、村に来たときに見えた大きな建物が目に入った。
あれって、倉庫とかかな?
私は村の奥にある大きな建物へと向かった。
大きな建物の前。この建物だけは他とは作りがが違っていた。壁は赤茶色のレンガでできていて、三階建てくらいの高さ。正面には鉄でできた引き戸がある。
鉄扉の取っ手に手をかけ、力を込める。引き戸はびくともしない。
「開かないか……そうだ! お風呂屋さんのときみたいに裏口があるかも!」
私は建物の裏に回った。けど、建物の裏に入り口はなくて、格子の付いた横に長細い窓が2つあるだけだった。
「あの窓、背伸びをすれば何とか覗けそう」
中の様子だけでも見えないかな。
壁に両手をついて、つま先立ちして中を覗く。うーん、暗くてよく見えないな……。
バレリーナのようにつま先でチョコチョコと左右に動きながら中の様子を伺う。
けど、やっぱり暗くて見えない。
「おいっ! お前!」
「うわっ!」
突然後ろから怒鳴られ、びっくりした私はバランスを崩して転倒した。
ひっくり返った姿勢のまま見上げると、そこにはすごい剣幕で私を睨みつけるおじさんが立っていた。
「お前! ここで何をしている!」
凄い形相で私を睨むおじさん。私は急いで立ち上がり、おじさんに頭を下げた。
「勝手に覗いてごめんなさい! 探し物をしていたんです!」
「探し物だと!? ん? お前、昨日ロニーが連れてきた女か?」
「あ、はい。ロニーの家にお世話になっています」
しかめっ面のおじさん、私を睨んだまま、
「お前はよそ者なんだからあまりうろつくな! ったく」
そう言い放ち、村の広場の方へと戻っていった。力が抜けた私はその場へ座り込んだ。
恐かった……泣きそう。
やっぱり勝手に窓を覗くのはよくなかった。ステッキを探すのに夢中で、ついやってしまった。これからは注意して探さないと。
私はとぼとぼと村の広場へと戻った。
三度村の広場。完全に振り出しに戻った。けど、じっとしていてもステッキは見つからないし、ひとまず探せるところを探そう。
茂みをかき分けてみる。ない。
散歩のふりをしながら村の中を探して回る。ない。
見つからない。そもそも盗まれたかもしれないのに、そんな目につくところに落ちてるとも思えない。
喉も乾いたし、私は一度ロニーの家に戻ることにした。
「ただいま」
やっぱり誰もいない。
私はキッチンへ行くと、水瓶から器に水を汲み、一気に飲み干した。
家の中は静まり返っている。居間に戻った私は、丸い座布団に座ってこれからどうするかを考えた。
ステッキは見つからない……犯人も見つかっていない……ロニーもいない……どうしよう……。
……。
…………はっ!
私は居間で眠ってしまっていた。寝不足と疲労で寝落ちしてた。
もう一度ステッキを探しに行かないと。
寝ぼけながら立ち上がろうとしたそのとき、
「やっとお目覚めみたいね」
「うわっ!!」




