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コンカフェで働いてたら村を救った話  作者: たこやき風味
コンカフェで働いてたら船を沈めた話
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3. 紛失した話

 晩御飯。

 私はお皿とお箸を持ったまま、呆然と空を見つめていた。


「どうした? 食わないのか? ハラでも痛いのか?」


 ロニーが心配そうな表情をしている。


「あ、うん……大丈夫……食べてるよ……」


 お皿のキノコを箸でつまみ、口へと運ぶ。

 キノコの端をちょっとかじる。


「どうだ? かあちゃんの料理は旨いだろ!?」


「うん……おいしいよ……」


 気持ちが沈んで味がしない。

 それに、ステッキのことが気になってまったく食欲がわかない。


「あんまり口に合わなかったかい?」


 そんな私の様子を見て、母親が心配そうに話しかけてきた。


「あ、いえ、おいしいです。すみません、少し疲れてるみたいで」


「そうかい? 今日は早く寝た方がいいね。どれ、寝床を用意するかね」


 母親が食事の手を止めて立ち上がる。


「ありがとうございます。お食事中にすみません……」


 母親が寝床の用意をしてくれている間、ちょっとずつ料理を食べる。


「うん、おいしい」


 味は本当に良くて、元気だったらもっとモリモリ食べたい感じなんだけど。

 だめだ……食事をしてたら本格的に眠くなってきた……。

 今日一日いろいろあったし、ステッキも無くしちゃったしで、精神的にまいってるのかも。


 寝床の用意を終えた母親が戻ってきた。


「用意できたよ。さ、お休み」


「すみません。ごちそうさまでした」


 私は食事を切り上げ、ベッドへと向かった。




 今は何時頃だろう?

 紛失したステッキのことを考えていたら、目が冴えてしまった。

 あんなに眠かったのに、まったく眠れない。


 ステッキがないと魔法が使えないし、こっちの世界の知識もない。

 もし、このままステッキが見つからなかったらどうしよう。

 あっちの世界にも戻れないよね、きっと。

 ステッキがないと魔法が――ベッドの中でぐるぐるぐるぐると同じことを考え続ける。


 不意に、眠れずにいる私のベッドへ、誰かが近づいてくる気配がした。

 こんな夜中に誰?

 近づいてきた人物が、私に小声で話しかけてきた。


「起きてるか?」


 この声は、ロニー?


「うん、起きてるよ。ちょっと寝付けなくて」


「心配だったから、ちょっと様子を見に来た」


「ありがとう。大丈夫だよ」


「そうか。おやすみ」


 気配が去っていく。


 ロニー、優しいな。

 ちょっと安心したら、眠くなってきた……。



    ◇



 翌朝。

 あの後ちょっとは寝られたものの、やっぱり寝不足。

 鏡がないからわからないけど、確実にクマができてると思う。


「おはようございます……」


 台所から顔を出した母親が、ぼーっと起きてきた私を見る。


「おはよう。おや、あんまり寝られなかったかい?」


「はい。ちょっと考え事をしてたら寝付けなくて」


 私は寝ぼけたまま、用意された朝食の前に座った。

 そこへ、ロニーが外から戻ってきた。


「寝ぼけた顔してんなー」


「いきなりひどいなー。たしかに寝不足だけどさ。あ、そうだ。昨日の夜はありがとうね」


 ちょっとぷりぷりしつつ、様子を見に来てくれたお礼を言う。


「気にするなって。さあ、朝飯にしようぜ」


 朝食はパンと目玉焼きみたいな料理。

 あと、あんまり見たことがないフルーツ。

 寝不足で食欲がないけど、昨日の晩御飯もあんまり食べてないから、朝ごはんはちゃんと食べないと。


「マホロ、今日はどうするんだ?」


 目玉焼きをむしゃむしゃ食べながらロニーが聞いてきた。


「うん、実は昨日無くしものをしちゃってさ。それを探さないといけないんだ」


 パンをちょっとずつ食べながら返事をする。


「それは大変だな。探すの手伝ってやりたいけど、俺は仕事があるからなー」


「ううん、大丈夫。自分で探すよ。ありがとうね」


 無くしたステッキのことを考えてしまい、ただでさえない食欲が、さらに失せていく。

 けど、食べないと。

 私はお茶でパンを流し込んだ。



    ◇



 村の広場。


「さてと、どこから探そう」


 ステッキが無くなったのは脱衣所だから、やっぱりお風呂屋さんからだよね。


 お風呂屋さんの前。屋根から湯気は昇っていない。朝はまだ営業してないみたい。

 案の定入り口の扉は閉ざされていて、中に入ることができない。


「裏口とかあるかな?」


 私は建物をぐるりと回り、裏手に回り込んだ。

 建物の裏手。壁に沿って大量の薪が積まれている。


「あった!」


 積まれた薪の右側に赤茶けた鉄扉(てっぴ)がある。ここから中に入れそう!


 扉の取っ手に手をかけ、力を込める。錆がこすれるような音がして、扉が少し開いた。


 鍵はかかってないみたい――よしっ。私は慎重に扉を開けて、中を覗き込んだ。


 部屋の中は薄暗く、壁の上に開けられた穴から差し込む光が、室内をうっすらと照らしていた。その光に照らされて、大きな釜らしきものが見える。薪と釜……そっか。ここのお風呂、温泉とかじゃなくて風呂釜で沸かしてたんだ。


 扉から頭を突っ込んだまま、部屋の中を見渡す。人らしき姿はない。


「ごめんくださーい。だれかいませんかー?」


 声をかけてみる。けど、返事はない。

 仕方ない。


「おじゃましまーす」


 小声で言い、建物の中へと入る。釜と薪のほかにスコップや火ばさみなど、お風呂を沸かすのに使いそうな道具がいろいろと置かれている。そこは銭湯で言うところのボイラー室だった。


 一応ステッキを探す――ない。やっぱりこんなところにはないよね。


 ため息をつきつつ、部屋の中を見渡す。見ると、部屋の奥に扉がある。外から見たときには暗くて気づかなかった。


 ボイラー室の奥にある扉。ドアの取っ手に手をかけ、少し押してみる。


 動く。


 ここも鍵はかかっていないみたい。ダンジョンじゃないし、罠とかはないよね。私はちょっと緊張しながら少しだけ扉を開けた。


 扉の隙間から中を覗く。薄暗い室内。しばらく目を凝らすと、部屋の全貌がうっすらと見えてきた。


「あ! ここって脱衣所の手前の部屋だ!」


 そう、私が勝手に混浴だと思い込んでいたあの場所。見ると、脱衣所に入る引き戸が2つ見える。手前の引き戸が私が入った脱衣所。


「よし、もう一度ステッキを探してみよう」


 私は脱衣所へと向かった。



 昨日とは違い、薄暗い脱衣所。カゴはすべて積まれていて、室内はきれいに片づけられている。

 見える範囲にステッキの姿はない。積まれているカゴの裏や、棚の隙間を覗き込む。


 やっぱりないか……。諦めて脱衣所を出ようとしたそのとき、


「……んー……」


 えっ?


「……んー……」


 何か聞こえた!?

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