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コンカフェで働いてたら村を救った話  作者: たこやき風味
コンカフェで働いてたら船を沈めた話
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1. いきなりピンチな話

全室オーシャンビューの宿に泊まって、テンションは最高潮!

私は買ったばかりの水着で目の前に海に飛び込んだんだ!

あれ? こんなに綺麗な海なのに、なぜか泳いでいるのは私だけ。

そこへ巨大なアレが現れて、大変なことに!

ここはどこ!? 私、どうなっちゃうの!?

「すっごーい! きれーい!」


 部屋の窓から身を乗り出す。

 青い海! 白い砂浜! 眩しい太陽! 風に揺られるヤシの木みたいなやつ!

 私の目に飛び込んできたのは、どこまでも広がる青と白の世界だった。

 この宿、全室オーシャンビューって聞いてたけど、すごい! 想像以上だよ!


「泳ぎたい! 泳ぎに行く!」


 こんなこともあろうかと、水着を買っておいたのだ!

 じゃーん! 鮮やかなピンクのビキニ!

 あっちの世界じゃビキニなんて着ないんだけど、こっちの世界だからね、ちょっと冒険してみた。


「あまりはしゃぎすぎるなよ」


 ステッキがさめた感じでこっちを見ている。


「着替えるからこっち見ないで!」


 って、相手はステッキだから、別に見られてもいいんだけど。

 そんなことを言いつつ速攻で水着に着替えた私は、ステッキ片手に部屋を飛び出した。



 宿を飛び出し、熱々に焼けた砂浜をぴょんぴょんと走り抜け、そのままの勢いで海に飛び込んだ。

 大きな水しぶきが上がる。


「つめたーい! 気持ちいい!」


 波はとても穏やかで、透き通った水面がどこまでも続いている。

 こんな最高な海水浴場、あっちの世界にもなかなかないよ。


 って思うんだけど、私の他に海水浴客が見当たらない。


 こっちの世界って、海で泳ぐ習慣がないのかな?

 けど、水着は売ってたしなー。


 ……ま、いっか。


「よーし! あの岩礁(がんしょう)まで泳いじゃうよ!」


 実は私、泳ぎは得意なんだよね。

 私は息を吸い込むと、海中へと飛び込んだ。



 遠くに見える岩礁を目指して、ゆっくりとしたクロールでのんびりと進む。

 海底にはカラフルな魚が群れをなして泳いでいるのが見える。


 本当に気持ちいいなー。


 浜から岩礁まで半分くらい来たところで一旦休憩。

 海面にぷかぷかと浮きながら、岸の方を振り返った。


 あれ? 砂浜に人が集まってる?

 さっきまで誰もいなかったのに。


 集まった人たちが、私に向けて懸命に手を振っている。


「もしかして、私の泳ぎに見とれちゃった?」


 気分を良くした私は、砂浜の人たちに大きく手を振り返した。

 それを見た人たちが、さっきよりも激しく何かを叫んで手を振っている。

 手を振っているだけじゃなくて、何かを指差しているような?


「ん? なに? 後ろ?」


 私は浜の人たちが指さす方を見た。

 そこには、無数の吸盤がついた鮮やかな赤色の触手(しょくしゅ)が数本、くねくねと踊っていた。


「なにこれ?」


 理解が追い付かず、呆然(ぼうぜん)と触手の盆踊りを見つめる。

 やがて、盆踊りの間から巨大な球体がゆっくりと浮上してきた。


「なんか見覚えのある……」


 そーっと岸の方へと向きを変える私。

 そして、それが完全に浮上するのを見届ける前に、私は全力で泳ぎ始めた!


『なんで!? なんであんなにおっきなタコがいるの!?』


 がむしゃらなクロールで懸命に泳ぐ。

 必死のバタ足に、何かがさわさわと触れた気がした。

 やがて、それが足に絡みついてきた。


『ヤダ! なに!?』


 バタ足が徐々に重くなる。

 足からぬめぬめとした感触が伝わり、腰の辺りがゾワッとする。


『足に触手が絡んでるんだ!』


 何とか逃げようと腕だけで必死に泳ぐ。けど全く進まない!


 足に絡んでいた触手が、徐々に上半身へと這い上がってくる。

 やがて触手が全身を覆い、必死に回していた腕も絡めとられた。

 

 全身を触手で巻かれた私は、そのまま海中から引き揚げられた。



 海上で簀巻(すまき)状態になった私。

 腰のステッキに手を伸ばそうとしても、腕が固定されていて届かない。


「どうしよう。これじゃ魔法も使えない」


 何とか抜け出そうと、触手の中でもがく。

 私の抵抗を、ぬるぬるとした触手が押さえ込んでくる。


「だめだ。がっちり絡まれちゃってる」


 体をひねったりして必死に抵抗していると、徐々に目線が下がり始めるのに気が付いた。

 下を見ると、海面がじわじわと近づいてきている。


 巨大タコがゆっくりと海に潜り始めた!?


「だめだって! このまま潜られたら溺れちゃうって!」


 迫る海面。

 もがく私を全く気に留めず、巨大タコはどんどん海へと沈んでいく。


「すぅぅぅ」


 海面が眼下に迫ったタイミングで、私は思い切り肺に空気を貯めた。

 そして、私は海の中へと引きずり込まれた。



    ◇



「――か。――いじょうぶか?」


 遠くで声がする……気がする……。

 ぼんやりと薄目を開けると、うっすらと空が見えた。


「おい! 大丈夫か!」


 さっきよりも声が鮮明に聞こえる。

 はっきりとしない意識のままゆっくりと起き上がり、声を絞り出す。


「……ここ……は……?」


「気が付いたか!」


 声のする方を見ると、真っ黒に日焼けした少年がいた。

 つんつんの髪の毛に、海パン一枚の姿。

 小学生? いや、中学生くらい? まだあどけなさが残る感じの少年。


 徐々に意識が戻り始める。


「……あれ……タコは……?」


「逃げて行ったぜ! 海藻を取るために潜ってたら、お前がタコに捕まってるのが見えたんだ。とっさにこのナイフでタコの足を刺してやったぜ!」


 ナイフを私に見せながら、へへっと少年が笑う。


「あ、ありがとう。助かったよ……」


 私は少年にお礼を言い、立ち上がる。

 うー、まだちょっとふらふらする。


「とりあえず……宿に……戻ろう……」


 おぼつかない足で、一歩一歩進む。


「それは無理じゃないか?」


 私の足が止まる。


「……え? なんで?」


「お前の宿がある場所は、多分あそこだ」


 少年が指さす方向、海の遥か向こうにうっすらと陸が見える。

 泳いで戻れる感じの距離じゃない。


 少年に現実を突きつけられ、意識がはっきりと戻る。


「えっ!? 私、巨大タコに捕まってこんなところまで運ばれてきたの!?」


 とっさに息を止めたとはいえ、よく無事だったな、私。


「残念だったな。この島には陸まで渡れる船がないんだ。全部あのタコに壊されちまったからな」


 船がない!?

 ってことは、宿に戻る手段がないってこと!?

 私、また宿なしなの!?


 ショックから砂浜にぺたんと座り込み、呆然と海を見つめる。

 日が傾き始めた砂浜に、さざ波の音だけが優しく響く。


 そんな私を見かねたのか、少年が顔を覗き込んできた。


「しょうがねえな。とりあえず俺の村まで来るか?」


「うん! 行く!」


 すっくと立ち上がり、即答する私。

 浜辺にひとり残されてもどうしようもないし、なりふり構っていられないよ!


「よしっ、決まりだな! ついてこい!」


 少年が海と反対側にある森へと向かって歩き出す。

 私は砂に足を取られながら、おぼつかない足取りで少年の後を付いていった。



 ヤシの木みたいな高い木がまばらに茂る森に入る。

 森の中といってもそこまで暗くはなくて、気持ちのいい日陰って感じ。

 南国の鳥みたいな鳴き声も聞こえる。


 私の前を歩く少年が、前を向いたまま尋ねてきた。


「お前、何て名前だ?」


「私? 私はまほろ」


「マホロか。俺は《ロニー》。よろしくな」


「よろしくね、ロニー」


 自己紹介をしながら歩いていたら、突然開けた所に出た。

 壁が木の幹、屋根が葉っぱでできた家が何軒も並んでいる。

 生えている木をそのまま柱に利用した家なんかもある。

 全部で何軒あるんだろう。パッと見ただけでもそれなりの数。

 奥の方には倉庫のような大きな建物も見える。

 村の中心は広場になっていて、キャンプファイヤーみたいな大きな焚火(たきび)が煙を上げていた。


 ここがロニーの住んでる村?


 ロニーに連れられて村の中を進む。

 すれ違う人たちが私のことをジロジロと見てくる。

 私はぺこぺこと会釈しながら歩いた。


 やがて、ロニーが一軒の家へと入っていった。

 私も後に続く。


 中はワンルームになっていた。

 部屋の中心に大きなローテーブル。

 リビングを囲むように衝立(ついたて)で区切られていて、隙間からはベッドやキッチンが見える。

 天井はかなり高い。

 そこは、南国リゾートのコテージみたいな家だった。


 ここがロニーの家なのかな?


「ただいまー!」


 ロニーが元気よく挨拶した。


「おかえり!」


 それに答えるように、かっぷくのいい女性が衝立の裏から現れた。

 ロニーと同じように焼けた肌。

 パーマのような髪型に、大きな瞳。

 優しそうな、おかあちゃんって感じの女性。


「おや、その人は誰だい?」


 私を見た女性がロニーに尋ねた。


「この人、タコに捕まって陸からこの島にきちまったみたいなんだ。困ってるみたいだから連れてきた」


「おやおや、そりゃ大変だったね。ささ、こっちへ来てお座り」


 女性は手をぱたぱたとさせて私を招き、草で編んだような丸い座布団を足元へ差し出した。


「あ、ありがとうございます」


 少し緊張しながら座布団に座る。

 ひんやりとした座り心地が心地いい。


「俺のかあちゃんだ」


 ロニーがその女性を私に紹介してくれた。

 やっぱりロニーの母親だったんだ。


「私はまほろって言います。すみません、突然お邪魔して」


「気にしなくていいよ! そうだ、お茶を出さないとね。それにしてもあんた、あのタコに捕まって無事だったなんてついてるね!」


 母親が台所に戻りつつ発した言葉で、タコの触手に絡まれた感覚が全身に(よみがえ)った。

『無事だった』ってことは、無事じゃないってこともあるんだよね。

 あのままずっと捕まってたら今頃どうなってたんだろう。

 タコのエサ? 海の藻屑(もくず)

 触手の感覚と相まって、全身にぶわっと鳥肌が立った。



「マホロは俺が助けたんだ! とうちゃんのナイフでタコを突いてやった! かあちゃんにも見せてやりたかったよ!」


 ガクブルしている私の横で、ロニーがナイフをキラキラさせながら得意になっている。

 本当だよ。助かったのはキミのおかげ。かあちゃんにも見せてやりたかったよ。


「そりゃたいしたもんだ! きっととうちゃんがお前のことを守ってくれたんだよ」


 台所から母親が答えた。


 二人の会話からなんとなく察する私。

 もしかしてそのナイフって、父親の形見(かたみ)

 複雑な気持ちになっているところへ、母親がお茶を持って戻ってきた。


 私の前にお茶を置く。


「今日は泊まっていきな。たいしたもてなしはできないけどね」


「そんな。泊めていただけるだけでありがたいです。ありがとうございます」


 私は深々と頭を下げた。

 あの村のときと同じように、また人の善意に助けられてしまった。

 しかも今回は完全に私のミス。

 ほんと、しっかりしないと。



「今から晩御飯の支度をするから、それまでに風呂に入ってきちまいな。その子も連れていっておやり」


 母親が壁に下げてある袋をごそごそと探ると、硬貨のようなものを何枚か取り出し、ロニーに渡した。


「行こうぜマホロ!」


 え? お風呂? 一緒に!?


「ほら、早く行くぞ!」


 困惑する私の手をぐいぐいと引っ張るロニー。


「ちょ、ちょっと!」


 私はロニーに強引に手を引かれ、家を出た。

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