13. あの魔法の話
一日の仕事を終え、いつものステーキハウス。
すべてのエネルギーを使い果たした私は、明日への活力を得るためにお肉を食べに来ていた。
「づがれだ……ダンジョン探索の翌日に仕事は無理……」
椅子に座った途端に限界がきて、そのままテーブルに突っ伏す。
「まあ、無理もないな。戦闘で魔力も消費したしな」
ステッキの言葉に、私はガバっと起き上がった。
「そう! それ! 思い出した! あの魔法は何だったの!?」
疲れすぎててすっかり忘れてた!
あの魔法はなんだったの!? さあ! 説明してもらいますよ!
私はぷりぷり怒りながらステッキに詰め寄った!
「ピンチの時に、突然よくわからない呪文を教えられてさ!」
「お待たせしましたー!」
私の言葉を遮るように、鉄板の上でジュージューと音を立て、香ばしいソースの匂いをまき散らしながら分厚いステーキが運ばれてきた。
私の怒りのボルテージと、ステーキの湯気とが激しくぶつかり合う。
……ごくり。
フォークとナイフを手に取り、肉汁あふれるステーキを切り分ける。
そして、大きく切った一切れを口に放り込んだ。
「わたしは……もぐ……おいしい……わけがわか……んないし……もぐもぐ……」
「まずは落ち着いて飯を食え。宿に戻ったら説明してやる」
「もぐ」
ステッキの呆れたような声に、私はステーキを頬張りながらうなずいた。
◇
食事を終え、お風呂にも入って、私は宿の部屋に戻った。
お腹もいっぱいになったし、さっぱりもしたしで、ぷりぷりしていた気持ちもだいぶ落ち着いていた。
けど、これとそれとは話が別。きちんと説明してもらいますからね!
「なんであのとき、あんなに強力な炎の魔法が使えたの? 私、炎属性Lv.1なのに」
「いや、お前は炎の魔法を使っていない」
え?
だって、ステッキから炎が出てたよね?
「それじゃ、あの魔法はなんなの?」
「あれは料理魔法だ」
「料理魔法って、いつものやつ? おいしくなるやつ?」
「そうだ。いつもの魔法だ」
まったく分からない。
ステッキから炎が出たし、その炎で牛が燃えた。
どう考えても炎の魔法だよね。
「もう少し分かるように説明してよ」
「慌てるな。きちんと説明する。あれはな、《属性合成》という技だ」
「ぞくせいごうせい?」
首を傾げる私。
ステッキが説明を続ける。
「お前が得意とする《料理を旨くする魔法》に対して、《小さな炎を出す魔法》を掛け合わせた。お前の料理を旨くする魔法はとても強力だ。そこに炎の魔法を合成することで、《炎の料理魔法》に変化させたんだ」
うーん。なんかちょっとだけ理解できたような……。
「えっと、料理みたいな感じ? ベースの魔法に他の魔法でアレンジを加える、みたいな?」
「お前らしい解釈の仕方だな。まあ、そのようなものだ」
なるほど。なんとなく理解できた。
あくまでもベースは料理魔法なんだ。
だからあのとき牛がおいしくなったんだ。
納得した。
納得したけど、
「なんであんなピンチのときに教えたの? もっと早いうちに教えてくれればよかったのに!」
「お前、あの魔法を町の近くでぶっ放す気か? 制御できるかもわからない状態で」
うっ、たしかに。
牛一頭がまるまるステーキになる威力。
もし町の近くで暴走でもしていたら……。
あのときはダンジョンの中だったから、仮に失敗しても被害は最小限で済んだはず……。
「そういうことだ。お前の魔力は十分に高いが、魔法の扱いはまだ初心者だ。殺傷力のある魔法ともなると、軽い気持ちで使えるものではない」
「うん……」
あのときだって、牛に当たったからよかったものの、もし彼女に当たっていたら……。
想像しただけで背筋が寒くなる。
「とはいえだ。魔法は使わないと上達しないからな。これからは安全な場所で練習するぞ」
「うん、わかった」
そうだよね。
誰でも最初は初心者だよね。
千里の道も一歩。炎属性もLv.1から。
前に学んだことだった。忘れてた。
「よし! 明日からまた頑張ろう!」
私は気持ちを切り替えるように、ランプの灯りを消した。
◇
ホール担当の格好でお客さんを案内するルイザさん。
「いらっしゃいませー! こちらお席へどうぞー!」
ダンジョン探索から戻って数週間。
私の紹介で、彼女はこのレストランで働いていた。
厨房でオムライスを作る私の横で、店長が彼女を見ながら感心している。
「お前が連れてきた彼女、お客の評判もなかなかでな。ずっと働いてもらいたいくらいだ。……だが、賄いを二人分食べるのが、ちょっとな……」
苦笑いの店長。
その言葉に、横でフライパンを振る料理長がゲラゲラと笑う。
「なーに! レストランの店員なんだ! 旨そうにたくさん食うなんて逸材だろ!」
料理長の発言に、私と店長は思わず顔を見合わせて笑ってしまった。
「オムライスおねがいしまーす!」
ホールから彼女の声。
「はーい!」
私は厨房から元気よく返事をした。
お昼休憩。
私の作った賄いをおいしそうに食べるルイザさん。
「この仕事最高かも! マホロが作るおいしい賄いも食べられるし!」
「ありがとうございます。けどルイザさんからお金を返してもらったらまた旅に出るので、私が賄いを作るのもそれまでですよ」
「えー? そうなの? こんなに料理が上手なのに? もったいない」
不満気な顔でおいしそうに賄いを食べる彼女。
器用だ。
「まあ、アタシもお金を返したらトレジャーハンターに戻るけどね。やっぱりお宝を見つけた時の興奮は忘れられないよ!」
「そうなんですね。それなら今のうちに携帯食材をおいしく調理できる技術を学ばないとですね!」
「そう! それ! ほんとそれ!」
私と彼女はくすくすと笑った。
なんか楽しいな。
コンカフェのバイトをちょっと思い出しちゃった。休憩室でこんなふうに話をしてたっけ。
「さて! 休憩終わり! もう一頑張りしますか!」
彼女は大きく背伸びをすると、ホールへと戻っていった。
私も賄いのお皿を持って厨房へと戻った。




