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コンカフェで働いてたら村を救った話  作者: たこやき風味
コンカフェで働いてたらダンジョンを踏破した話
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12. 約束の話

 さっきカレーを作った部屋で、今度はゴブリンへのお礼のカレー作りに取り掛かっていた。

 食べきれなかったビーフステーキも持ってきたから、なんと! 今回はビーフカレーです!


 私が調理をしている横で、ルイザさんとゴブリンがずっと喋っている。


「中央広場の串焼き屋、あそこのタレは絶品だ! 俺は一度に10本は食えるぜ!」


「まだまだね。隣の揚げパン屋には行った? あそこのおばちゃんの揚げるパンは、外はカリカリ中はフワフワ。アタシは15個はいける!」


 やれどの店がおいしいだの、どっちのソースが合うだの、ずっと食べ物の話。



「カレーができましたよ!」


 私が声をかけると、残像が見えそうなほどの勢いで二人がクルッと振り返った。


「これがカレーってやつか! やっと食える!」

「これ! これよ! これが最高なんだよ! もう我慢できない!」


 カレーを前に、二人の目がらんらんと輝く。


「いただきます!」


 二人は同時にカレーをスプーンですくい、勢いよく口へと運んだ。


「んーっ!」

「うまい!」


 ルイザさんはうっとりと天を仰ぎ、ゴブリンは目を見開いている。

 その言葉を最後に、二人は無言でカレーに向き合い始めた。

 石でできた部屋に、お皿とスプーンがぶつかる音が反響する。


 やがて――

 ピタッ、と二人の動きが同時に止まった。


「「お代わり!」」


 完璧にハモったお代わりの声。

 二人が同時に空になった皿を私へ向けた。


 さっきあれだけビーフステーキを食べたのに、いったいどこに入るの?



    ◇



「おなかいっぱい……しあわせ……」

「はらいっぱいだ……」


 以前も見た光景がそこにあった。

 ひとり増えてるけど。


 私は後片付けをしながら、床に転がっておなかをさする二人に話しかけた。


「で、結局このダンジョンにはお宝はないってことなんですか?」


「げふ……そうだ、このダンジョンに宝はない。手に入ったのはダンジョン踏破(とうは)第一号の名誉くらいだな!」


 ゴブリンがけらけらと笑った。


 あんな目に遭ったのに、完全に無駄足だった……。

 まあ、そんなうまい話はないか。


「それじゃ、約束通りお仕事ですね!」


 ちょっと意地悪な表情でルイザさんを見る。


「あーもー! ちゃんと働いて返すって!!」


 彼女は床の上で手足をばたつかせた。




 片付けを終えた私も二人の横に転がり、天井を見上げた。


 なんか、不思議な感じ。ダンジョンの中でおなかいっぱいで床に寝転がってるなんて。

 こっちの世界に来てから毎日いろいろなことがあるけど、ダンジョンの床に寝転がるなんて想像もしなかった。


 まだまだ知らないことがいっぱいあるんだろうな、こっちの世界でも……あっちの世界でも……。




「そろそろ出発するよ!」


「あっ! えっ!? はい!」


 ルイザさんに起こされて飛び起きた。

 どうやらあのまま寝落ちしてたみたい。


 既に支度を終えたゴブリンが私を見てニヤニヤしている。


「お前、気持ちよさそうに寝てたな」


 え? あっ!

 私は慌てて(そで)で口元をごしごしとこすった。

 寝顔を見られてた。はずかしい……。



    ◇



 帰り道はとても快適だった。

 罠は解除済みだし、ダンジョンを知り尽くしたゴブリンもいる。

 もちろん魔物も出てこない。


 私はルイザさんとゴブリンの後ろをついて歩いていた。

 二人が何か話してるみたいだけど、話の内容まではよく聞き取れない。

 まあ、どうせまた食べ物の話だろうけど。



 右へ曲がり、左へ曲がり、まっすぐな通路を進み、突き当たりの長い階段を上る。

 階段を上った先には大きな石の扉があった。

 両開きの扉には、それぞれに手を掛ける穴が開いている。


 ルイザさんがその穴に手を掛けると、力を入れて引いた。

 石が擦れるような音と共に、扉がゆっくりと開き始める。

 扉の隙間から、ダンジョン内に光が差し込んでくる。

 その先には、風に揺られる花々が見えた。



「すー……はー……」


 大きく深呼吸。

 新鮮な空気が肺へと流れ込んでくるのを感じる。


 森の中は薄暗くなり、もともと静かだった森は、息をひそめるかのように一層の静寂に包まれている。

 見上げると、丸い空に浮かぶ雲が朱色(しゅいろ)に染まっていた。



「俺はここまでだ。いろいろ楽しかったぜ!」


 振り返ると、ゴブリンがダンジョンの入り口に立っていた。

 そっか、ゴブリンはダンジョンに帰っちゃうんだよね。


「本当にありがとう! ダンジョンでひとりになったときは『どうしよう』って思ったけど、あなたのおかげでこうして無事にダンジョンから出てこられたよ」


「いいってこった。俺もうまいものがたらふく食えたしな!」


 ちょっと名残惜(なごりお)しいけど、完全に日が暮れる前に町に戻らないと。


「それじゃ、ね!」


 私たちはゴブリンに別れを告げ、森の広場を後にした。


 ゴブリンがずっと手を振ってくれているのが木々の隙間から見える。

 やがてその姿も見えなくなり、扉が閉じる重い音が森の中に響いた。

 


「あー! またはずれダンジョンだった! 働きたくない! 一攫千金(いっかくせんきん)でおいしいものだけ食べて暮らしたい!」


 町への帰り道、ルイザさんが空に向けて欲望丸出しで叫んだ。

 なんていうか、まっすぐな人なんだろうな。


「貸したお金はきちんと『労働で』返してもらいますからね」


「わかってるってば! 何度も言わないでよー!」




 初めてのダンジョン攻略。

 ダンジョンに入ったばっかりのときは『結構余裕だなー』なんて思ったけど、ルイザさんが罠にかかってからが大変だった。

 ゴブリンが現れたり、ステッキが変な呪文を教えてくれたりで、なんとか助かったけど。


『うんっ! もうダンジョンには行かない!』


 私はそう心に誓った。

 なんて、そんなことを考えながら歩いていたら、町の入り口が見えてきた。


「やっと帰ってきた……」


 緊張が解けたからか、急に全身が重くなる。

 私は最後の気力を振り絞り、宿の部屋を目指した。



    ◇



「おい! 朝だぞ! 起きろ!」


 ステッキが寝ている私のお尻をぺしぺしと叩く。


「へ? 朝?」


 寝ぼけた目をこすりながら、ベッドから起き上がる。

 そっか。部屋に着くなりベッドに倒れ込んで、そのまま寝ちゃったんだ。


 服装は昨日のまま。

 荷物は床に放り投げてある。

 筋肉痛で体のあちこちが痛い。

 それなのに……今日も仕事だっ!!


 この時間はお風呂やってないし、せめて体を拭いていかないと!

 髪もボサボサ、まとまらない!


「あーもー!」


 私はなんとか身支度を整えて、レストランの仕事へ向かった。

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