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コンカフェで働いてたら村を救った話  作者: たこやき風味
コンカフェで働いてたらダンジョンを踏破した話
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11. おいしい話

「ひとつ試したいことがある」


「試したいこと!? こんなときに!? ルイザさんがピンチなんだよ! そんな悠長(ゆうちょう)な――」


「いいから聞け! 今から俺が言う呪文を唱えるんだ!」


「呪文?」


 ステッキの『呪文』という言葉に、私は少し冷静さを取り戻した。



「まずは俺を(あいつ)に向けろ」


「う、うん」


 私はよくわからないまま、ステッキを両手で構えて牛へ向けた。


「呪文を言うぞ! 《レーナ・クシ・イオ・ルリグ》だ! 唱えろ!」


「レーナ! クシ! イオ! ルリグ!」


 私はステッキに言われるままに呪文を唱えた。

 

 私の中の魔力がステッキへと流れ込む。

 同時に、ステッキの先端がオレンジ色に輝き出した。

 その光はどんどん大きくなり、やがて炎へと変化した!


「えっ! 火が着いちゃってるけど! 大丈夫なのこれ!?」


「落ち着け! そのまま炎に意識を集中しろ!」


 ステッキに言われ、先端に(とも)った炎に意識を集中する。

 ドクン、と、自分の心臓とステッキが同期したかのような強い衝撃が走る。魔力が一気にステッキへと流れ込んでいく。

 それに呼応(こおう)して炎がさらに勢いを増した。


「よしっ! あいつに向けて放てっ!!」


 言われるがままに狙いを牛に定め、そして、


「いっけぇ!」


 私は渾身(こんしん)の力で叫んだ。

 私の叫びと同時に炎が真紅に染まり、ステッキの先端から勢いよく解き放たれた!

 意志を持つかのように螺旋(らせん)を描きながら飛んだ炎は、牛の背中を直撃!

 短い爆発音と同時に、牛の背中が一瞬で炎に包まれた!


「ヴモー!!」


 牛が大きく()()り、大きな叫び声を上げた。

 

 その隙に、ルイザさんが拘束(こうそく)を振りほどいて地面を転がるように脱出した。


 炎はまるで生きているかのように、牛の全身を飲み込んでいく。

 牛が炎を消そうともがくが、まったく消える様子はない。


 火だるまとなった牛はその後も抵抗を続けていたが、やがて膝から崩れ落ちた。


 うつぶせに倒れ、完全に動かなくなる牛。

 なおも炎は牛を焼き続ける。



「……なに……これ……」


 ステッキを構えたポーズのまま、呆然とする私。


「うまく行ったようだな」


「なにが!? なにがうまくいったの!?」


 なんなのこれ!?

 こんな魔法聞いてないんだけど!!


「詳しい説明はあとだ。あの女が先だ」


「そうだ! ルイザさん!」


 見ると、彼女は牛から少し離れたところに座り込んでいる。

 私は彼女のもとへと駆け寄った。




「ルイザさん! 大丈夫ですか!?」


 彼女は負傷した箇所を確かめるように、慎重に体のあちこちを動かしていた。


「うん、大丈夫。痛みはあるけど、折れてないみたい」


 彼女が右肩をぐるぐると回し、関節の動きを確かめる。


「けど、あのまま締め上げられたらやばかったかも。正直もうだめかと思った。本当に助かったよ。ありがとう!」


 にこやかにお礼を言う彼女。

 しかしすぐに眉毛がハの字になり、怪訝(けげん)そうな表情へと変化した。


「けどマホロ、あなた『攻撃魔法は使えない』って言ってなかった?」


「えっ?」


 あー、うん、言いました。

 私、攻撃魔法は使えません。


 ……ここは正直に答えるしかないよね。


「実は私もよくわからなくて。なんで魔法で魔物を倒せたのか。そもそも、あの魔法自体がなんなのか……」


 まだステッキから説明を受けていないので、本当に何もわからない。


「ふーん、そっか」


 私の本気で困っている顔を見て、彼女はそれ以上尋ねてこなかった。

 けど、怪訝そうな表情は変わらない。


「あのさ、もうひとつ聞いていい? このおいしそうな匂いはなに?」


 彼女が鼻をくんくんさせる。


「え? おいしそうな匂い?」


 私も鼻をくんくんさせる。

 うん、たしかに香ばしくておいしそうな匂いがする。


 うーん、なんだろう?

 何の匂いだろう?


 部屋の中を見渡す。


 この部屋には私たちと、焼き上がった牛くらいしかいないよね。

 焼きあがった牛くらいしか。


 私はおそるおそる牛へと近づいた。


「……やっぱり」


 いい匂いの正体は牛だった。

 すでに炎は消え、牛はきれいな丸焼きになっていた。


「あのー、ステッキさん? これって?」


「牛の丸焼きだな」


 足元に転がる牛の丸焼きを、ただ呆然と見つめる私。

 そこへ、ゴブリンがやってきた。


「さっき助けた礼だけどな、この丸焼きでいいぜ」


 ゴブリンが左手の甲で口元のヨダレを拭いながら、右手の指で牛の丸焼きを指さした。


「えっ!? いや、これでいいならいいけど。いいの!?」


 これ、食べるの? あなたの仲間じゃないの!?

 私の驚きをよそに、ゴブリンは熱々の肉をひちぎると、おいしそうに頬張った。


「うまい! 焼き加減も絶妙だ!」


 あ、うん、喜んでもらえたならいいけど……。


「うん! おいしい!」


 えっ⁉

 見ると、ルイザさんもいつの間にかナイフを取り出し、肉を削いで食べている。


「これ、本当においしい! 魔物って食べたことなかったけど、こんなにおいしいんだ!」


 ゴブリンとルイザさんが牛の丸焼きを頬張る。

 二人ともあまりにもおいしそうに食べるので、私もちょっと食べてみたい気持ちになってきた。


「あの、ちょっとだけ……」


 彼女が削いでくれた肉を一切れもらい、おそるおそる口に入れる。

 その瞬間、表面のカリッとした歯ごたえと共に、閉じ込められていた肉汁が溢れ出した。


「……おいしい……」


 これはもう完全にビーフステーキ。

 こんなのおいしいに決まってる!


「あの、もう一切れ。あ、ナイフってまだありますか?」


 私は彼女からナイフを借りると、ビーフステーキを堪能した。



    ◇



「おいしかった!」

「うまかった!」


 ビーフステーキをたっぷりと食べた二人は、満足したように同時に床へ倒れた。


「ところでさ?」


 床に倒れているルイザさんが、同じく隣で倒れているゴブリンを指さし、


「誰?」


 私に尋ねてきた。

 二人並んで食べてたのに気づいてなかった!?


「えっと、このダンジョンの住人です。彼が助けてくれたんです」


 私はここまでの出来事を彼女に話した。


「へー、そうだったんだ。アタシからもお礼を言わせて! ありがとう!」


「いいってこった」


 照れるゴブリン。


「それにしてもあなた、人語が上手だよね」


「まあな。頑張って勉強したからな」


 そっか。魔物がみんな人語を話せるわけじゃないんだ。

 何も考えずに会話してた。


「昔ダンジョンを抜け出して町に行ったことがあってな。そしたら旨そうなものがたくさん並んでてよ。どうしてもそれを食ってみたくてな。それで人語を覚えたんだ。喋れなくちゃ買えないだろ?」


「あなた、すごい執念(しゅうねん)ね……食への執念……最高だよ! おいしいものって最高だよね! おいしいものはすべての原動力!」


 ゴブリンに右手を差し出すルイザさん。


「わかってくれるか! 同志!」


 その手を握り返すゴブリン。

 二人は両手をがっつりと握り合い、上下にぶんぶんと振った。

 なんなのこの二人。

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