10. 彼女を見つけた話
扉の先はかなり大きな部屋になっていた。
天井がとても高い。
その天井を支えるかのように、何本もの巨大な柱が立っている。
まるで神殿のような部屋。
その部屋の中心に彼女はいた。
巨大な何かと戦っている彼女が。
身長は彼女の2倍ほど。
全身短い毛で覆われた筋肉質の体に、角の生えた牛のような頭。
右手には斧のような武器を持っている。
「あれって、魔物!?」
そんな巨大な魔物と戦う彼女は、すでに肩で大きく息をしていた。
もしかして、私がここに来るまでの間もずっと戦っていた!?
私は柱の陰に隠れ、顔を少しだけ出して戦いの様子を見守った。
牛がその巨体からは考えられないほどの素早い動きで斧を叩きつける。
彼女はそれを横に転がってかわす。
かわされた斧が床を粉砕する!
牛が斧を持ち上げる隙に、今度は彼女が低い体勢から牛に切りかかった。
彼女が水平に振った剣が牛の左足を捉える!
牛の太ももが少しだけ裂け、血が流れ落ちる。
が、牛は気にした様子もなく、斧を頭上まで持ち上げると再び彼女に向けて振り下ろした。
彼女が後ろ飛びでその斧をかわす。
彼女と牛の距離が離れ、睨み合う。
そのとき、彼女が牛を睨んだまま叫んだ。
「無事だったんだね!!」
私の存在に気づいた!?
私は彼女の問いかけに力強く頷いた。
声を出しちゃいけない気がしたから。
彼女が牛に飛びかかり、斧を持った右腕を狙って剣で切りつけた。
しかし、牛はそれを斧の柄で受け止める。
耳をつんざくような金属のぶつかる音。
さっき扉の奥から聞こえていた音だ。
牛は斧の柄で彼女ごと剣を振り払う。
振り払われた彼女は少し後ろに飛ぶと、着地と同時に剣とは反対の手で懐から何かを取り出し、牛へ投げつけた。
投げつけられたそれが、牛の左肩に突き刺さる。
ナイフだ!
小型のナイフが2本、牛の肩に刺さっている。
ナイフが刺さった左肩を牛が気にした。
その隙を見逃さなかった彼女。一気に牛との距離を縮めると、右腕を切りつけた。
剣が前腕部を切り裂く!
切られた腕から血が噴き出す。
その手に持っていた斧が、大きな音を立て床に落ちる。
牛の苦悶の呻きが、部屋全体に轟き渡る。
「やった!!」
私は思わず叫んだ。
……これがまずかった。
右腕から血を流した牛が、ゆっくりと私の方へと向きを変えた。
地響きのような唸り声をあげながら、前傾姿勢を取る牛。
上目遣いの鋭い眼光と鋭利な角の先端は、間違いなく私に向けられている。
その威容を前に、私は全身の力が抜け、その場にへたり込んだ。
「逃げて!」
彼女が叫ぶ。
逃げたい! けど足に力が入らない!!
牛が右足を激しく蹴り上げ――
一気に駆け出した!
『もうだめ!』
迫りくる恐怖に、私は全身に力を入れて、両目をギュッと瞑った!
蹄が床を蹴る音が迫る!
そして、私の体は宙を舞った……。
牛の体当たりをまともに食らった私は――
って、あれ? 痛くない?
私はゴブリンに抱えられ、宙を舞っていた。
攻撃をかわされた牛は、そのまま頭から柱に突っ込んだ。
牛の体当たりをまともに受けた柱が崩れ、残骸が牛の上に降り注ぐ。
私はゴブリンと一緒に牛から離れたところに着地した。
まだ足に力が入らず、そのまま座り込む私。
「これは別料金だからな」
「作る! もう何だって作る! 作らせて!」
私はゴブリンにしがみついたまま、半泣きで叫んだ。
しばらくして、柱の残骸に埋もれていた牛がゆっくりと起き上がった。
私のところまで聞こえてくる鼻息。
頭から流れた血が、鼻の下からしたたり落ちる。
そして再びの雄叫び。
「やばいな。怒りで我を忘れちまってる。ああなるともう手が付けられないぞ」
ゴブリンが小声で言った。
手が付けられないって……そうだ!
この部屋に入ってきた扉を指さす。
「ねえ! 逃げられないの!? 扉開いてるよね!?」
「扉は中からは開けられんが、さっきお前が外から開けたからな。逃げようと思えば逃げられるぜ」
逃げられるんじゃん!
よし! 逃げよう!
けど私の位置からだと、扉は牛を挟んだ反対側にある。
牛にばれないように壁沿いに走るか。
彼女にも逃げることを伝えなくちゃいけないし。
けど、声を出すとまた狙われるかもしれない。
牛はあんなに巨大なのにものすごく速いし……。
……どうしよう。
私が判断に迷っている間に、牛は近くにいる彼女を見つけていた。
牛は彼女の方へと向きを変えると、ゆっくりと両腕を大きく広げた。
そして、そのままの態勢で彼女へ突進した!
彼女は剣の先端を牛へと向け、迎え撃つ態勢をとる。
牛は剣に臆することなく彼女へと突進!
彼女は突進してきた牛の胸へそのまま剣を突き刺した!
やった!
と思ったのも束の間、牛はそのまま両腕で彼女を抱きかかえた!
太い両腕で彼女を締め上げる。
「う、うぅ」
呻き声をあげる彼女。
「え!? ルイザさんが捕まっちゃった!? どうしよう!」
このままでは彼女が――そうだ! さっきみたいに私が牛の気を引けば!
「わーっ! わーっ! わーっ!」
私は牛の気を引こうと、両手をブンブン振り回しながら大声で叫んだ。
けど牛は私の声を完全に無視。さらに締め上げる腕に力を入れる。
興奮してこっちに気づかない!?
ダメだ! 何か他の方法!
何かない? 何か? 何か!
「あった!」
私は床に落ちていた石を拾い、牛に向けて投げようと大きく振りかぶった。
そのとき、ずっと黙っていた腰のステッキが口を開いた。
「石なんて投げても無駄だ! 少し冷静になれ!」
その言葉に投球フォームが崩れ、石が変な方向へと飛んでいく。
「急になに!? 邪魔しないで!」
「いいから落ち着け。ひとつ試したいことがある」




