5. 彼女の話
喫茶店のテラス席。
私の前には彼女が座っている。
あの後町に戻った私と彼女は、立ち話もなんだろうということで、お茶をしながら話をすることにした。
カップケーキも食べ損ねたしね。
しばらくして、テーブルに二人分の焼き菓子とお茶が運ばれてきた。
一文無しの彼女の分は私のおごり。
彼女はすぐに焼き菓子に手を伸ばすと、黙々と食べ始めた。
無くなっちゃう前に私も食べよっと。ここの焼き菓子、おいしいんだよね。
焼き菓子を食べつつお茶を飲んでいると、ふいに彼女がテーブルの上に置いたステッキを指さした。
「あなたが持っているそれ、魔道具だよね」
「えっ? あっ!」
不用意にテーブルの上に置いていたステッキを慌てて隠す。
私は日ごろからステッキのことは誰にも話さないようにしていた。
王様の手下とかに見つかったりするかもしれないし。わかんないけど。
「その女、アイテム鑑定の能力があるようだ」
膝の上に置いたステッキが諦めた口調で言った。
そうなんだ……バレてるなら隠しても仕方ない。
私は諦めてステッキをテーブルの上に置いた。
「……このステッキは、魔道具ですけど……」
「やっぱり。そうじゃないかと思った。ステッキを持ってるってことは、あなた、魔法使いだよね?」
隠していることをズバズバと言い当ててくる!
「え、えっと、だとしたらなんなんですか!?」
内心とっても怖いけど、私は頑張って虚勢を張って答えた。
「魔法使いに大変なことが起こっているっていう噂を聞いたから。あなたは大丈夫?」
たまらず、ステッキが跳ね起きた。
そして、直接彼女に尋ねた。
「おまえ、何を知っている!」
「へー、そのステッキ、しゃべることができるんだ!? すごい! かなり上級の魔道具じゃない?」
「ごまかすな!」
ステッキがすごい剣幕で彼女に迫る。
ステッキに凄まれ、彼女が少しのけぞる。
「それ以上は知らないって! 職業柄、噂話が入ってくるの! 具体的に何が起こっているのかまでは聞いてないって!」
「本当か!?」
「本当だって!」
うーん。
彼女が何かを隠しているのか、本当に何も知らないのか。
どちらにしても、ステッキのことは黙っててもらわないと。
「あなたの話が本当なのか嘘なのか、もうどっちでもいいです。ただ、ステッキのことは誰にも言っていないので、これだけは秘密にしてください」
「わかった、約束するよ。いろいろご馳走になっちゃってるしね」
信用できるかわかんないけど、彼女の言葉を信じるしかない。
それに、今さらもうどうしようもないし。
とりあえずステッキの話を終わらせよう。
「さっきの話の続きを聞いていいですか。パーティーを組むっていう話」
「興味を持ってもらえた!? うれしい! 実は――」
彼女の話はこうだ。
この町の近くに未踏のダンジョンがある。
そのダンジョンを攻略して、お宝を手に入れたい。
ひとりで挑んだが、途中で撤退した。
だから、一緒にダンジョン攻略をしてくれる仲間を探していた。
「で、さっきあなたが助けてくれたときに、腰のステッキに気づいてさ。きっと魔法使いだ! って思ったわけ」
「だから私を突然パーティーに誘ったんですか?」
「そういうこと!」
聞くと、本当にそれだけのことらしい。
魔法使いに大変なことが起こっているっていう話は、噂で聞いただけでまったく興味はない。『興味があるのはダンジョンのお宝のみ!』だって。
ダンジョンなんて、ゲームでしか聞いたことがない。
こっちの世界には普通にあるのかな。
「ダンジョンって、迷路みたいな、洞窟みたいなやつですか? 宝箱とかある感じの?」
「そうそう、そういうやつ。そういったダンジョンが世界のあちこちにあるんだよ。けど、ダンジョンの入り口は普段は見えないようになっているから、みんな気づかないんだけどね」
へーそうなんだ。
ぽっかり穴が開いてたり、重厚な扉で閉ざされたりしてるわけじゃないんだ。
その辺はゲームとは違う感じだね。
「それで、私にそのダンジョンを攻略するための仲間になってほしいと?」
「そう! アタシひとりじゃ攻略が難しいんだよ」
ダンジョンとか危なそう。
暗いところも怖いし。
どうしようかなぁ。
「魔物とかいるんですよね? それと、罠とかもあったり」
「それはもちろん。ダンジョン内には魔物もいれば、罠もあるよ」
やっぱり。
よし、断ろう。
「申し訳ないですけどやめておきます。私、戦闘魔法とか使えないんで」
「えー!? そんなこと言わずに! お願い!」
「無理です。戦闘魔法使えないんで」
「そこをなんとか!」
このまま永久に押し問答が続くのかと思ったけど、それはあっさりと彼女のターンで止まった。
「戦闘魔法が使えないって言うけど、それなら何系の魔法が使えるの?」
その質問、ごもっとも!
いいでしょういいでしょう、お答えしましょう!
「料理属性の魔法です!! 私、戦闘は一切できませんっ!!」
私はキッパリハッキリ答えた。
ね? これでわかったでしょ?
私を連れて行ってもなんの役にも立たないんだって。
「りょうり……ぞく……せい?」
自信満々の私の回答に、彼女ががっくりとうなだれた。
ごめんね、期待させちゃって。
うなだれたままふるふると肩を震わせる彼女。
そして――
「最っ高っ!!」
ガバッと起き上がって叫んだ。
うわっ!!
びっくりして椅子ごとひっくり返りそうになる私。
彼女は目をらんらんと輝かせ、前のめりになって早口で話し始めた。
「最高じゃない! 料理属性! たしか、どんな料理でもすっごくおいしく作れるやつだよね! いいなー! うらやましいなー! 食べたい! 今すぐ食べたい! お願い食べさせてっ!」
そこまで羨ましがられるとちょっと悪い気はしないけど、ダンジョン攻略には関係なくない?
前のめりの彼女がさらに急角度になり、テーブル越しの私に迫る。
「アタシ、こう見えておいしいものが大好きなんだよ!」
うん、そうなんじゃないかなと思ってた。
お皿に残ってた焼き菓子もひとりで食べちゃったし。
彼女が思いっきり頭を下げて、後頭部の上で両手をぱんっと合わせる。
「やっぱり私とパーティーを組んで! 食事担当として同行してほしいの! 魔物との戦闘や罠解除はアタシが全部やるから! お願いっ!」
食事担当? ダンジョン攻略で?
彼女がストンと椅子に座る。
興奮していた表情から覇気が抜け、ふっと遠い目になる。
「実はアタシ、ダンジョン内で食べる食事がマズくて耐えられなくてさ……。前回もそれで撤退を余儀なくされてね……」
撤退って、そんな大げさな。食事がマズくて帰っただけだよね。
あまりにも変な話なので、もう一度確認する。
「魔物が強いとか、そういった理由じゃなくて?」
「違うよ。町の近くにあるダンジョンだから魔物はそんなに強くないし。けど、食事だけがどおぉぉぉしても耐えられなかった!!」
彼女の『耐えられなかった!!』はとても力強かった。
よっぽどおいしくなかったんだな。
「あの、ダンジョン内では何を食べてたんですか? ジメジメしたところに生えてるキノコとか?」
「違う違う! コンパクトにまとめられた携帯食材っていうのがあって、それを調理して食べるんだよ。けど、携帯食材は調理するのが難しくってさ」
へー、こっちの世界にはそんな便利なやつがあるんだ。
私の旅でも使えそう。今度探してみよう。
ん? 調理して食べる?
彼女が苦笑いしながら人差し指でほっぺをかく。
「アタシ、おいしいものは大好きなんだけど、料理が大の苦手でさ……」
さっきからマズいマズいって言ってたのって、もしかして、自分で作った料理のこと!?
自分の料理がマズすぎて、ダンジョンから撤退!?
……なんだかすごくかわいそうな気持ちになってきた。
どうしようかな。
ダンジョンかぁ。
きっと魔法の修行になるだろうし、お宝が手に入ったら旅の資金にもなるし、悪くはないのかな?
そこまで危険じゃないみたいだし、それにちょっと冒険っぽいこともおもしろそう。
よしっ。
「わかりました、料理担当として同行します。ただし、危険と感じたら戻りますからね」
「ほんと!? うれしい!!」
彼女の曇り切っていた表情がぱっと明るくなった。
そんなに喜んでくれると、私も悪い気はしないな。
「そういえば自己紹介がまだだったよね。アタシは《ルイザ》。トレジャーハンターよ。あなたは?」
「私はまほろって言います」
「マホロ? あんまりこの辺りじゃ聞かない名前だね」
ええ、まぁ、あっちの世界から来てるんで。
「けど、いい名前だね!」
「あ、ありがとうございます」
名前を褒められるのって、少し照れくさいな。
「マホロがパーティーに入ってくれて本当にうれしいよ! うれしくなったら、なんだかおなかが空いちゃった! すみませーん! 焼き菓子の追加お願いしまーす!」
彼女が店員さんに向けてぶんぶんと手を振る。
あの、支払い全部私持ちなんですけど。
その後、焼き菓子のお代わりを食べながらダンジョン攻略の相談をした。
ダンジョン攻略は一週間後。私の仕事が休みの日。
それまでに彼女がダンジョン攻略の準備や買い出しをすることになった。
買い出しの費用とルイザさんの宿代は私が立て替えて、返済はダンジョンお宝払い。
お宝がなかった場合はこの町で働いて返してもらう約束。
揉めないように、お宝の分け方も先に決めておいた。
金貨などは私が負担した分の費用を差し引いて、残りは半分ずつ。
アイテムとかの半分にできないものは、お互いに必要なものを選ぶことにした。
一週間後、彼女が引っかかっていた木の下で待ち合わせることにして、私たちは別れた。




