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コンカフェで働いてたら村を救った話  作者: たこやき風味
コンカフェで働いてたら村を救った話
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2. ステッキの話

「今すぐ俺と一緒に来てくれ!」


 ステッキの様子が、お怒りモードからちょっと焦った感じに変化した気がした。


「来てくれって、どこへ? もう夜も遅いし、それに電車もなくなっちゃうし……」


「そんな悠長(ゆうちょう)な話ではない! 俺は魔法使いを連れて帰らないといけないんだ!」


「魔法使い?」


「そうだ、魔法使いだ!」


 たしかに魔法少女のコスプレはしてるけど。

 そもそもこの世界に本物の魔法使いなんていないし。

 このステッキ、なにか勘違いをしてる?


「私、魔法使いじゃないよ。そもそも魔法使いなんて本当はいないし」


「いや、お前は魔法使いだ。さっき魔法を使っていただろう?」


 魔法を使ってた? 私が?

 あっ! もしかして!


「オムライスがおいしくなるやつのこと?」


「そうだ。飯が旨くなる魔法だ」


 あー、やっぱり。あの《おまじない》を本物の魔法だと勘違いしてるんだ。

 呪文とか決めポーズとか頑張って練習したし。

 ちょっとリアルすぎちゃったかなー。


「あれは魔法じゃないんだよ。おまじないって言って――」


「いや、お前は魔法を使った。お前が魔法をかけたオムライスを客が旨そうに食っていただろう」


 ステッキが私の説明を食い気味に遮ってきた。


 うん、たしかにお客さんはオムライスをおいしそうに食べてた。

 けどこのお店、コンカフェとはいえ料理には結構こだわってるんだよね。

 厨房の人もここに来る前は有名なレストランで働いてたみたいだし。

 だから、実際にオムライスはかなりおいしい。


「あのね、オムライスはもともとすっごくおいしいの。もともと有名なレストランで働いてた人が――」


「俺からビームが出ただろう! あれはどう説明するんだ?」


 言われてみればたしかに。

 ステッキの新機能かと思ってたけど、この状況から考えると違うっぽい?

 あれ? もしかして本当にステッキから何か出てた?

 よくよく考えるとオムライスもちょっと光ってた。


「……あれって、本物の魔法?」


「そうだ、お前が魔法を使ったんだ」


 なんか混乱してきた。

 おいしくなる呪文を唱えるのに使っていたステッキが、私を魔法使いだと言っている。

 でもこのステッキが本物の魔法のステッキなら、このステッキから魔法が出ていたわけで――


「あなた、魔法のステッキなんだよね? なら、あなたが魔法を使ってるんじゃないの?」


 素直に疑問をぶつけてみる。


「それは違う。俺は魔力を媒介することはできるが、俺自身が魔法を使うことはできない」


「?」


 なんかいろいろ難しい。魔力? 魔法?

 そんな私の態度に、イライラ気味にステッキが説明する。


「わからないか? 俺、つまりステッキに魔力を込めることで魔法を発動できるんだ。魔力だけでもだめだし、ステッキだけでもだめだ。両方そろってはじめて魔法を発動できる。この世界でいうピストルと弾丸みたいなものだ」


 ピストルと弾丸。なんかわかった気がする。

 ピストルがステッキ、弾丸が魔力。両方そろってはじめて撃てる。

 なるほどなるほど。あなた、説明が上手だね。

 ってことは?


「つまり、私には魔力がある、ってこと?」


「やっとわかったか。そうだ、お前には魔力がある。あの魔法は本物だ」


 なんか大変なことになってきた。

 私が本物の魔法少女?

 もしかして、魔法で本当にオムライスがおいしくなって、それ目当てのお客さんでお店が混雑してたってこと!?

 私にすごい数の指名が入ってたのって、これが原因?


「えっと、仮に私が魔法使いで、もしもあなたと一緒に行くとして、私はどこに行けばいいの?」


「《魔法国家イグラルト》」


 魔法国家? イグラルト? 突然謎のワードが出てきた。


「イグラルトはこの世界とは別の世界にある」


 別の世界!? 別の世界って、どこの世界? 外国?

 少なくとも私の住んでる国じゃないってことかな。


「俺はイグラルトを救うため、お前のいるこの世界に魔力を持つものを探しに来たんだ」


「『救うため』って、なにかあったの? それに、なんでこっちの世界に探しに? 魔法国家なら魔法を使える人がいっぱいいそうだけど」


「お前の言う通り、イグラルトは大魔法使いの国王と、強力な魔力を持つ魔法使いたちによって統治されている国だ。何人もの魔法使いがいる」


「やっぱりいっぱいいるんだ。ならどうして?」


「魔法使いの力の源である《魔力》が奪われたのだ。全て」


「魔力を奪われた? 誰に?」


「国王に、だ」


「国王!? その、大魔法使いの? っていうか、国王って王様だよね。なんで王様が自分の国の魔法使いの魔力を奪ってるの?」


「わからない。なぜ王が突然そうなったのか。あのお優しいお方がそのようなことをするはずがない。俺も初めは信じられなかった」


 ステッキがうつむく。


「しかし、王は民衆の前で宣言された。『すべての魔力を我に捧げよ』と。王は強力な波動を放ち、魔法使いは皆魔力を奪われた。そして、誰ひとり魔法を使えなくなってしまった」


 なんか想像の10倍くらい重い話になってきた。

 私、なんでこんな話聞いてるんだろう。さっきまでテーブル拭いてたのに。


「国の秩序が揺らぐ前に、王から魔力を取り戻さなければいけない。王と渡り合うには魔力が必要だが、俺の世界にはもう魔法使いはいない」


「それで、こっちの世界に魔法使いを探しに来たってわけか」


 ステッキがうなずく。


「はるか昔『他の世界に迷い込んだ魔法使いがいた』という伝説がある。もしそれが本当なら、その子孫がいるかもしれない。俺はそれに賭けてこの世界に来た。そしてお前を見つけた」


 それって、つまり私がその魔法使いの子孫かもしれないってこと!?

 だけど、私に魔力があるというのもまだちょっと信じられない。

 そもそもだけど、そんなすごい王様に私が会ってどうにかなる?


 どうしよう……困っているステッキは助けてあげたいけど、明日もシフト入ってるしなぁ。


「あのぉ、ちょっと私でどうのこうのできる感じじゃないんだけど……」


「もうお前しかいないんだ! 頼む! 一緒に来てくれ!」


 ステッキが器用に土下座(?)した。

 うー、断りづらい。

 なんか行くしかない感じになってきた。


「ええっと、それじゃ、ちょっとだけ……様子を見に行く感じで……」


「おお! 来てくれるんだな!」


 飛び上がるステッキ。

 なんかすっごくうれしそう。


「よし! 早速むこうの世界へ行くための転移ゲートを開くぞ! 俺を両手で握って魔力を込めてくれ」


「転移ゲート? 開く? 何言ってるの?」


 私の質問を完全に無視して、ステッキが自ら私の手の中に収まる。


「早く魔力を込めろ!」


「あーもう。わかったよ」


 ステッキを両手で握り、魔力を込める――魔力を込め――


「ねぇ、魔力ってどうやって込めるの?」


「そこからか! ……まあ、わからなくても仕方ないな。少し力を込めて握れば大丈夫だ。自然に魔力が流れ込む」


 言われた通り、ステッキを握った手に軽く力を込める。

 握った手が少し冷えたような、スッとしたような感じがした。


「次に、遠くへ移動する感じをイメージするんだ。行き先は俺が設定する」


 遠くへ移動する感じ? 旅行? 転送?

 ステッキを握りながらいろいろとイメージしていると、やがてステッキの先端が輝きだした。

 それに合わせてお手洗いの扉が光りだし、ゆっくりと開く。


 ええっ!? どうなってるの!? トイレは!?


「ゲートが開いた! さあ! 行くぞ!」


 手からするりと抜けたステッキが私の後ろに回り込み、扉に向けて背中をぐいぐいと押し始めた。



   ◇



 あぁ、そうだった……。

 私、もう出勤してた……テーブル拭いてた……。


「そろそろ到着するぞ!」


 手元あたりからステッキの声がした。

 見ると、ステッキが私の右手にすっぽりと収まっている。

 それに、さっきまで落下していたはずが、いつの間にか飛ぶような姿勢になっていた。


「ぼーっとしてた。なんかいろいろ思い出してた」


「しかたないだろう。初めての空間転移だからな。逆に、よく正気を取り戻せたな」


「そうなんだ」


 褒められたのかな?



 真っ白な世界を進む。

 やがて、遠くに小さな点が見えてきた。

 その小さな点から、何本もの光の帯がゆらゆらと伸びている。まるで私を導くみたいに。


「あれが目的地だ。向かうぞ!」


 ステッキがそう言うと同時に、身体が加速した感じがした。


 見えていた点は、白い空間にぽっかりと空いた穴だった。

 穴の中には緑色の何かが見える。


「あれは……木? 森?」


「駄目だったか」


 ステッキが吐き捨てるように言った。


「駄目? 何が?」


「やむを得ない。このままいくぞ!」


「ねえ、何が駄目なの? 大丈夫なの!? ねえって!」


 私の言葉を無視して、身体がさらに加速する。

 恐怖から、私は両目をギュッとつむった。

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