絶頂期のその後
久々に優吾の姿を直視したせいか
小学生の時のことを思い出してしまった
2人は同じ高校に進学したが
今では口を聞くどころか顔を合わせることもほとんどない
今日のようにごく稀に駅や電車で見かけるくらいだ
近所に住んでいるというのに
その程度の関わりしかないのは
志保がなるべく優吾と会わないようにしているからである
あの肝試しを境に、志保は優吾と話すのが怖くなってしまった
家族同然に思っていた優吾にあんな風に拒絶されたことがショックで
勘違いしていた自分がとてつもなく恥ずかしくなった
志保が話しかけなくなると優吾との関わりはあっという間に無くなって
ああやっぱり必要とされてると思ってたのは
自分だけだったのかと傷つきながらも納得した
それだけでなく、今まで自分がみんなから
頼られ慕われる存在だとばかり思っていたことも
急に自信がなくなり、足元が崩れ去るような感覚に陥った
そして、積極的に誰かと関わることも目立つことも
なくなり「分をわきまえる」ということを知ったのだった
(私の絶頂期の終焉…ってとこかな)
といっても絶頂期と思っていたのは自分だけかもしれない
なぜそのような絶対的自信を待てたかと考えると
優吾の存在が大きかった
その彼に拒否されてしまったら
志保の砂の城は崩れてしまった
志保と話さなくなってからも優吾はますます女子からの憧れと羨望を集め
中学に上がる頃には全校の誰もが知る存在になってしまった
5年生の頃にすでに志保を越しそうになっていた
身長はその後もぐんぐん伸びて今では見上げるほどの高さになっている
綺麗な顔立ちをしていたのが
今では精悍さが増し、泣き虫で馬鹿にされていたときの面影はもうない
無表情で感情が読み取りづらいのは相変わらずだが
そのせいか声をかける勇気のある女子はなかなかいないようだが、ファンのように密かに想っている子が大勢いるらしい
(昔は私がヒーローだったけど、実はあっちがヒーローだった…っていうオチか)
苦い記憶をなんでもない風にするようにわざと自虐的なことを考える
中学の時、一度か二度優吾に話しかけられたことがあった
「柳、そっちの担任から渡すように言われた」
隣のクラスだった時に、志保の担任から頼まれたであろう書類を持ってきてくれた
いつもの無表情だったが
もう志保には優吾が何を考えているかわかる自信がなかった
そして「志保」ではなく苗字で呼ばれたことが
そうだろうなと予想はしていたが、
それでも寂しくてとてつもなく悲しかった
「ありがとう」と目も合わさずに受け取りそのまますぐ振り返った
また傷ついた顔を見られるのが嫌だったから
志保にとってはトラウマとも言える苦い記憶を思い出し、天気とは裏腹にどんよりとした気持ちで車内での時間を過ごしていた
最寄駅に着き、改札を抜けて自宅とは反対方向に向かう
優吾が自宅の方は向かうのが見えたからだ
近くの本屋かコンビニにでも寄ってから帰ろう
もう一度わからないように優吾が歩いて行った方向に目をやる
よし、行ったなと確認できると思った、が
自宅方向は歩いて行ったと思った優吾が、駅の敷地内にある花壇のフチに寄りかかって腕を組んでいる
何をしているのか気になり、つい見ているとだんだんと姿勢が崩れズルズルとしゃがみこんでいる
もしかして貧血か何かではないか
志保は咄嗟にそう思った
一見するとただしゃがんで休んでいるようにも見えるため誰も気に止める人は居ないようだ
もうしばらく優吾のそういう場面を見ていなかったが、もしかしたらまだたまに体調を崩す時があるのかもしれない
(どうしよう…このままほっといていいのかな?
貧血だったら休んだらおさまるだろうし)
志保はぐるぐると考えているが、優吾の顔色は青白く生気がない
もしかしたら貧血だけでなく、体調自体悪いのかもしれない
助けに行きたい
でもまた迷惑だって言われたら