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拒絶





「へー。そうなんだ」




優吾はいつも表情がわかりにくい

だから他の子達はクールでかっこいいと思うらしい




でも志保には優吾が少し面白くないと思ってることがわかってしまった





「なによ。なんか言いたいことあるなら言ったら?」





つい昔のクセで優吾に対して

偉そうな物言いをしてしまう




「今みたいにはっきり言ったらいいのに」



「え?」



「あいつにも、その気がないならキッパリ断れよ」




優吾は落ち着いていて、だけどしっかりと意思を持った目をしてまっすぐこちらを向いて言った




優吾がそんな踏み込んだことを誰かに言うなんて初めてのことだった




少なくとも志保が今まで見てきた中では



「な…なんでそんなこと言われなくちゃなんないのよぉ…」



相手の堂々とした態度に、つい弱々しい口調になってしまったのが悔しい




「後藤にとっても志保にとっても良くないと思うけど」




そんなことは言われなくてもわかっている




だけど自分はおそらくだけど、そういう色恋沙汰にはめっぽう弱い気がする




だから上手いかわし方や正しい断り方なんかをできるとは到底思えなかった




優吾は言いたいことを言ったらあとは、口をつぐんでズンズン進んでいく




自分だけ関係ないというような冷静な顔をしているのがまた余計に腹が立った



その涼しげな顔を歪ませてやりたくて強い言葉を投げかける




「優吾あんたは人のこと言えるの?

女子からキャーキャー言われて調子乗ってんじゃない?」



苦し紛れに半分事実を織り交ぜて八つ当たりをする



つい反応が欲しくて、攻撃的になってしまった




「別にキャーキャー言われてもないし調子に乗ってもいない」




「じゃあ私があんたのせいで迷惑被ってんのはなんなのよ!」




冷静に返されたのが癪に触って、言うつもりのなかった言葉がとっさに出てしまった



「あっ…」


「迷惑?」


優吾が怪訝そうな顔をして志保が言った言葉を繰り返す



「いや…ちがう…まちがいで…」



「はっきり言えよ。さっきも言っただろ」




いつになく強い口調で優吾が詰めてくる

こんなこと今まであっただろうか?




「……迷惑っていうか…

私が優吾と仲良いのをよく思わない子達がいて。

優吾のこと好きなんだと思う。

それで私が少し避けられたりしたからつい…」




話しながら最後の方が尻すぼみになってしまった




何が優吾の気に障ったのかわからないが

納得して落ち着いてくれたら、と願いを込めた




「………なんだよそれ」




しばらくの沈黙のあと優吾は足を止めてボソッと呟いた



そんなに大きな声じゃなかったのに優吾の声がはっきりと耳に響いて



ああ、前より低くなったけど小さい時から

不思議と優吾の静かな話し方が、そして声が、志保は好きだったことを思い出した




「おれのこと迷惑だった?」




ぼんやりと考えていると、優吾が言葉を続けて投げかけてきてハッとする




「…えっ」




「おれと仲良いと、一緒にいると誤解されて嫌だったんだろ。

泣き虫で面倒見させられてばっかりだったもんな。

そりゃそんなやつが好きだと思われたくないよな」




どうしてこんなに怒ってるの?



優吾が志保にこんな風に怒りをあらわにすることなんて


特にここ数年はあまり感情を表に出すことすらしなかったのに



志保はこの状況をなんとかしなければ

優吾をなだめなければと必死に頭を働かせた




「…っ迷惑とかじゃないって!私そういう話題苦手だもん!

しかも優吾と私なのに。そんなんありえないじゃない?弟みたいなもんなのにさっ」




なんとか弁解できたことでホッとして

最後は多少引きつりながらも笑いながら言い終えた




「ふーん、なるほどね」なんて言ってまたいつもの優吾に戻るはずだった




だが。




「弟じゃねぇよ、いい加減姉貴面すんなよ。

こっちの方が迷惑だ」





あの志保が好きな優しい落ち着きのある声が響いた




でも全然優しくなんかない




優吾が




あの泣き虫で、でも優しい優吾が私にこんなことを言うなんて




いつもしーちゃんすごいって言って




大きくなってからも志保の言うことを黙って聞いてくれて




私を受け入れてくれてた優吾が





「……な……によそれぇー……」




優吾に反抗されたのが自分でも驚くほどに傷ついたのがわかった



ぐらりと目眩がしそうなのを足に力を入れて堪えた



なんとかショックを悟られないように言葉を絞り出す



うまく表情を作れている自信がない



ライトに照らされた泥で汚れてしまったスニーカーを見つめながらなんとか時が過ぎるのを待つ



暗がりの中でも優吾がこちらを見ているのがわかった



「俺はお前に弟だなんて思って欲しくない。

そんな風に思われるくらいなら世話なんて焼かなくていいから」




ダメだ 



もうダメだ



完全に拒絶されてる



いつのまにか目に涙が溢れてくる


絶対にこぼしちゃダメ


だってバカみたい


恥ずかしい



「わ…わかったって…もう言わないから…

そんな怒んないでよもう…」




なんとか笑いながら絞り出した声はどんなに頑張っても震えてしまった




優吾に気づかれただろうか?




泣きたくない

無様なところを見られたくない




だって私は「優吾のしーちゃん」だから




優吾のかっこよくてすごいしーちゃんだったから







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