夏の嵐の前
(てかよく考えたら、優吾とペア組んだらまた優吾ファンに恨まれるだろうなぁ…)
あの時は焦っていて深く考えずについ優吾を誘ってしまったと少し後悔して志保はため息をつく
「なにそれ。なんのため息?」
「別に…。ちょっと疲れただけ」
目ざとく指摘されてドキッとする
何事にも関心が無さそうだけど、意外と肝心なところは見ている男だ
小さい時から優吾のピンチは志保が助けていたけど、志保のピンチを優吾が救ったことも実は少なくない
優吾は弱虫でビビリだったけど、
志保に関することにはなけなしの勇気を振り絞ったり、根性を見せる時が時たまあったことを思い出す
木登りをして降りれなくなった時
近所の子犬を見に庭に入ったら大きな親犬が怖くて動けなくなった時
お気に入りの鏡を草むらで落としてしまって泣いた時
そんな時いつも優吾が助けてくれた
と言っても
僕が支えるから木から飛び降りてといったのに
体の大きな志保の下敷きになり怪我をしたり
僕が犬を引きつけるから逃げてと言ったのに
自分も逃げられなくなったり
僕が鏡を見つけると行って暗くなるまで見つけられず結局泣きながら親に保護されたり
なかなか格好がつかなかったのだが。
優吾には下僕根性が染み付いているというか
自分に対して普段の恩を返してくれているかのような、どこか絆のようなものを志保は感じでいるのだった
「もしかしてあれ気にしてる?」
「あれって?」
「炊事場で後藤となんか話してたでしょ」
「…っ」
(なんで優吾がその話知ってるの…!?)
まさか優吾の口からその話題が出るとは思わず、言葉に詰まってしまった
「えっ、いやっなん…で?」
驚きつつなんとか言葉を返した
「いやたまたま通りかかった時見かけたし、そのあと後藤が野球部らへんに話してたから。
…やっぱそうなんだ」
あいつ。
やっぱり信用ならねぇな
それにしても優吾に知られてるとは
なんだか親に恋愛事情がバレたかのような気まずさがあり、それを誤魔化すようになんでもない風を装った
「あっそうなんだ。でも別に関係ないよ」
「そうなの?」
「そうだよ」
「でも前向きにって返事したんじゃないの?」
優吾がこんなに喋るなんて珍しいと思いながら
言われた言葉に驚き反応してしまう
「はぁ!?違うよ!友達になろって言われたから
それは断れないでしょ?」
なんとなく優吾に自分がそういうことをしていると勘違いされたくなくてムキになってしまう