伝えたい思い
駅の外で散々泣いて落ち着いたあと
優吾に手を引かれて、昔よく2人で遊んだ公園に来た
ベンチに腰掛けて公園を眺めると、子供の時の思い出が一気に蘇ってきた
砂場でお城やトンネルを作って
最終的には泥水を被って水遊びをしたこと
シーソーに乗ったけど小さくて痩せている優吾だとどうしても上手くいかなくて責めたこと
志保の思い出にはいつも優吾がいた
「ここからの景色新鮮だね」
志保が鼻を啜りながら言う
「いつも座る暇もなく動き回ってたからな」
優吾がそれに続けて揶揄うように言う
「いっつも志保にパシられたり、泣かされたりしてたね」
「なっ…確かにそういうこともあったかもしれないけど、助けてあげることのほうが多かったでしょ?!」
思わぬ口撃を受けて、志保は焦って弁明をする
「そうだな」
だが、あっさりと肯定されて拍子抜けしてしまう
「そんなあっさり認められると逆にやりづらいな…」
「ハハッ」
志保が狼狽えると優吾は顔をクシャッとして笑わせた
こんな風に笑う優吾を見るのは小さい時以来だ
「…子供の頃は、それが嫌だった
志保にいつまでも守られてるってのが格好悪くて」
その笑顔の破壊力にあっけに取られていると
優吾がそう話し出す
「男なのにいつまでたっても、志保にとっては守る存在の弟のままで。
正直焦ってた」
「……そんな」
当時を思い返せば、優吾の言っていることは当たっていた
志保にとって優吾は、守るべき存在で弟のようなものだと信じて疑っていなかった
確かに小学5年生の夏までは
じゃあその後はどうだろう?
優吾と話せなくなって、自分の優吾に対する想いに蓋をしてしまった
私あの林間学校で優吾に対して、そして「今」
どう思っていたんだろう
「あの時」
優吾が続きを話だし、志保はハッと気がつく
「林間学校の時、後藤が志保に告白したって聞いて動揺した。
志保は断るって分かってたけど、肝試しの時その話をしたら志保がいつもと違う感じがしたんだ」
「あぁ後藤に告られて意識してんだなってわかって。
それがすげぇショックだった
俺がなにを言っても志保は変わらない、弟だからって」
優吾は自分が辛かった時の話をしてるはずなのに
相変わらず感情が読めない表情で淡々と話し続ける
「だからあの時、弟だって言われてどうしても受け入れたくなくて
俺のことも男として見て欲しくて八つ当たりしたし
謝れなかった」
「そしたら志保の方も全然話しかけてこなくなって、謝るタイミングも逃して気まずくなって。
また弟みたいになれば話せるのかと思ったけど…
やっぱり俺には出来なくて
俺の思う気持ちは家族とかじゃなくて
志保に触りたいとか抱きしめたいとかそういうので
志保が思ってるのとは違うから」
優吾がこんなに話すなんて
林間学校の時より話しているじゃないか
と違うところにも驚きつつ
優吾が実はそんな想いを抱えていたことに驚きを隠せなかったし、つい顔を赤らめてしまう
「…………そう……なん…だ……」
なんとか絞り出して相槌を打つがなんだか落ち着かない
「あれからずっと踏み込んで嫌われるのが怖くて、避けてきた
でもやっぱり俺にとって志保は特別だから
他に目を向けようとしても
生まれた時から俺には志保しかいない」
真剣な眼差しで優吾が見つめてくる
「そ…そんな大袈裟な〜ハハッ」
その熱意が眩しいやら恥ずかしいやらで目を逸らしてはぐらかしてしまう
「大袈裟じゃないよ
俺にとって志保はその位大事だから
今まで怖がって触れないようにしてた
でも本当に失くすくらいだったら直接言いたい」
「好きだ」
優吾がまっすぐに伝えてくる
はぐらかせない
「弟としてじゃなく男として俺のこと好きになって欲しい」
こんなに真正面から
「絶対に後悔させないように努力する」
変わらないなぁ
どんなに見た目が変わっても
昔からひたむきで
真面目でズルができない
馬鹿正直でわかりづらくて
そばにずっと居て欲しい人
「………ばっかじゃないの?
謝るのと告白するのに何年かけてんのよ……」
「うん、ごめん」
「…ごめんで済んだら警察いらないのよ」
「一生償うから」
「……軽々しく一生とか言うなぁ…」
「軽くない。片思い何年してると思ってんの
今すぐに志保の家と俺の家に挨拶に言ってもいいくらいだよ」
だんだんふざけてるのか本気なのかわからなくなって頭が痛くなってきた
「志保」
またあの眼差しでこちらを射抜くように視線をよこす
「答えが聞きたい」
胸がいっぱいでなんて答えたらいいかわからない
さっきあんなに泣いたのに今は更にもっとグチャグチャに泣き出しそうだ
「ゆーご…」
それでもなんとか声を絞り出す
「うん」
「もう絶対に…あんな風にしないって…約束して…
あんな…知らない人のフリするみたいな……」
「…うん、絶対しない。ごめん」
「ごめんって言わないで…
ヒッ…。でも本当にね、辛かった…の…。ッ」
涙を堪えてしゃくりあげながら伝える
「好きとか…よく…わかんないけど…
私は…私には優吾がいないとやだよ…っ」
(もっと伝えたいことがあるのに)
これ以上は言葉に出来そうになかった
涙が溢れて言いたいことの半分も言えなかった
いつのまにか優吾に強く抱きしめられていて
昔より随分体が大きくなったはずなのに
なぜか懐かしい気持ちがして
これでいいやと思えた
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