殺戮の国へ
2030年、今や一般的になったARゲーム。
バトルものやランキングものが世間を賑やかしているがゲームはそれだけではない。
音ゲーや、自分で目標を決める砂場などなど。
そんな中で私こと銀乃アリスがハマったのはソーシャルARプラネットフォームだった。
みんな好きな皮を被ってコミュニケーションを楽しむ、ゲームとはいかずともコミュニケーションツール。
ただそこまでゲームに触れてこなかった私にとっては十分ゲームだった。
銀髪で青い瞳の顔が整った美女でも、現実でエプロンドレスを着るのはちょっと、いや大分キツイ。
だからこそ、そう言う服が着たくなった時ARデバイスをつけて、不思議の国のアリスの皮を被るのだ。
ARプラネットフォームにも区分? があって同じパッケージの拡張をしている人にしかこの装いは見えない。もちろんデバイスをつけていない人にも。
今日は普通にTシャツにデニムジーンズ、走りやすいスニーカー。
なぜなら、最近彼奴が巷を騒がしているのです。
金色の逃げるウサギが。
その金のウサギを捕まえると願いが叶う、と掲示板に書き込みがあった。
それに連なってウサギを捕まえた人たちが続々と書き込み始めた。
自分は銅のウサギを捕まえて5000円の食おうカードを貰った、とか。
僕は銀のウサギを捕まえてハワイの旅行券を貰った、とか。
正直嘘くさい。
商店街のクジ引きレベル。
この調子で行くと金のウサギは100万だけ置いて、願いは叶えてくれなさそうだ。
特段叶えたい願いがあるわけではないが、気になる。
気になってしまう。
だからこそ捕まえてみようぞよ。
先ずは何をするべきか、うーんと考えている私の目の前を赤いウサギが通った。
金でも銀でも銅でもなく真っ赤っか。
トマトというよりはリンゴの赤。
そんなウサギを見た瞬間、私は立ち上がり追いかけていた。
不思議の国のテクスチャを張られた代々木の公園をかけていく。
赤いウサギとの距離は絶妙で、私がスピードを上げれば同じように上げ、下げれば下げる。
道案内と言えば聞こえはいいが、何か物凄く馬鹿にされている感じ。
おどろおどろしくなっているバラ園を横目に走り抜けると展望デッキの階段が出てくる。
出てくるはずだった。
その階段の前には先程のウサギと同じような真っ赤な扉があった。
辺りを見回してもウサギはいない。
多分扉の中だろう。
もしくはウサギが扉になったか。
金ではないが仕方ないと、私は真っ赤な扉のドアノブを回した。
そこは教会だった。
普通の教会と違う所と言えば全てが赤いところだ。
壁面に十字架、ステンドグラスにオルガン。
全てが赤い。
影が出来ていてもその分類は赤だろう。
そして講壇の前に兵士がいた。
見たことのあるようなフォルム。
おもちゃのように表面が精巧に作られていなくてただ型に入れて固めただけのような。
そう、ブリキの兵隊。
ただひとりだけ突っ立っている兵士も真っ赤だが。
なにか不慣れな事をさせられそうな予感がしたので元来た扉を戻ろうと、後ろを振り向く扉はなかった。
正確には赤い扉だが。
入ってきた赤い扉とは装飾が違う扉があるので、これは教会自体の扉だろう。
クソっ。
ウサギとはそう言うものなのだろう。
色に見合った試練を受けさせてクリアすれば報酬が貰えるゲームのような。
掲示板の言葉を信じるなら食おうカードの人は最低時給換算で4時間分のゲームをクリアしたのだろう。
今更追いかけなければと思っても致し方がない。
そう思い兵士を観察しようと身構えながら近づくと、兵士がぶっ転んだ。
あっけに取られている訳にはいかないので兵士をよく見ると右足がなかった。
片足が無い状態で普通の動きをしようとすればそうなるだろう。
真っ赤な兵士の真っ赤な銃が私の足元にまで転がって来た。
それを拾い上げて兵士の頭を撃つと、先ほどまで振動していた兵士は痙攣を止めた。
ARデバイスの補助が効いているようで、銃の反動はなかった。