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ブラック・バード

作者: Y

ドラキュラ伝説の起源が、光線過敏症を引き起こす麻黄ドラッグだったとしたら…


「まだ、お陽さまに当たれないの?」


 俺が海辺のベンチで月明かりの海を眺めていると、女が隣りに座った。


 顔を見るとなかなかの美人だ。


「私はサラ」と名乗った。


「あなたドラキュラ部隊の生き残りでしょ?」


 先の大戦で、電磁パルス攻撃からの夜襲を担当した海兵隊の特殊部隊があった。


 電子機器が死に絶えた真っ暗闇の戦場で、自律型致死兵器システムの支援もなく、人間の肉体のみで銃器を操り、鬼神のごとく闘うことから、ドラキュラ部隊と呼ばれた。


 だが、俺たちがそう名乗ったことはない。


「そんなフザけた名前は知らない」


「エフェドラ・クレアは?」


「…」


 俺は黙ってタバコに火をつけた。


 Ephedra culeaは東欧に生息する麻黄の一種だ。漢方では風邪薬となり、エフェドリンを抽出すれば覚醒剤となる。


 だが、特殊な副作用があり、クレア麻黄は利用を忌避されてきた歴史がある。


 薬剤性の光線過敏症を引き起こすのだ。


 クレアを服用して紫外線を浴びると、肌に水疱が発生し、赤く焼けただれる。肌の露出が多いと、皮膚呼吸ができず数分で死に至る場合もある。


 薬を意味するdrogueとEphedra culeaがドラキュラの語源の一つと言われる。


「ドラキュラ部隊はあの薬をキメて闘ったんでしょ?」


 そのとおりだ。


 だから、軍用犬並みに鋭敏化した五感と、リミッターが外れた身体能力、剥き出しの闘争本能と冷酷な判断力で敵を駆逐することができた。


「戦後、軍がどう処分したか知ってる?」


「…考えたくない。今も死にそうな気分だし、いつフラッシュバックが起きるか分からない」


 軍の病院でクスリを抜いて三年経つが、いまも後遺症に苦しんでいる。


「ごめんだけど、気の毒に思わない。マフィアに横流しされたクスリを私は毎日射たれてるから」


 俺は、サラの露出が多い身なりに目をやった。彼女の仕事が分かった。


 マフィアが、戦争孤児を集めて売春や人身売買で荒稼ぎしていると聞いたことがある。サラは見た目よりも相当若いのだろう。


 そして、薬物もか。


「いまアレを持ってるのか?」思わず聞いた。


「ええ。マフィアから盗んで逃げてきたの」


 汗が噴き出して、視界が狭くなった。いつの間にか、震える手がサラに伸びていた。


 まずい。パニックが起きそうだ…


「止血しなくても静脈が見えるわね」


 サラは、落ち着いて私の左腕に針を入れると、静かにプランジャを押し込んだ。


 なんてことだ。


「クスリが切れるか、マフィアに殺られるか。どっちにしても死ぬぞ」


 禁断症状と闘った三年間が振り出しに戻ってしまった。しかも、マフィアを敵に回したようだ。


「お願い。闘って死にたい。そしたら、お陽さまで焼け死んでもいい」と、サラは私に額を当てた。


 不思議とサラに対して怒りを感じない。


 力が満ちてきた。


 あの万能感だ。


「…ああ!こんなのはどうだ?二人で逃げ切って、それからクスリを抜く。ビーチに裸で寝転んで日光浴をするんだ!」


 サラは微笑んだ。


 単に、俺にクスリが効いてきただけだと思ったのかもしれない。


 だが、俺は本気だ。少なくともこの瞬間、世界を敵に回しても構わない…


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