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1、万引きは犯罪です

(全4話改め、全3話です)

 ミオンは苛ついていた。


 昨夜に行われた仲の良いギルドメンバー内でのカードゲーム大会で大負けに負け、罰ゲームをする羽目になったからである。


 基本的に運が良い彼女にとっては信じられない程の屈辱的な負けっぷりであった。


 冒険者としての職業(ジョブ)盗賊(シーフ)の彼女ならイカサマを行うのは容易い事だったが、本人曰く「プライドが許さなかった」らしい。


「くっそー。何であそこでババ引いたかなー」


「まだ言ってるのか。いい加減諦めろ」


 同じパーティーに所属しているリルベルトが苦言を呈した事で、彼女の機嫌はますます斜めを向く。


 彼はミオンが一方的にライバル視している昔馴染みの剣士だ。

昨夜はミオンに次ぐ敗者であり、今回の罰ゲームを共に行う仲間でもある。


 ちなみに罰ゲームの内容は「ギルドに寄せられた一番安くてショボい仕事をこなす」というものだ。

その日暮らしの冒険者が多いこのご時世、中々に厳しい内容と言って良いだろう。


「アンタは何でそんな平然としてられんの? 今日の依頼内容分かってる?」


「当然だ。やるからにはしっかり働かねばプロではない」


「出たよ石頭」


 ミオンとて手を抜くつもりはないが、如何せんやる気が起きないのも事実である。

今回の依頼は「町外れにあるお菓子屋の私服警備」であった。

名目は格好良いが、実際の所は「駄菓子屋で万引きする子供を捕まえろ」という事だ。


 報酬は八時間で五百マニ。

一日働いてワンコインとは流石にふざけ過ぎている。


 ミオンは開放的な駄菓子屋の出入り口から狭い店内を見つめた。

客はいない。

依頼人こと、店主のお婆さんが暇そうに紅茶を飲んでいるだけだ。


 ミオンは声を落としてなおリルベルトに愚痴をこぼし続ける。 


「ショボい依頼っても、せいぜい野犬退治とかだと思ったのになぁ。これじゃあ子供のお使いの方がまだマシだよ」


「しつこいぞ。警備に集中しろ」


「この小さな駄菓子屋じゃ、むしろ私等の方が不審者だけどね」


 時折子供がやってくれば、さり気なく店を出て監視する。

その作業の繰り返しだ。


「つーか今日一日警備しただけでそう都合良く万引キッズが現れるとは思えないんだけどー」


「それはそうだが、こんな報酬では継続して引き受ける冒険者なんていないだろう。例え今日だけだとしても、万引きは無いに越したことはないしな」


「正論だし同意だけどウザい」


 ミオンは盗賊(シーフ)として勘と目の良さに自信がある。

今回の警備に剣士であるリルベルトが役に立つとは思い難く、その不公平感がより彼女の機嫌を損ねていた。


「アンタ、もし万引きするクソガキッズが現れたとしても、絶対に怪我させちゃダメだかんね?」


「馬鹿にしているのか? それ位の手加減は出来る」


「本当に手加減出来る奴は暇つぶしの腕相撲で相手の骨にヒビ入れたりしないんだよなぁ。あれは痛かったなぁ~」


「すまなかった」


 子供の頃の話とはいえ、彼女の中で時効は無いらしい。

リルベルトが生真面目に謝罪すれば、捻くれ者の彼女は逆に「謝んなし!」と頬を膨らませた。


 一体どうしろと? と眉を顰める彼を尻目に、ミオンの目は店の警戒を怠らない。


 変化が訪れたのはそろそろアフタヌーンティーの頃合いかという時だった。


「なんだか客が増えてきたな。手元が見辛いし、俺達も店に入るか?」


「(リルベルト、しっ)」


 リルベルトはミオンの鋭い制止と共に口を閉ざす。

「待機」のジェスチャーを残し、ミオンは一人店内に足を踏み入れるとある(・・)技能を発動した。

彼女の素朴な栗色の瞳が紫色に変わる。


技能(スキル)盗賊の目(シーフ・アイズ)


 この技能は盗賊(シーフ)専門の便利スキルで、要は「魔力と培った経験を元に、対象をもの凄くよく観察する」という代物である。


 彼女は「ビスケットにしよっかな~」と客をかき分けつつ、横目で一人の少年を盗み見た。


 十歳位の大人しそうな少年だ。

身なりからしてごく一般的な平民だろう。


(随分緊張してるなぁ。初犯か? それにしては……)


 店外からミオンが視認しただけでも二つは盗られている。

飴玉と小さなチョコレートだ。


 にこやかにビスケットを購入しながらも彼女の目は鋭く少年を追い続ける。

少年の口が小さく動くのを彼女は見逃さなかった。


(あ、またポケットに……今のはグミか)


 本人は完全に死角を突いているつもりなのだろう。

実際、普通に買い物をしていたら誰も気付かない位には上手い犯行だった。


(さて、一番気になるのは……)


 ミオンはグルリと店内を見渡すと少年から目を離す事なくリルベルトを手招きする。

音もなく近寄ってきた彼に、ミオンは小さく耳打ちをした。


「(一人が盗った。でも周りの子も不自然。グルかも)」


「何?」


「(シッ! 盗った子の様子が気になる。様子見希望)」


「……チッ」


 舌打ちを了承と捉え、ミオンは少年が何も買わずに退店するのを見送った。


(あれ? 周りの子達はまだ店に残るんだ?)


 グルの犯行という見立ては間違いだったのか──

怪訝に思いつつも、ミオンはリルベルトに「追跡」の意を示す。

小さく頷いた彼は足早に万引き少年の後を追っていった。


(さぁて、どうするかなー)


 店に残る子供は全部で六人。

怪しいと感じたのはその内の四人である。

一人一人がいかにもヤンチャそうな少年達だ。


 ミオンはポリポリと頭を掻くと「お婆さん、今買ったビスケット、やっぱクッキーと交換でー!」と再入店したのだった。

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