孤独な姉弟
私はバーネット伯爵令嬢アグネス、私は誰からも愛されていない。正確には家族からだ。私の家族は従姉妹でセルンドフ男爵令嬢のマリアンネ嬢を溺愛している。私には1人弟がいるが、妾との子な為、話せない。しかし私に懐いてくれて、使用人たちに馬鹿にされている私にとっては癒しだ。
弟は金髪碧眼で顔も整っている。そして、驚くほど御父様に似ていない。むしろ国王陛下に似ているぐらいだ。
マリアンネ嬢は病弱で、よく伏せっているらしい。その為、親戚一同はマリアンネ嬢にばかり気をかけ、私や弟はおざなりにしている。よく屋敷にくるが、私の宝飾品などを奪っていく。お父様もお母様も、マリアンネ嬢に与えるように命じられるのだ。明らかにおかしいと思う。私のものは私のものだし、マリアンネ嬢も多くのものを買い与えられているのに。
今日もまた熱を出したようだ。お父様やお母様、そしてお兄様が慌てて、屋敷を出る様子が見える。私は家から出て行く馬車を遠目で見ていた。
「お姉様、失礼します。入っていいですか?」
「セド?入りなさい」
「ありがとうございます」
お父様やお母様がいなくなったのを見て来たのだろう。お母様はお父様が外で作った妾の子供のセドを見るのを嫌がる。セドはこんなにも愛らしくて可愛いのに。その為、セドはお母様がいる間は、離れで過ごすように命令されていると前に教えてくれた。
「セド、こっちに来なさい」
「お姉様、僕、寂しかったです。教師の方々も、最近はあまりお勉強を教えてくださらないのです。もう四則演算はできますし、読み書きもできるので、もっと先の事を教えて欲しいのですが」
「セドはまだ4歳ですわ。その年齢でそれだけできるのはすごいことなのよ。教師たちにも教える分野に専門があったりしますし、もう少ししたら変わりますわ」
「私は将来お姉様を守る騎士になりたいのです。だから剣を教えて欲しいのです。それをお父様に頼みたいのですが、お父様は僕が嫌いなようなのです。お話をしようとしても無視されるのです。勉学は楽しいのですが、止められているように感じ、悲しいです。まだ魔法は使えませんし。図書室の本も全て読み終わりました。何もやることがありません。お姉様、僕は何をすればいいのですか」
「セド、外出許可は貰えていないの?」
「はい、未だいただけていないです」
「お小遣いは?」
「毎月金貨一枚頂いています」
「そう。でしたらまずはお父様に街に出る許可をいただけるように頑張りなさい。街で友達でも作られればよろしいでしょう。そうすれば退屈ではなくなりますよ」
「しかしながら、お父様は私が大変嫌いなようなのです。口を聞くどころか顔を合わせるのも避けておいでのように感じます」
「セド、お父様は絶対にあなたを連れ出す時が来ます。洗礼の儀を知っておいでですよね」
「もちろんです。魔法適正を確認し、神から加護を頂く日です。しかしながら、魔力を持つ人間はほとんどいないと伺いましたが」
「はい、事実です。魔力は遺伝の確率が低いのです。両親がどちらも魔法使いでどうかという話ですね。マリアンネ嬢も私も持っていません。もちろんお兄様もです。しかしながら、洗礼の儀は絶対に行う必要のある儀式です。セドも行くことになるでしょう」
「その時ならお父様もあってくださるかもしれませんね。お姉様、ありがとうございます!その時にお願いして見ます」
「それがいいと思います」
「それでお姉様、遊んでくださりませんか」
「セド、それは難しいです。私は淑女です。淑女は礼儀正しくしないといけませんし」
「お姉様ーお願いです」
「無理でしょう。私が外でセドと遊んでいるのが見られれば怒られます。セドの立場も悪化しかねません。それより、セド、あなたは痩せています。食事はどれぐらい与えられているのですか」
「一日2食、パン一個とスープです」
「それでは大変ですね。セド、もう少しで昼食の時間です。私のを分けましょう」
「それはお姉様に迷惑がかかります。」
「迷惑ではないですよ。私は3食いただけますし、パンとスープだけではなく、お肉や、野菜もいただけます。少し分けるぐらいはなんてことありません。セド、人の善意は受け取りなさい」
「はい」
「素直で良い子ね」
弟は本当に可愛らしい。弟は、私の部屋で昼食をとった後帰って行ったが、その豪華さに驚いていた。
そして、次の日、お父様とお母様、そして、お兄様、更にはマリアンネ嬢と叔母様、叔父様がやってきた。
「マリアンネの回復祝いをするぞ」
「良い提案ですね」
「ねえ、アグネス、そのネックレス欲しいのだけれど。ちょうだい」
「これは私の去年の誕生日祝いで」
「いいでしょ」
「アグネスあげなさい。マリアンネは病弱で可哀想なの。それにあなたと違ってこんなに可愛らしくて素直なのよ」
「しかし、嫌です」
私が自分のものだと嫌がっていたら、お兄様に無理くり外され、マリアンネ嬢につけられてしまった。マリアンネ嬢は一回盗ったら絶対に返してくれないし、実の妹に対してこれは酷すぎる仕打ちだと思う。
「アグネス、部屋に戻れ。マリアンネは病み上がりなんだ。それなのにお前のわがままは見逃せん」
そして、私はお父様の命令により強制的に部屋に戻された。お父様もお母様もお兄様もみんな、マリアンネ嬢の味方。この家は狂っている。侍女も絶対に私を見下して、色々と意地悪をしてくる。一応主人一家だけど大事にされていないから大丈夫と思われているみたい。正室の娘の子供の私でこんな状態なのだからセドなんてもっと酷いのかもしれない。しかし、この家の中ではセドだけが私の味方だ。
そして、侍女が私の昼食を運んできた。今日のデザートは果物のようだが、やはり剥いてくれない。私は知っているのに。マリアンネ嬢やお父様、お母様のには剥いていることを。絶対に馬鹿にしているのだろう。もう私は人生に絶望していた。そして、果物を剥くためのナイフを手に取ると首に当てて、自殺を試みた。
「お嬢様、なんてことを。」
どうしてわかったのか運んできた侍女が飛んできた。私は離さまいとしたが、飛んできた侍女が叫んで、もっと侍女がやってきて、強制的に剥がされた。その後、お父様とお母様がやってきた。
「なんてことを。自殺を試すなんて、貴族失格よ。更には侍女を傷つけるなんて」
そんなことしていないのに酷い。
そこにクライブ様もやってきて、婚約破棄を宣言なさられた。そして、とりあえず私は幽閉された。でも、修道院に入れるとかの話が聞こえてきた私は、危機感を持った。そして、今まで何度か手紙を書いてくれたが、全く返事をくださらなかった叔母様へ、最後の望みをかけて手紙を書くことにした。
私はずっと勉強したかった。セドと似ているのだろう。そのため、隣国の女子用の学校に入れてもらえるように頼んだ。いずれ学費は返すからと。
そして、密かに部屋を抜け出して、叔母様に届けるように依頼してきた。侍女とかに託すと、絶対に危険だからだ。逃げようとしているのがバレてはいけない。この家に思い入れはない。セドを除いて。セドだけが私の真の家族だ。私を慕ってくれた。本当に可愛い弟だった。
結局、私の処分は噂通りだった。私は正式に修道院に3年間入れられることになったようだ。3年後は19歳、ギリギリ嫁ぎ遅れにならない程度にしたのだろう。
私の家族やマリアンネ嬢は私の見送りに来たけれど、明らかに私を蔑んでいた。そして、セドが茂みに隠れて私に手を振っているのが見えた。私は密かに手を振りかえした。本当に可愛い弟だった。もうしばらく会えないのが寂しい。
そして、馬車は修道院に向かっていった。そして、修道院に着いてしまった。これから私は大変な思いをして、過ごすんだろう。世の中は不平等だ。
しかし、修道院長の部屋に連れて行かれると、お母様より少し年上の女性と、聖職者の服装を着ている男性がいた。
「アグネス・フォン・バーネットと申します。これから3年間よろしくお願いします」
「礼儀正しい子ですね。でも、修道院ではすごさないわ。私に着いてきなさい。私があなたの叔母のダニエラです。貴方の望み通り学園に入れてあげましょう。貴方の後で学費は返すなどの事実上の投資の提案は面白かったです」
「ありがとうございます」
「さて、行きましょう。修道院長、お願いしますね」
「もちろんでございます」
叔母様との旅は楽しかった。ただたまにセドが心配になってしまう。セドはもう少しで五歳だ。大丈夫か心配でたまらない。そして、私は無事に学院に入られた。学院生活は楽しく、友達もできた。更には思いがけなく、叔母様が、王弟殿下の妃殿下だということを知った。更には従姉妹にも会えた。従姉妹は私より一つ上ですでに嫁いでいるのだが、偶に帰省する時に話す。結構仲良くなって盛り上がるし、そこに叔母様も含めて楽しい。学院は平日は寮だが、土日は叔母様の屋敷で楽しく過ごしているのだった。
叔母様にセドのことを話したところ、密かに腹心の侍女を送ってくださってセドを守ってくださるようだ。本当に叔母様にはお世話になりっぱなしだ。いずれは職業夫人として、叔母様にお金も含めて恩返ししなければ。