第88話
リザードマンとコボルトの群れを倒してから少し休憩をして先に進む。すると、僕達の方に向かってくる冒険者の姿があった。
「君たち、こっちにリザードマンとコボルトの群れが来なかったかい」
冒険者のリーダーと思われる男が声をかけてくる。
「ええ、来ましたけど倒してしまいましたよ。もしかして、狙っていたリザードマン達でしたか?」
「ああ、いや、そうじゃないんだ。そのリザードマンの群れはかなり大きくなかったかな?」
「ああ、確かにいつものリザードマンの群れよりは多かったね。それがどうしたのさ?」
カルラが僕の代わりに答える。
「実はあれは僕達を追いかけていたリザードマンの群れなんだ。まあ、実際はもう1組の冒険者パーティーもいたんだけど、その冒険者パーティーと一緒に咄嗟に同じ部屋に逃げ込んでね。そしたら、2つに群れが一緒になってしまったみたいなんだ。しばらくは、その部屋の前を徘徊していてね。諦めてその部屋で1晩を過ごしたんだ。朝になってもいたからどうしようかと悩んでいたら、いつの間にか消えていてね。それで、この階層から帰るために出口に向かっていた所を君たちに出会ったんだ」
「リザードマンの群れはこのダンジョンでは結構出てくるよ。それが、倒せそうに無いならこの11階層は難しいんじゃ無いのかい。リザードマンの群れが大きくなって、それで、他の冒険者パーティーが全滅することもあるんだよ」
カルラが冒険者パーティーに攻めるように言う。
「申し訳ない、引き際を誤ってしまってね。魔法使いの魔力が厳しくなってしまったから逃げたんだよ。ただ、運悪く反対側からも同じように追われている冒険者パーティーに出くわしてしまってね。部屋に逃げるしか無かったんだ」
リーダーの男が沈痛な表情で謝罪をしてくる。
「カルラ、もうその辺で良いよ。こっちとしても良い訓練になったし、流石にタイミングだってあるからね。逃げ込める部屋が近くに無かったら走って逃げるしかないんだから。今回は全員無事だったんだから良かったじゃないか」
僕はカルラにその辺で許すように言う。
「これから、そちらはどうするの?」
僕は冒険者パーティーのリーダーの男に聞く。
「僕達にはまだ11階層は厳しいみたいだからね。10階層でフレイムブルの肉集めをやるよ。最近まではそれをメインにしていたからね。そろそろ、次に進もうと挑戦したら引き際を誤ってしまったというわけさ。それじゃあ、僕達はそろそろ行くよ。でも、あのリザードマンの群れを倒してくれてありがとう。そっちの女性の言ったとおり犠牲者が僕達のせいで出てたかも知れないからね」
冒険者のパーティーは僕達にお礼を言って出口の方へと向かって行った。僕達はその背中を見送るがその背中は少し悲しそうだった。
「冒険者には引き際をちゃんと見極められる経験がないといけないよね。何でもかんでも挑戦すれば良いって訳でもない。死んだらそれまでなんだし、自分だけじゃなくて仲間の命も預かっているなら余計に引き際を誤ったら駄目だよね」
僕は帰っていく冒険者パーティーに向けてそんな事を呟いた。
「さて、じゃあ、先に進もうか。まだまだ序盤だからね。最初に言ったように11階層の中間ぐらいにある部屋まで行くよ」
そうして、先に進んで行く。僕達はカルラの記憶とギルドで買っていた地図を頼りに進んで行く。
中間ぐらいと思われる所にさしかかる。道中にオーガ等と出くわしたりもしたが少数だったこともあり苦戦することなくも進んで来られた。
そして、ハイオーガとオーガ数匹、さらにはリザードマンとコボルトの群れを引き連れてこちらに逃げてきている冒険者パーティーと遭遇してしまう。
「仕方ない、見捨てるのも目覚めが悪いかな。《地魔法アースウォール》」
僕はこちらに必死の形相で逃げてきている冒険者パーティーと魔物の間に土の壁を作る。今回の壁は通路のない壁であり、冒険者パーティーと魔物達を分離させた。
冒険者パーティーがそれを見て僕達の方へと駆け込んでくる。
「すいません、助かりました」
冒険者パーティーのリーダーと思われる女性が息を切らせつつ声をかけてくる。
すると土の壁が大きな音を立てる。見ると、土の壁に亀裂がすでに入っていた。それを見て、逃げてきた冒険者パーティーのメンバーの顔が引きつっている。
「ハイオーガの力が思った以上に強いね。次で壊されるかな。まさか、ここまで早く壊されるとは思わなかったな」
「どうするんですか?このままじゃあ、土の壁が壊れちゃいますよ」
リーダーの女性が慌てたように言う。
「君たちでリザードマンとコボルトの群れは相手に出来る?」
「リザードマンとコボルト達だけなら何とか大丈夫ですけど、ハイオーガやオーガが数いるんですよ。壁をもう1度作ってその間に何処かの部屋に逃げ込んだ方が良いのではないですか?」
リーダーの女性は逃げた方が良いと言うが僕は首を横に振る。
「あそこまで大きい群れになってしまったら他の人も困るからね。ここで倒してしまおう。カルラとフィーナでオーガを引きつけてセシリアとマリアの魔法で数を減らす。僕はその間に、ハイオーガと戦う。リザードマンの群れのはそっちでお願い」
「わ、分かりました。皆、少しは休めた?なら、もう少しだけ頑張ろう」
リーダーの女性が仲間の冒険者を鼓舞する。そして、土の壁が崩された。壁を壊してきた他のオーガよりも大きいハイオーガと思われる魔物に僕は向かって走る。
「《火魔法ファイヤースピア》」
最初の先制攻撃とばかりに火の槍をハイオーガに放つ。
「ご主人に付き合っていると命がいくつあっても足りないね。《地魔法ストレングスアップ》」
カルラとフィーナがそれぞれ、魔法を使い身体能力を上げて壊れた壁から入ってきたオーガと戦い始める。
火の槍を放たれたハイオーガはそれを避けるのでは無く、持っていた剣で切り払った。
「魔法を切るとか、これは思ったよりも強敵な予感だね。《地魔法ストレングスアップ》」
僕は向かっていた足を止めて魔法を使う。魔法を使わなかったら厳しいと判断する。ハイオーガは剣を僕の方へと構える。そして、僕がその間合いに入ると剣を鋭く振り降ろしてくる。ハイオーガはストレングスアップを使う前の僕の速度では対処が無理だったであろうが今は魔法を使っている。僕はその振り降ろしを身体を横にずらして躱して剣で首を狙う。しかし、ハイオーガの片腕が速い動きで剣を弾く。僕は防がれたことに驚き距離を離す。
(まさか、剣を素手で殴ってくるとはね。しかも、ハイオーガの動きが僕の想像よりも速かった。剣の振り降ろしも実は手を抜いていたのかな)
僕は短く息を吐くと剣を構えてまたハイオーガに向かって行く。ハイオーガは今度はものすごい速さで剣を振るってくる。僕はその剣を自分の剣で受け流す。そして、ハイオーガの剣を受け流しながら少しずつ近寄っていく。ハイオーガは少しずつ向かってくるに僕に苛つきを見せる。僕はそれを見てニヤッと笑う。
「僕ってさ、魔法も使うんだよね《地魔法アーススパイク》」
単調になってきたハイオーガの攻撃を受け流しながら魔法を放つ。ハイオーガの足に鋭い土の棘が刺さる。いきなり足に痛みが走り、ハイオーガは一瞬動きを止めてしまう。僕は動きを止めたハイオーガの首を狙って剣を振るうがハイオーガはすぐに剣で防ごうとする。
「《火魔法ファイヤースピア》」
僕はさらに魔法を使い、火の槍をハイオーガの顔に向けて放つ。ハイオーガは向かって来ていた剣の方を見ていたために火の槍を避ける事が出来ずに食らってしまう。そして、怯んだところに僕は剣を突き刺して止めを刺した。
「ハイオーガって思ったより強かった。まあ、1人で戦うとなるとこんな物かな。さて、カルラ達は大丈夫かな」
僕がカルラ達の様子を見るために振り返ると最後のオーガをフィーナが仕留めているところだった。リザードマンの群れをお願いした冒険者達もどうやら無事に終わらせたみたいだった。
(やっぱり、魔法の援護があると余裕があるのかな。連携ってやっぱり大事だね)
僕はそんな事を思いながら少し疲れた様子を見せているカルラ達の方へ向かった。