第69話
マリアとフィーナの実力を確認した次の日に予定通りにダンジョンへと向かう。マリアとフィーナには新しい武器を用意して、身体を守るのはベへモス革で作ったレザーアーマーにした。因みにセシリアにも同じ物を用意した。武器屋のおじさんにはこんな物を加工出来ないと言っていたが僕がその加工を手伝って何とか3人分のレザーアーマーを完成してもらった。それを、マリアとフィーナの訓練の為に用意した1週間で用意してもらったのだ。
「ご主人様、これってどんな魔物の革を使ってあるのですか?」
セシリアが恐る恐る聞いてくる。
「これは、ベへモスの革を加工して作ったんだよ。正直に言えばドラゴンの革で作ったのが良かったんだけどね。流石にそんな革を自分では加工出来ないって言われてしまってね。だから、ベへモスのを僕も協力して加工して作ってもらったんだよ」
「ベへモスとアースドラゴンの革ではそこまで違うのですか?」
「いや、ドラゴンの革はアースドラゴンのじゃなくてレッドドラゴンの革を使おうと思ってたから」
「それは、無理でしょう」
セシリアが呆れてしまう。
「それを加工出来るとしたらエルダードワーフの人達ぐらいしかいないと思いますけど」
「へえ、エルダードワーフなら加工出来るのか」
「ドワーフの人は金属加工が得意と言われています。エルダードワーフの人は全ての素材を加工出来ると言われています。まあ、私の里に来ていたドワーフの人が言っていたことなので本当の事は分かりませんけど」
「そうなのか。まあ、エルダードワーフの人もハイエルフと一緒で隠れて暮らしていると言われているから仕方ないか。ドラゴンの革の加工はエルダードワーフの人と知り合ったときにお願いしようか。それじゃあ、ダンジョンの1階層を行ってみようか」
僕の言葉を聞いてマリアとフィーナの顔が強ばる。
「どうしたの?」
それを見て僕は声をかける。
「私に生き物殺せるかなあ」
フィーナが自分の手を見て呟く。
「私はまだ遠くから魔法を打つだけなのでまだ大丈夫だとは思いますけど、フィーナさんにはまだ早い気はします」
「早いも遅いも無いけどね。僕は小さいときからボアとか狩ってたから、まあ、こればかりは回数をこなして慣れていくしか無いね。まあ、ゴブリンは人型と行っても人とは全然違うから大丈夫でしょう。それでも、無理なら相手を憎い奴の顔に置き換えたら良い。君たちは国を失ったんだよ。滅ぼされたんだよ。それに対して憎しみは無いの?滅ぼした国で辱めを受けたんだよ。それに対して憎しみはないの?その憎しみをまずはゴブリンにぶつければ良い。流石にこの国の騎士に今からぶつけられたら僕が困るからそれは無しね」
「うん、分かったよ、お兄ちゃん」
フィーナが何処か硬い表情で頷く。
「じゃあ、入ろうか」
そうして、ダンジョンに入って行く。
ダンジョンに入ってしばらくするとゴブリンが3体ほど歩いているのが見えた。
「ゴブリン3体ならフィーナの実力なら大丈夫でしょ。フィーナ一人で戦って見て」
「えっ、最初から1人なの!無理無理無理!」
フィーナが驚き首を何度も横に振る。
「あのさ、模擬戦であそこまで出来てたのなら戦うのは余裕だよ。ただ、殺す覚悟だけが無いだけさ。だからここでゴブリン相手に覚悟を持ってもらう。さっき、言ったよね。憎い相手を思い浮かべて、殺したいほど憎い相手をね」
フィーナが息を呑む。そして、槍を構えながらゴブリンの方へゆっくりと歩いて行く。
「マリアは大人だから割り切れるとは思っていたけどね。流石にフィーナは少し背中を押さないと難しいよね」
「そうだけど、かなりやり方が強引じゃ無いのかい」
僕の呟きにカルラが返す。
「遅かれ早かれしてもらわないと行けないからね。せっかく、練習するためにダンジョンがあるんだから活用しないとね。フィーナの実力なら大丈夫でしょ」
フィーナは槍の間合いに入る前に足を止めてもう1度強く槍を握る。
向かって来ていたフィーナが足を止めたことで、近寄ってくることを待っていたゴブリンが手に持った棍棒を手にフィーナに向かう。
フィーナは先頭で走って来たゴブリンの棍棒を持った手を軽く切り、その切り返しでゴブリンの首を大きく切り裂く。そのゴブリンはそのフィーナの攻撃で倒れる。フィーナは1体倒して後に後ろに飛び間合いを開けてから2体の内1体に狙いを定めて走り出す。
ゴブリンの棍棒を持っていない方に走り交差して、そのまま走り抜ける。そして、交差するときに足を切りそのゴブリンを転ばせる。そして、転けたゴブリンの首に槍を突き刺してその命を奪う。
残った1匹のゴブリンが警戒をしてフィーナに近づこうとしない。ならばとフィーナは自分から間合いを詰めていく。ゴブリンもやけになったのか棍棒を出鱈目に振り回しながらフィーナに向かって行く。フィーナは冷静にゴブリンの棍棒を持っている手を切る。そして、棍棒を落としたゴブリンに槍の連撃を入れて切り刻み絶命させる。
「最後のは、ちょっとやり過ぎてるけど、やっぱり余裕はあったね。もうちょっと戸惑うかと思ったけど始まってみれば、そうでも無かったね。見ていた感じでは身体が勝手に動いていた感じかな。父親の才能を受け継いだから身体が自然と動いたって感じだろうね」
肩で息をしているフィーナに僕は感想を言う。
「お嬢様がこんなに強かったなんて私は知りませんでした」
「そりゃあ、そうでしょう。誰も武器を持たせようなんて思わなかっただろうからね。これで、魔物相手なら大丈夫かな。まあ、人相手になるとまだどうなるか分からないけど、そこは今は良いか」
フィーナの実力を改めて見てマリアが少し複雑な顔をしている。そこに、フィーナが笑顔をやってくる。
「何か、思ったより出来たよ。どうだったかな、お兄ちゃん」
「想像より簡単に倒してたから驚いているよ。最初は戸惑うかなって思ったんだけどね」
「何か、ゴブリンってこれぞ魔物って姿だから、倒すことに戸惑いは無かったんだよね」
「それは良かった。なら、ダンジョンならフィーナは戦えるね」
「うん、何とかなると思うよ」
「じゃあ、次はマリアだね。ゴブリンを探そうか」
そして、ゴブリンを探すためにダンジョンを進んで行くのだった。