第68話
1週間の訓練を終えてマリアとフィーナの訓練の成果を見ることにする。訓練はセシリアとカルラに全てを任せていたためにどれくらい強くなっているのか僕は見ていなかった。
「じゃあ、1週間でどれくらい強くなったのか見せてもらっていいかな。セシリアとカルラからは5階層迄なら大丈夫という話は聞いてるよ。まあ、ボスのオークキングを一人で倒すのは流石に無理とは聞いているけどね。マリアから見せてもらって良いかな」
「分かりました。《火魔法ファイヤースピア》」
離れた位置にあらかじめ置いていた的の中心を火の槍が貫きさらには燃やし尽くした。
「へえ、威力も高いし命中率も良いね。じゃあ、次ね。僕が的を手に持って動くからその中心を貫けるかな?」
そうして、僕は的を頭上に掲げて歩く。
「《火魔法ファイヤースピア》」
マリアが魔法を放つ。その魔法は動いている的の中心を貫いて燃やし尽くしたのだった。
「歩く速度くらいだったとはいえ、ちゃんと中心を射貫くなら魔物にも通用するね。オークなら的として大きいから当てられるだろうからね。後は、ダンジョンに行ってゴブリンやオーク相手に実践を積んでいこう」
マリアは大きく頷く。2回とはいえ魔法を使って息切れもしていない、その様子を見る限りまだまだ魔力の方は余裕があるみたいだった。
「さて、じゃあ、今度はフィーナの方を見ようかな。槍の扱いに慣れてきたって聞いたから、僕と模擬戦をしようか。僕も模擬戦用の刃を潰した剣を使うから」
「ええ、的を相手にするんじゃ無くて、お兄ちゃんと模擬戦するの?」
「そうだよ。カルラとは模擬戦はしなかったの?」
「模擬戦はしてないよ。ただ、打ち込む練習をさせてもらっただけ」
「そうか、じゃあ、僕と模擬戦しよう。君の槍も刃を潰した槍にしてね」
「模擬戦はするんだ。当てちゃっても怒らない?」
そんなフィーナの言葉に僕は笑う。
「あははは、当てられるなら当ててみればいいよ。流石に1週間ぐらいしか練習してないフィーナに当てられるとは思わないけどね」
そんな言葉にフィーナは頬を膨らませながら槍を構える。僕は自然体で剣を構えてフィーナの出方を見る。
フィーナが槍を構えて1度大きく呼吸をする。それだけでフィーナの雰囲気が変わったことがわかる。
(あれ、これは真面目にやらないと当てられるかな?)
そんな事を思っていると、フィーナが一足飛びで僕に肉薄する。
「!」
僕は驚くと、フィーナがその槍を鋭く突いてくる。僕がそれを横に避けると、その避けた方向になぎ払ってくる。僕はそれを剣の腹で受け止め最小の動きで飛んで槍の上方を避ける。
フィーナは当たらなかったと見るとすぐに後ろに飛んで距離を取った。
(想像以上に槍が鋭いんですけど、嬉しい誤算ではあるんだけどね。今、戦っているのが僕じゃ無ければね)
距離を取ったフィーナが大きく呼吸をして走り出す。僕は剣を構えてそれを待つとフィーナが槍の届く距離に入ると大きく腰を落とし溜を作る。
「はっ!!」
気合いを入れると槍を連続で突き出してくる。僕はそれを剣で受け止める。フィーナは止まること無く槍を繰り出してくるが僕はそれを剣で捌いて行く。
そして、フィーナに疲れが見えて動きが鈍る。僕はそれを見て槍を大きく弾く、それにフィーナは耐えられずに後ろに転倒する。僕はゆっくり近づき剣をフィーナに突きつける。
「負けちゃった」
フィーナが泣きそうな声で呟く。
「いや、これはフィーナの成長を見るための物だから勝ち負けとか関係無いんだけどね。それよりも、カルラ、一体何を教えたの?想像以上に強いんだけど」
「え、私ってとても強くなってる?」
フィーナが無邪気に喜んでいるのを横目に見ながらカルラが答える。
「本当に教えたのは槍の振り方とかだけなんだけどさ、フィーナって凄い才能があったみたいでね。それだけであそこまで成長しちゃったんだよね。あたいも、まさか1週間でここまで強くなるなんて思ってもみなかったよ、あははは。」
カルラが頭をかきながら言う。
「才能があったからってここまで強くなるなんて予測できないって、因みに、魔法に関してはまだ教えては無いよね?」
「あたいは、魔法が使えないから教えられないからね」
「なら、地魔法を教えればさらに強くなりそうだね。よし、今日は休んで明日ダンジョンの1階層でゴブリンを退治しようか」
「うん!」
フィーナが大きく返事をする。それをマリアが厳しい顔で見ていた。
カルラとフィーナが家の中に入って行ったのを確認してからマリアとセシリアが僕の側に寄ってくる。
「旦那様、その余り強くなっていなくて申し訳ありません」
「マリアさんはこれでも頑張って魔法を覚えたんです。威力だけじゃ無くて動く的に当てられるように頑張っていました」
マリアとセシリアが何故か弁明をする。
「あのさ、何か勘違いしてない?マリアの成長は僕としては予想以上だったよ。フィーナと比べたら駄目だよ。あれは親からもらった才能だろうね。天才でもあるかもね。最初に連撃の方を出されていたら負けてたのは僕の方だったかな。まあ、それはいいや、マリアはフィーナと比べないことだね。フィーナの成長を見て焦る気持ちも分かるけど魔法と物理攻撃だと役割なんかも違うからね」
それでも、マリアは俯いてしまう。
「マリアにはある役割をしてもらおうと思ってる」
「役割ですか?」
マリアが顔を上げて聞いてくる。
「うん、マリアには後方から全体を見て皆に指示を出して欲しい。少しの間しか見てないけどマリアにはそれが似合ってると思うんだよね」
「それは、旦那様がされるのではないのですか?」
「僕は剣と魔法で攻撃が主だから前衛かな。最初はセシリアとマリアを後衛に配置するけど、指示出しはマリアがやってね。最終的には僕とカルラが前衛、セシリアとフィーナが中衛、マリアが後衛って感じで行こうと思うから」
マリアは少し考えてから顔を上げる。
「分かりました。旦那様の言うとおりにしてみます」
「うん、もし合わないと感じたらまた変えるからそれまではお願い。セシリアも最初はマリアのフォローをしてね」
「分かりました」
「それじゃあ、明日に備えて今日は早めに休もうか」
そうして、皆で家の中に戻るのだった。