第66話
ドアを叩く音で目を覚ます。
「ご主人様、昼食の準備が出来ました。冷めてしまいますので早くいらしてください」
セシリアがドアの向こうから声をかけてくる。
「分ったよ。すぐに向かうから」
僕はまだ眠気の残る表情でセシリアに答えた。
「では、お待ちしていますね」
セシリアがドアの前から離れていくのを感じながらベットから起きる。
「流石にこのまま寝るわけに行かないね。この後も色々しないといけないからね」
食堂に行くとすでに皆が席に着いていた。
「お兄ちゃん、もう待ちきれないよ。早く食べたいよ」
フィーナが待ちきれないと急かす。
「お嬢様はしたないですよ。それと、旦那様にそのような態度をしてはいけませんよ」
マリアがフィーナをたしなめるがフィーナは頬を膨らませてそっぽを向く。
「まあまあ、ご主人様はそれぐらいでは怒ることは無いですよ」
セシリアが2人に対して仲裁をする。
「まあ、それ位なら別にかまないよ。さて、待たせたよね、ご飯を食べようか」
食事を開始する。それから、しばらくしてから僕は話し始める。
「食事をしながら聞いてほしいのだけど、これからの事も何だけどマリアとフィーナに話しておきたいことがある」
僕が二人に話しかけるとマリアとフィーナがナイフとフォークを止める。
「フィーナはハイメルン王国の王女様って言っていたけど、ハイメルン王国の復興は諦めてもらう。だから、もし、ハイメルン王国の生き残りが君たちを頼ってきてもそれに関与する事は無い。保護もしないし、復興するために一緒に来て欲しいと言われたとしても僕は君たちを手放す事はしない」
「分っています。私達は旦那様の奴隷です。旦那様を優先して行動させてもらいます」
マリアが笑顔で答える。フィーナは余りよく分ってないようでキョトンとしている。
「後、セシリアとカルラ、フィーナはマリアからメイドとしての心構えと仕事を教えてもらってね。フィーナもすでに王女じゃないのだからマリアから仕事を教えてもらって覚えるようにね。マリアもフィーナをお嬢様呼びはしなくてもいい。君たちはすでに対等なんだからね」
「分りました。では、フィーナさんこれから色々教えていきますから覚えて下さいね」
「うえ、私がマリアの仕事覚えるの? 私に出来るかな?」
フィーナが驚いた顔をしていた。
「というか、前にいた貴族のところではフィーナは何をしていたの?」
「えっと、それは……」
フィーナが苦笑いをする。
「フィーナさんは何をやらせても駄目だったのです。食事も作れない。掃除もまともに出来ない。どちらかといえば、ゴミを散らかしている方でしたね。食器洗いをすれば壊すといった具合に、何をしても駄目だったのです。まあ、今まで人にしてもらっていただけでしたので仕方ないのでしょうけど」
マリアが困った顔をして答える。想像以上にひどかった。元々王女という立場で人にしてもらう状態だったとしてもひどすぎると感じる。
「うん、マリアとセシリアで色々教えてあげて、せめて人並みになるようにお願い」
セシリアとマリアが力強く頷く。特にマリアは力強かった。
「それともう一つある。こっちも重要というかこっちの方が重要だね。フィーナには少し話したんだけど、マリアとフィーナには僕のパーティーメンバーとしてダンジョンに行って貰う」
僕の言葉にマリアが目を見開く。
「旦那様、申し訳ありませんが私は戦い方を知りません。それでも、ダンジョンに行かなければいけませんか?」
「戦い方はこれから教えるよ。ご飯を食べた後に魔法適性を調べよう。マリアとフィーナには強くなってもらいたいんだ。それにはダンジョンが有効だと言う話だね。ここのダンジョンは強くなるには適していると思うからね」
「ねえ、お兄ちゃん、どうして強くならないといけないの?」
フィーナがよく分らないと言う顔で聞いてくる。
「もし、僕が死んだらマリアもフィーナもどうなると思う?」
僕がマリアとフィーナに聞く。
「自由になると思います」
マリアが即答する。
「自由にはなるよ。じゃあ、その後はどうするの? どうやって、お金を稼いで生活するの? マリアはまだメイドとして働けるから大丈夫としてもフィーナはどうするの? 今のフィーナにお金を稼ぐ手段がある?」
僕の言葉にマリアが俯く。
「君たちに強くなってもらうのは僕が死んだときに自由に道を選べるようにするためだよ。最低でも冒険者として戦えるなら生活できるからね。後は、自分の身は自分で守れるようになってほしいからだね。いつも僕が側にいられるわけじゃ無い。ダンジョンに行っている時なんかは特にね。確かに他人の奴隷に手を出したら処罰されるけど、そんな事を気にしない奴なんて沢山いる。貴族なんて他人の奴隷に手を出しても処罰されないなんて当たり前に起こる。だから強くなってもらう。戦い方はゆっくりで良いから覚えてね」
マリアが厳しい表情で頷く。それを見てフィーナも何度も頷く。
「まずは、魔法の適性を見よう。魔法が使えればそれだけでも魔物相手には有利に戦えるからね」
そうして、食事を終えて魔法の適性を見るために庭へと向かうのだった。