第56話
3階層で少しだけハイオークやオークを狩り4階層へと続く階段を目指して進んで行く。
「4階層ではオークジェネラルがハイオークやオークを率いて出てくるね。オークジェネラルは何故か鎧や剣を持っているんだけど、倒してしばらくするとその鎧や剣は消えちまうのがダンジョンのいくつかある不思議に数えられてるね」
「鎧や剣が消えるって事は聖霊が回収しているって事ですかね?」
セシリアがカルラに聞く。
「いやあ、聞いた話じゃ聖霊のダンジョン以外でも同じ事が起きるみたいだから神様が決めた決まり事じゃ無いかって言うのがギルドでの共通認識だね。キングゴブリンも鉄の剣を持っているがそれはボロボロなために誰も拾わないからねぇ」
「分らないことは誰も分らないよね。そう言う物だと思って動けば良いだけだよ」
「ところがオークキングの武器だけはたまに消えずにそのまま残ることがあるらしいんだよ。それでも鋼で出来た剣でそれなり使えるんだけど、オークキングを倒すような冒険者なら魔鉄のもっと良い剣を使っているからギルドに売るのが普通かな。それでも、金貨十枚ぐらいにしかならないけどね。魔石の方がお金にはなるからね」
「4階層ではオークキングは出るの?」
「出ないよ。オークキングが出るのは5階層のボスの部屋さ。このダンジョンは5階層と10階層、そして15階層で門番のように出るのさ。5階層はオークキング、10階層はエビルジャガーこいつはエビルジャガーが3体出てくるね。ただ、動きが速いからその動きに対処できるかどうかが攻略のコツだね」
エビルジャガーは黒色の豹のような魔物である。基本的に複数体で出てきてその鋭い爪と牙で獲物を狩るハンターである。その動きも目では追い付けない速さであると言われている。因みに、この情報はギルドで買うことが出来る。
「カルラのいたところではどうやって対処したの?」
「あたい等の場合は壁際で固まって盾を構えるとエビルジャガーは警戒して動きを止めるんだよ。エビルジャガーは動きは速いし爪や牙は鋭い、だけど魔鉄の盾を切り裂けるほどじゃないからね。まあ、鉄の盾だと引き裂いちゃうんだけどね。それで、動きを止めたエビルジャガーにあえて少しの隙を見せてエビルジャガーに突っ込ませるのさ、来る場所が分れば倒すのは簡単だからね。1体ずつ確実に仕留めていけば良いのさ」
「なるほど、でも私達のパーティーだと人数いないから厳しいのでは無いですか?」
「いや、今のあたい達のパーティーならご主人が一人で倒せるんじゃ無いかな?」
僕はそんなカルラの言葉に返す。
「何を言ってるの?皆で倒すんだよ。重要なのは魔法だけどね。セシリアもアースウォールぐらいは使いこなせるぐらいにはなってもらうからね。そういえば、カルラは魔法は使えないんだっけ?」
「あたいは魔法は使えないよ。人族は少なからず魔力はあるから魔鉄製の武器は使えるけどね。人族なのにそこまで魔力が高いご主人は極少数派だよ」
「まあ、それは分っているけどね。10階層の話はまた今度にしようか。今すぐ行くわけじゃ無いからね。さあ、4階層を頑張ろうか」
そうして、4階層に降りて先に進んで行くと他のパーティーと思われるパーティーがオークジェネラルやハイオークと戦っているのが見えた。僕達は通路の陰に隠れてそれを見る。
「何か、押されている感じですね。4階層に来るぐらいですからそれなりに強いと思うんですけど」
セシリアが不思議そうにその戦いを見る。
「本来そこまで苦戦はしないと思うけどね。4階層迄来られたって事はハイオークとオークを倒してきたって事だから、オークジェネラルはハイオークより強いとはいっても魔法を使ってくるわけでも無いから戦いやすい魔物だからね」
「あれ、オークジェネラルを相手に時間を稼げる人がいないんじゃ無いかな。人数的には冒険者が6人、オークジェネラル側が4体と人数差があるけどオークジェネラルと一対一で時間を稼げる人がいないからハイオークとオーク相手に人数かけて倒せないっぽいね。自分たちの実力を過信しすぎたみたいだね」
「どうしますか?」
セシリアが聞いてくる。
「こういう場合は助けた方が良いのかな?1人でも怪我をすると冒険者側が崩壊しそうだね」
「一応、声をかけて助けがいるかどうか聞いた方が良いと思うけどね」
「なら、カルラの言うとおり声をかけてみて必要なら助けようか」
通路の陰から出て戦っている場所に向かって走り出す。
その時パーティーのリーダーが焦っているのが見える。スカウトである自分はそれを助けに行くことが出来なかった。
「何でこんな事になったんだ」
リーダーが愚痴を零している。ハイオークなら余裕を持って戦えた。この4階層に来て出会ったオークジェネラルは全然違った。オークジェネラルは鎧を着ている。そのために剣で斬りかかるが鎧に阻まれて有効打にならない。しかも、オークジェネラルの剣は鋭く着ているレザーアーマーだと切り裂かれる。リーダーの男は勝手が違うオークジェネラルに恐怖してしまった。
周りの仲間達にもその恐怖が伝染してしまう。サブリーダーの男がハイオークを相手にすると最初の話で決まっていたがそこにオークジェネラルが立ちはだかっている。オークジェネラルがリーダーの男とサブリーダーの男を相手にしているのだった。2人で相手をしていてもオークジェネラルに押されているのだ。
そのために残っていたハイオークとオーク2匹を残っていたが索敵や罠の解除などを目的としているために戦闘が苦手なスカウト1人、攻撃魔法を得意とする魔法使いが2人、相手の動きを阻害するすることが得意な補助魔法使いがいたが前を支えることが出来る人がいないために逃げ回る事しか出来ないでいた。
(この状態は最悪だって、ウチ等が逃げたらリーダー達の方にハイオーク達が行っちゃって2人とも死んじゃう。他のパーティーでも上手いこと来てくれないかな)
「あ……」
考え事をしていたスカウトにハイオークの棍棒が当たり壁に叩き付けられる。それを見た魔法使いの3人が悲鳴を上げる。
(あ、ごめんリーダー……)
壁に叩きつかられたスカウトが気を失う寸前に緑色の光をまとった矢が見えた気がした。
スカウトがハイオークに棍棒に殴られる少し前、フレイ達3人はオークジェネラル達と戦っているパーティーの救援に向かうために走り出していた。
「セシリアはエンチャントを解禁して矢でオークを攻撃して何だったらオークは仕留めてもいい。ハイオークはカルラが相手をして倒せそうなら倒して無理そうならセシリアがオークを仕留めた後に一緒に倒して!オークジェネラルは僕が行くから」
僕は走りながらセシリアとカルラに指示を出す。それに二人は返事をしてそれぞれの獲物に向かって行く。
「《風魔法エンチャントウインド》」
セシリアが走りながら矢に風の魔力を込める。そして、足を止めてスカウトの人に向かって走り出そうとしていたオークに狙いを定めて矢を放つ。
矢は一直線にオークに向かって行き、その大きな身体の3分の1を吹き飛ばしその命を刈り取る。それを見てハイオークともう1匹のオークが矢の飛んできた方に顔を向ける。
(あ、思ったより魔力を込め過ぎちゃった。オークの肉も貴重な食料なのに後で怒られるかな?)
次の矢を弓に構えながらエンチャント魔法の準備に入る。
そんなセシリアを見ていたハイオークが怒りで声を上げてセシリアに走り出そうとしたところにカルラがその剣で足を切る。走りながらの力が入っていない剣だったために骨を断つまでは出来なかったがハイオークはたまらず膝を突く。
「やっぱり、セシリア姉も強いんだね。普通オークをあんな風に弓で倒せないと思うんだけどねぇ。まあ、あたいはあたいで頑張りますか。ハイオークなら何度も倒したからね、簡単なもんだよ!!」
そう言って、膝を突いたハイオークの頭を手に持った剣で切り落とす。首を失ったハイオークが前のめりに倒れていく。
「カルラさん、やっぱり強いな。私も負けてられない! 《風魔法エンチャントウインド》」
矢に風の力を込めてハイオークを倒されて戸惑っているオークに向けて矢を放つ。
その矢はオークの頭に当たりその頭だけを吹き飛ばしたのだった。
「やあ、やっぱりセシリア姉は強いんだねぇ。ご主人様が一緒にダンジョン攻略に連れてくるわけだ」
「カルラさんも強いじゃないですか。ところで、なんでセシリア姉っていうんですか?」
「ん?だってセシリア姉があたいより先にご主人の奴隷になっているじゃないか。だからだよ。あたいのことは呼び捨てで良いよ。ところで、ご主人の手助けに行かないのかい?」
「ご主人様の方は大丈夫だと思うけど・・・」
そして、2人がオークジェネラルと戦っているだろうフレイの方に顔を向けるとフレイの剣がオークジェネラルの頭を切り落としているところだった。
「やっぱり、ご主人は強いねぇ。あたい等だって遅かったわけじゃ無いんだけど」
「そうですね。まあ、フォルティナ様の加護を持っているのですから当たり前と言えば当たり前なんですけどね。それでも強いですよね。私ついて行けるのかしら・・・」
フレイの強さに二人は自信を無くすのだった。
二人とも良い感じで倒せたと思ったらフレイが二人が倒した魔物より強いオークジェネラルを簡単に倒していたので少し自信喪失って感じです。
因みにカルラでもオークジェネラルは倒すのに時間が掛かります。一人でも倒せるのは倒せます時間が掛かるけど・・・