第42話
昼食を食べてから泉の近くで訓練することに決めた。
「とりあえず、使える物は使って戦おう。弓矢だけで戦っても効率悪いからね。魔法だけで戦っても魔力が無くなったら戦えなくなるからそれも効率が悪いからね。魔法も武器も両方使えるように練習しよう」
「分かりました」
セシリアが身体を縮こまらせて返事をする。朝にボアを狩ったときに効率よく戦えなかった事を恥ずかしく思っているのだろう。
「朝の事は気にしなくてもいいよ。あれはどれくらい戦えるかを見たかったのもあるからね。戦い方はこれから知っていけば良いよ。君は・・・と君って言ってると他人みたいで何かいやだな。よし・・・セシリアさんは弓矢を使うから各属性のエンチャント魔法を覚えよう」
「あ、あの、ご主人様、ご主人様が奴隷に対してさん付けをすると周りの人に侮られてしまいますのでやめられた方が良いと思いますけど・・・」
「そうなの?うーん、ならセシリアって呼び捨てにした方が良いのかな?」
「その方が良いと私は思います」
「うん、分かった。ならセシリアにはこれから各属性のエンチャント魔法を覚えて貰います」
セシリアが小さく頷く。
「基本的に僕がボアを弓矢で狩るときは《風魔法エンチャントウインド》を使うからね。だからまずはエンチャントウインドを覚えて貰うよ」
「私に覚えられるのでしょうか?」
「エルフだから大丈夫でしょ。エンチャント魔法って基本じゃ無い?」
「エンチャント魔法は応用魔法ですよ!」
「え、そうなの?おかしいな、教えてくれた叔父さんが狩りの基本だから覚えろって言われたんだけどな」
「エンチャント魔法は対象に魔法効果を持続させ続け無いといけません。一瞬なら出来ますがそれを持続させようとするためには魔力をかなり込めないといけません。さらにどういったイメージで持続させるかによっても魔力の込め方も違います。弓矢の場合は飛距離を伸ばす、切れ味を良くする等その効果にあったイメージと魔力の込め方をしないと直ぐに魔力が霧散してしまうと私の家にあった魔法の本に書いてありました」
セシリアが顔を真っ赤にして早口でまくし立てる。
「あ、そうなんだ」
彼女の勢いに僕は呑まれる。
「とりあえず、魔力の込め方は練習して身体に覚えさせればいいから、狩りに使う風のエンチャントは貫通効果を高める事をイメージして魔力を込めてみて」
「はぁはぁ、分かりました」
セシリアが肩で息をしつつ返事をする。
僕は木の板を用意して見本を見せることにした。
「《風魔法エンチャントウインド》」
矢に風の力を込めて木の板に向けて放つ。
矢は木の板の真ん中に向けて一直線に向かって行く。そして、木の板の真ん中に当たる。そして、矢は木の板に穴を開けてさらに後ろにあった大きな木に当たり止まる。
それを見てセシリアが目を見開く。
(風の力を込めたからって木の板が壊れずに穴を開けるだなんてどういうこと?貫通効果を高めたとしてもあんな綺麗な穴なんて開けられないわよね。どれだけの魔力を込めてどんなイメージをすればいいの?)
「まあ、貫通効果を高めるのは獲物を必要以上に傷つけないためだから、皮などを剥ぎ取る時にも傷が多かったらやりにくいからね」
「・・・」
「よし、答えは見せたからね。これを目指してまずは風魔法のエンチャントを覚えようか」
「私に出来るでしょうか?」
「とりあえず、やってみてね。出来るかどうか考えるんじゃ無くてやってみて、出来ないなんて考える必要は無いよ。後、最初は魔力は多めに込めた方が良いよ。上げていくよりは徐々に下げる方がやりやすい気がする。僕の経験からの意見だけどね」
「分かりました」
セシリアが大きく息を吸い吐く。
「《風魔法エンチャントウインド》」
風の力を矢に込めて放つ。
しかし、矢は木の板の上の方に外れて大きな木にぶつかり木の幹を大きく削る。
「今、力をかなり力を込めて引いたよね?この距離だとそこまで強く引かなくても届かない?」
「すいません、魔法の力がどれくらい影響するのか分からなくて力いっぱい引いてしまいました」
「うん、そこまで力いらないよ。込められているのは鏃だけだからいつも通りを心がけて打てばいつも通りに飛んで行くから」
「そ、そうだったんですね。初めての事なのでよく分からなくて、すいません」
「謝らなくていいよ。だからこそ練習するんだからね。初めてで上手くいくわけないんだよ。だからこそ練習するんでしょ。さ、もう一度やってみよう。あ、魔力は少し減らしていいから」
セシリアが大きく頷く。
「《風魔法エンチャントウインド》」
矢に風の魔法を込めて放つ。
矢は板に向けてまっすぐ向かって行き、板に当たると板を粉々にした。セシリアが恐る恐る振り返る。
「イメージ違わない?粉々になるって事は貫通というよりは粉砕って感じになってない?」
「うぅ、すいません。イメージが何かつかみにくくて」
「簡単だと思うんだけどなー。ただ貫くだけなんだけどね。後は魔力を込めすぎなのかな?魔力を半分ぐらいに落としてやってみて」
「わかりました」
そして、セシリアがもう一度やってみると今度は板に刺さって止まった。
「今度は魔力が足りなかったね。もしかして君って魔力の操作苦手?」
「余り使ってこなかったので苦手かも知れません」
「なら、これからどんどん魔力を使って貰うから慣れようね」
「はい・・・」
それから、夕方迄練習して何とか粉砕せずに穴を開けられるぐらいになったのだった。