第38話
朝になり食事をしてから街道に戻る。
そして、街道を進み2時間ほどすると森の中の街道になった。このまま、いくつかの領地をまたいで行きゼイル侯爵領へと向かうことのなる。その前にやりたいことがあるために水辺がある所が無いかと思いながら進んで行くと突然10人ぐらいの男達が出てきた。
「おう、坊主有り金とその荷車を置いて消えな。そうすれば、命だけは助けてやるぜ」
頭目と思われる身体のでかい男がシミターのような歪曲した剣を構えながら言う。
「頭、聞いた話じゃあ実入りは無いらしいですが良いんですが?」
側に控えていた手下が頭目に聞く
「ああ、たまには殺しもしとかないとな。最近は警戒したのか商人もかなりの数の護衛を雇うことが多くなっているからな。たまには殺しをしておかないとな」
「まあ、最近は殺しもしてないですからね。まあ、荷台に載っているのは金にもならない生きていても役に立たない奴隷、殺してやった方が本人も嬉しいでしょうしね」
「僕の奴隷を殺すと言ったのですか?」
冷たく盗賊達に聞く。
「お前もそいつの処分に困るだろうから俺達が手伝ってやろうかと思ってな。成功しない実験に使って殺すのと俺達に殺されるのと変わらないだろう」
男達が荷車を囲むように動き出した。結局、僕も逃がすつもりが無いのだろう。
「時間切れだな。運が無かったと思って殺されてくれや」
「お前達が死ね。《地魔法アーススパイク》」
僕は男達の足元から土の槍を生み出し串刺しにする。
「えっ……」
頭目以外の全ての男達を串刺しにして僕はゆっくりと頭目に近づく。その手にミスリルの剣を握り閉めながら近づいて行くと頭目はぺたりと尻餅をついて起き上がれなくなった。どうやら、腰を抜かしたらしい。
「お前、魔法使いだったのかよ」
「覚悟は出来た? 僕の奴隷を殺すと言ったんだから殺されても文句は言えないよね」
「いや、ま、まて、あれは言葉の綾で言っただけで本当に殺すつもりは無かったんだって、いや、無かったんです」
頭目は後ずさりながら必死に弁明する。
「そんな嘘が通る分けないでしょう。死ね」
僕は剣を構えて走り出す。
「うわぁぁぁ……」
頭目が持っていた剣を出鱈目に振り回すがその剣を冷静にはじきその首を切り落とす。
そして、振り返ろうとすると、
「動くな。この奴隷がどうなっても良いのか!」
1人の男が荷台に乗り込みナイフをエルフ奴隷に突きつけていた。どうやら、隠れていた者がいたらしい。僕はその可能性に気づいていなかった事に少しだけ失敗したと思う。
(まあ、それでも何とでもなるんですけどね)
「《風魔法エアスラッシュ》」
「えっ」
そんな言葉を残し盗賊の首が風の刃に切られ飛んで行く。
「僕が魔法を使うのは見ていたと思うんですけどね」
僕は荷車に近づき残っていた盗賊の身体を捨ててエルフ奴隷を見ると震えていた。
「ごめんね。怖い思いをさせてしまったね。ちゃんと、警戒していれば良かった。村じゃ無く町をつなぐ街道だからと油断しちゃったよ。さて、じゃあ、出発するから」
そうして、盗賊達の死体を放置して僕は進んで行く。
夕方になり野営をする場所を探すと街道から少し入った所をエルフ奴隷を抱えて探す。荷車は街道の側に放置してエルフ奴隷の荷物は魔法袋に入れておいた。そして、大きめの泉が見つかりそこで野営をすることに決めて急いでテントを張る。
テントを張り終えてから食事を取りエルフ奴隷をテントの中で横にさせる。
「さて、それじゃあ、実験を開始しますか」
その言葉にエルフ奴隷の目が恐怖に怯えた。
「君は、そのまま寝ていればいいよ。直ぐにすむから」
僕は安心するように言葉をかけるがそれでも、怯えているのが分かる。僕は気にしても仕方が無いと思い実験を始めることにする。
僕は神剣フォルティナを両手で持ち魔力を込める。
「フォルティナ様の力の一端をここに顕現すること願い奉る。この者の身体の欠損をそのお力により癒やしたまえ、《神魔法リジェネレイト》」
すると、神剣フォルティナが光り輝く、それに伴い僕の魔力がものすごい早さで剣に吸われていくのが分かる。
その光りがエルフ女性の身体を包み込むとその身体がゆっくりとだが治っていく。エルフ女性はその光がまぶしいのか目をつぶっていた。
そして、数十分程経って光りが消えたときにはエルフ女性の身体は手足も元に戻り傷一つ無い状態になっていた。僕は、かなりの魔力を使いひどく疲労していた。
(治って良かったけどこれは想像より魔力の消費がきつい。しかも、神剣に宿っていた魔力もかなり減っているみたいだ。これは、神剣の魔力が回復するまで欠損を回復するのは無理かな)
そんなことを思っているとエルフ女性が光りが収まったためにゆっくりと目を開ける。
そして、左手を顔の前に持ってきて動きを止める。
「え、なん……で、左手、ある……の。あれ、声も出る。なんで、火で焼かれて声、出なかったのに」
そして、自分の左手と右手を交互に見比べる。そして、足が両方あることに気づく。そして、いきなりテントを飛び出して側にある泉に顔を写す。月明かりがあり泉には綺麗に治っている自分の顔が写っている。
「あ、あ、あ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
そして、自分でも押さえられないぐらいに号泣する。
僕はそれをテントの入り口から眺めていた。
(何か、声かけにくいね。まあ、落ち着くまでは泣かせておこうか。どうせ、《月魔法夜のとばり》の効果で魔物も寄ってこないし)
そして、僕は彼女が落ち着くまでその様子を眺めているのだった。
やっとヒロイン登場です。