第36話
僕が奴隷商の館に着くと、その表には檻に入れられた奴隷達が何人か並べられていた。その値段を見ると今の僕ではとても買えない金額だった。
(うーむ、まあ、別に五体満足じゃなくても良いし、それにエルフでもないし)
僕は何故か悔しい気持ちになったが気にしないようにして奴隷商のドアを開けて入っていく。
「いらっしゃいませ。当店をご利用頂きありがとうございます。本日はどういった奴隷をご所望ですか?当店では戦闘用や各種専門の仕事をしていた奴隷など色々おりますよ。もちろん、性奴隷もおります。どう言った奴隷を探しておりますか?」
元気の良い店主がドアを開けて入ってきた僕に声をかけてくる。
「す、すいません、一番安くて良いのでエルフの奴隷っていますか?」
「ふむ、エルフの奴隷ですか?それでしたら、男の奴隷であれば金貨500枚から、女性の奴隷でしたら金貨2000枚からございますが、どちらになさいましょう」
「それって、傷一つ無い奴隷ですよね?」
「もちろんでございます。こちらの奴隷は健康で傷一つ無い奴隷になります」
「もっと、安い奴隷はいますか? 外見はたとえ手足が無くても構いませんので、生きているエルフ奴隷を」
店主が訝しげに僕を見る。
「確かにそういった奴隷もいますが、それは何のために欲しいのですかな? 利用価値などないと思いますが」
「いえ、ちょっと、実験に生きているエルフの血が欲しくてですね。駄目ですか?」
店主が僕のことをジロジロと見る。
「ふむ、それはあの実験ですかな。寿命を伸ばすという夢の実験ですかな」
「ええ、そうです。流石にエルフを安く仕入れないときついんですよね」
「まあ、そうでしょうね。分かりました。では、こちらに」
そう言って、店の奥に案内される。
そして、一つの部屋に案内される。
「お客様は運が良いのか悪いのか、最近、傷物のエルフ奴隷が一人だけ入荷しましてな。正直、買い取りしたくは無かったですが、断れない所からの申し出だったので買い取ったですが買っていただけると助かります」
そうして、部屋に入ると、寝具の上で座っている。両足、左手、片耳、そして、顔が焼けだたれているエルフ女性の奴隷と世話をしているのか一人の女性がいた。エルフ女性は残った耳がエルフの特徴である尖った耳をしている事でエルフと判別できるぐらいでそれが無ければ判別は出来なかっただろう。
「我々奴隷商は買い取った奴隷はお世話をしないといけません。役に立たないからと殺してもいけません。それで、この状態になってもお世話をしていたのですが買い取っていただけるならこちらとしてもありがたいのです」
「これは、思った以上にひどいですね」
「おやめになりますかな?」
僕はそのエルフを観察する。そのエルフは下をうつむいていたがその呼吸はゆっくりとだがしていた。
「このエルフはいくらですか?」
「おや、お買いになられるのですかな?」
「ええ、この奴隷はいくらですか?」
店主は驚いていた。それでも、商人の顔になり
「分かりました。因みに、こちらの奴隷ですが金貨20枚になりますがよろしいですか?」
「はっ?」
僕は驚いた。基本ここまでの奴隷であれば金貨1枚もしない。それが、金貨20枚なのだ驚くなという方が無理だ。
「なんで、そんなに高いんですか? 普通、銀貨10枚ぐらいでも高いぐらいですよね?」
店主が申し訳なさそうな顔をする。
「申し訳ございません。こちら、かなり特別な理由がございまして」
店主が額の汗を拭う。
「貴族ですか?」
僕が言うと店主が頷く。
「はい、こちらの奴隷はオルベルク子爵様から持ち込まれた奴隷になりまして、もちろん、このような奴隷は買い取るとしたら銀貨1枚ぐらいにしかなりませんと言ったのですが」
「無理を言ってきたんですね」
「ええ、最初はエルフなのだから金貨100枚で買い取れと言ってきたのです。流石に、そんな値段では買い取れませんと言ったのですが、その、家族のことでちょっと、言われましてね。こんな商売をしていますが私にも妻と子供が2人いましてね」
店主がうつむいた。そして、数秒して顔を上げると淡々とその貴族の事を話す。
オルベルク子爵は金貨100枚で買い取るように良い。それが無理だというと金貨50枚という、それでも無理だと言うと子供や妻がいきなりいなくなってしまうかも知れないと脅してきたというのだ。それでも、何とか金貨15枚で納得して貰ったというのである。
「本当に申し訳ございません。そういった理由によりこの奴隷は金貨20枚という値段になっているのです」
店主が頭を下げる。
「流石に、このエルフより値段が下の奴隷はいませんよね?」
「流石に、おりませんね。こちらの奴隷がエルフでは一番安いです」
僕は少し考えて、買うことを決めた。
「分かりました。こちらの奴隷を買います。ただ、買いに来るのは明日になりますが良いですか? 自分で歩けない以上、荷車は必要になりますから」
「そうですね。それでは、明日お待ちしております。それまでに、少しでも身体を綺麗にしておきますよ」
「お願いします」
そして、僕は奴隷商を後にして宿に戻った。