第29話
騎士達が色めき立つ。
「こいつ、強いぞ。一人では無理かも知れん。一斉にかかれ!」
「《地魔法ストレングスアップ≫」
「なっ、こいつ魔法を使ったぞ、油断するな。囲んで確実に殺すんだ」
騎士達が驚きつつも僕を囲むように動く。
僕はそんな騎士達に指示を飛ばす隊長と思われる騎士に向かって走り出す。
「くそう、舐めるなよ。《地魔法ストレングスアップ≫」
隊長と思われる騎士が魔法を使う。僕はそれには構わず剣を振り下ろす。
「はっ!」
僕が気合いを込めて振り下ろした剣を隊長は何とか剣で受け止める。
「くっ、しかし、動きを止めたな」
僕と隊長の剣が拮抗したところで左右から騎士が槍を僕に向けて突き出す。僕は隊長に蹴りを食らわしてその反動で隊長から離れる。そして、槍が僕がいた場所で交錯する。隊長が笑みを浮かべる。
「ふ、ははは、魔法が使えるのが貴様だけだと思うなよ」
僕はその言葉に反応せずに先程の攻防を振り返る。
(隊長って結構鍛えてるな。押し切れなかった。しかも、相手もミスリルの剣っぽいね。他には槍が五人に剣を持っているのが四人か。武器は普通の鉄かな?弓が無いだけましかな。とりあえず、時間をかけすぎると誰か通るかも知れないからなるべく早めにケリをつけたいね)
僕の実力を見て騎士達が武器を構えて囲んだまま動こうとしなかった。それを見ていた領主がイライラしたように言う。
「そんな奴に何をしている。さっさと仕留めんか!」
(自分は馬車に乗っていつでも逃げられるように準備しておいてよく言うよ。でも、このまま、膠着はこちらも困るからこちらから動きますか)
僕は隊長めがけて走り出す。隊長が剣を構えて待ち構えるが僕は隊長の剣の間合いに入る前にその隣にいる槍使いに急に方向を変えて進む。
「くっ、舐めるな」
槍使い一瞬驚いていたが訓練の成果か槍を突き出してくる。僕はその槍の切っ先を剣でそらし斬りかかろうとしたがその横から剣を持った騎士が斬りかかってきた。僕がその剣をはじくと今度は後ろから槍が迫ってくる。僕はそれを前方の槍の持った騎士を踏み台にしてバック宙をして避ける。そして、着地したところで今度は隊長が僕に目掛けて斬りかかって来た。僕はそれに対して魔法を使う。
「《地魔法アースウォール》」
土の壁がいきなり現れ隊長から僕の姿を隠す。隊長は土の壁をその剣で切り裂いたがその時には僕は離れていた。そうして、一息ついたところで今度は残っていた騎士達が剣や槍を手に突っ込んで来る。
「《地魔法アースウォール》」
それに対し僕は自分の足元に土の壁を作りそれを足場に騎士達の囲いから抜け出す。
(これは、流石にきついね。余り時間もかけられないし、仕方ないかな。切り札をもう使おうかな)
「貴様、中々やるな。しかし、いつまで魔力が続くかな?」
隊長が余裕を取り戻したのか。上から目線で言ってくる。
「時間をかけられないからもう終わらせる」
僕が静かに言うと
「それは、こちらの言う言葉だ。訓練されているみたいだがいつまでも避けられるとは思わないことだ」
騎士達が各々の武器を強く握りしめる。僕は魔法袋から刀身が白い神剣フォルティナを取り出し構える。
「・・・行きます」
僕は騎士に向かって走り出す。騎士は武器を手に突っ込んで来るが僕はそれをギリギリの所で避ける。そして、すれ違いざまに切っていく。
神剣は相手の鎧等関係ないと切っていく。そして、5分もしないうちに隊長一人になった。
「ば、馬鹿な、その剣はまさか聖剣だとでも言うのか?貴様のような奴が聖剣を持っているなど」
隊長が腰が砕けたように地べた座り込む。僕が一歩踏み込むと悲鳴を上げて這うように逃げて行く。
「流石に逃がすわけに行かないので」
僕は走って隊長を一閃しその命を絶った。そして、領主のいる馬車に向かってゆっくり歩いて行く。
領主は馬車の窓から呆けたように口をぽかんと開けて自分の騎士が倒されるのを信じられない気持ちで見ていた。
(ま、まさか、聖剣使いがこんな場所にいるとは)
「りょ、領主様逃げましょう。馬車を出しますよ」
御者が領主に逃げるように言う。その言葉に両者が我に返る。
「あ、ああ、そうだな。すぐに馬車を出せ」
「分かりました」
御者が馬に急いで動くように手綱を動かそうとする。
「《地魔法アーススパイク》」
土の槍が馬の足を貫く。そうして、驚きと痛みで馬が暴れ出し御者は馬車より振り落とされ馬車は横倒しになった。そして、僕はゆっくりと馬車に近づく。
顔を上げた御者が震えたように僕を見ている。
「お願いします。命ばかりはお助けください。私には妻と子供が・・・げふぅ」
僕は御者に最後まで言わせずにその首を切り落とした。
「く、くそ、儂はベルン伯爵だぞ、この国の王に貴族として認められた者だぞ。それを下民が逆らって良いわけが無い」
「もう、良いですか?」
僕が声をかける。すると、領主が慌てたように
「ま、待て、儂はこの国の王に認められた貴族だぞ。そんな儂を殺せばこの国にいられなくなるんだぞ。それでも、良いのか?」
「別に構いません。この国が無理なら他の国に行くまでです。冒険者は他国に渡ることも出来ますから」
僕は冷めたように言う。そして、剣を振り上げる。
「ま、待たないか。まさか、聖剣使いだとは思わなかった。ど、どうだ、儂に仕えてみないか?月に金貨100枚、いや、200枚出そう。ど、どうだ!」
僕は無慈悲に剣を振り下ろす。そうして、領主の首は身体から綺麗に切り離されたのだった。
「興味ありません。後、ずっと訂正しようと思っていたのですが、これは聖剣では無く神剣ですから」
僕は死んでいる領主に向かって冷たく言うのだった。