第28話
朝になりアンソニーさんが村へと帰って行った。今回は荷車を引いて帰らなくてはいけないので早めに町を出たのだった。僕はそれを見送ると領主のいる町に向かうためにザイルの町を出た。領主のいる町の方が冒険者の仕事は多いらしくDランクの冒険者はそちらに行く者が多いからだ。
そうして、町を出て2時間程経った頃、前方から沢山の騎士に囲まれた大きな馬車がやって来ているのが見えた。僕がその馬車を避けるために街道の端に避けると僕の通ってきた街道から馬がやって来て馬車の側で停まった。どうやら、その馬車の主に用があるらしい。すると、馬車の主が降りてきて何故か僕の方にやって来た。
「先程聞いたのだが其方、フレイと言う者で間違いは無いか?」
いきなり、そう聞いてきた。
「え、はい、僕の名前はフレイですが、何か?」
「貴様、領主様に向かってその言葉使いと態度は無礼にあたるぞ!」
側に控えていた騎士が怒鳴る。
「まあ、待て、この者は私の顔すら知らないのだろう。一度くらいは許してやろう。だからそこまで、怒るな。所詮、下民の態度にいちいち怒っていては身も持たぬ。しかし、小僧、次は無いぞ」
偉そうな態度で領主が言う。正直僕にとってはどうでも良く貴族とは関わり合いになりたくも無かった。それでも、それらしくしなければこれから生活していくのも大変と思い膝をつく。
「それは、申し訳ございません。お顔を拝謁したことが無く分かりませんでした」
「うむ、殊勝な態度である。先程の事は許そう。其方に聞きたいことがいくつかある。本来なら代官所のところで聞こうとしていたが少し所用で遅くなってしまった。この場で聞きたい。そなた、ガウン村の者として税を納めに来ていたと言うが間違いは無いか?」
何故、そんなことを聞くのか分からなかったがここは素直に答えておく。
「はい、間違いありません」
「ふむ、しかし、ガウン村にはフレイと言う名前の者はいなかったはずだが、其方はガウン村で生まれた者か?」
「いえ、違います。生まれた村の名前は親から聞いていないので分からないですが」
元々、森の奥地にあるハイエルフの集落の生まれだ。そこでは、村の名前などは無かったと思う。もしかしたら、あったのかも知れないが村を出て行く事が決まっていた僕には知らされていなかった。
「自分の生まれた村の名前すら知らないと言うのか。ふーむ、この国では全ての村に名前が必ずある。其方、もしかして、他国から来たのか?」
「どうなんでしょう?僕の生まれた村は森の奥地に隠れるようにあったので何処の国にあったとかは分かりませんが」
ただでさえ死の森から崖を登ってきたためどう答えていいのか分からない。
「貴様、自分が怪しいと分かっているのか?本当の事を言えよ」
側の騎士が苛立ったように言う。
「この者の言うとおりだ。いきなり、我が村に現れた其方は我々からしたら他国のスパイと言われても仕方ないぞ」
「そうは言っても、本当の事しか言っていませんし」
どうやら、僕は他国のスパイと思われているらしい。しかし、本当の事を言っているのでどうしようも無い。
「ふむ、流石に他国のスパイかも知れない者をこのまま自由に国中を歩かせるわけにもいかない。そこで、どうだろう。一定期間奴隷の身分に落とし我が国で無料奉仕をする。もちろん食事や寝るところは準備しよう。そうだな、2年がいいな。そうすれば、其方を他国のスパイでは無いと認めてこの国の民として認めようではないか」
領主は自分の言っていることが良いことの用に言う。
「これは、領主様の慈悲だぞ。他国のスパイとして切り捨てられても仕方ないところを2年間の無料奉仕
でこの国の民として認めてやろうと言うのだからな」
騎士もそれが素晴らしい案の用に言う。それに、僕は笑顔で言ってやった。
「お断りします」
当たり前である。奴隷にされて2年経ったら解放されるかも怪しい。
「貴様、これは領主様からの慈悲なのだぞ、それを拒むと言うことは領主様の顔にも泥を塗るということにもなる。それを分かって言っているのか?」
騎士が驚いた用に言う。どうやら、断るとは思っていなかったようだ。
「当たり前です。奴隷になる気はありません。僕は冒険者としてダンジョンに行ったりしてお金を稼いでのんびり生きたいのです」
領主がびっくりしたように固まっている。今まで自分の言ったことに否と言った者はいなかったのだろう。領主がプルプルと震える。
「貴様、自分が何を言っているのか分かっているのか?貴族に逆らえばどうなるか。その身で知りたいようだな」
「別に知りたいと思いませんが?」
僕は何を怒っているのか分からないように言う。
「もう、良い、2度目は無いと言ったぞ。アルベル、此奴を殺せ。魔法袋は殺してから手に入れれば良い!」
「はっ!」
アルベルと呼ばれた騎士が剣を抜く。それに、倣ったかのように他の騎士達も剣を抜いた。
「魔法袋が狙いでしたか。まあ、それでも、差し上げられませんでしたけどね。しかし、流石に殺させる訳にもいかないので抵抗はさせて貰いますよ」
そうして、僕は腰に差していたミスリルの剣を引き抜く。
「小僧、オークを倒せるぐらいで調子に乗るなよ」
アルベルという騎士が剣を踏み込んで来て剣を振り下ろす。しかし、その早さは僕にしてみれば遅かった。ベへモスの噛み付き攻撃さえ避けたのだ。それに比べれば天と地の差がある。
僕は振り下ろされる剣を身体を少しずらして避けてミスリルの剣を相手の喉に突き刺す。
「がっ」
アルベルという騎士が前のめりに倒れていく。
「僕を舐めすぎじゃないかな?」
「やはり、他国のスパイだったか。この小僧を殺せ」
領主が馬車に向かいながら騎士に向かって叫ぶ。
「対人戦は初めてなので頑張りますか」
僕は剣を力を込めて握りつぶやく。