第25話
ザイルの町に着きいつも泊まる宿に行く。
町では何故か慌ただしさを感じる。
「最近、何か代官様の周辺が慌ただしいのさ。何か、領主様の関係でこの町の冒険者が雇われたとか。いったい、何があるんだろうね」
代官所に税を納めるのは滞りなく終わって、冒険者ギルドにこの1年程で貯めた魔石を売りに行く。今回は結構なかなり沢山の魔石があり驚かれた。さらに、アンソニーさんも自分でオークを狩っている事を聞くと口を開けて驚いていた。
そうして、いつものように村に必要な物を買って村に帰った。町のいるときに誰かに見られている感じがしたのを不思議に思いながら。
領主の館
「ベルン伯爵様、今年も魔法袋を持った少年がやって来ましたがまだ手を出さない方がよろしいでしょうか?」
「うむ、ドルグよ。亜人狩りが思ったよりやっかいなことになっていてな。ドワーフどもからエルフの集落の事を聞いたのは良いが、どうも隣のオルベルク子爵の領地にあるらしくてな。オルベルク子爵にもうまみを与えてやらねば後で面倒になるのからその辺の交渉に少し時間が掛かっておる」
「ああ、あのオルベルク子爵様ですか。あの子爵様ならエルフ奴隷は欲しいでしょうからな。交渉は難航しているのでは無いですか?」
ベルン伯爵が頷く。
「ああ、奴め自分の領地にいるのだから捕らえた奴隷の七割を自分の所の領地に卸すように言ってきおった。我々のおかげでその場所を見つけたというのにな」
「その場所はオルベルク子爵には言っているので?」
「言うわけ無かろう。そんなことをすれば全てのエルフ奴隷を自分の物にするのが分かっているというのに」
「まあ、そうでしょうな」
「今は冒険者に正確な村の位置を探させている。大体の場所は分かっているのだがな。その冒険者にもくれぐれも手を出さないように言っておる」
「なるほど、ではその魔法袋の少年は来年の税を納めに来たときにでも」
「ふむ、そうなるな。エルフの件は半年以内には終わらせる」
「分かりました。その間の監視はしておきます。それでは、失礼します」
ドルグ代官が頭を下げて部屋を出て行く。
「オルベルクめ自分たちでは見つけられなかったくせに、ふむ、せめて半々で持っていかなくては・・・」
ベルン伯爵外を見ながらワインを飲み干した。
村に戻ってからもいつもと変わらない生活が続いた。それでも、後1年ほどしたら冒険者となり村を出て行くことを決めている。そのために必要な物も用意してある。どうやら、冒険者になるには大銀貨3枚が必要らしいのでそのお金、後は町に入るには何処かのギルド証か村にある村民証が必要になるが無ければ大銀貨1枚が必要になる。
そのため必要な大銀貨と後は生活に必要と思われるお金を少々用意しておいた。そして、いつもの狩りに出かける。
そうして、半年程が経ち、ここを出るのが半年へと迫った頃いつもの狩りに僕が出ている時にある事件が起きていた。
僕が狩りに出て村を離れていたときに代官の兵が村へとやって来た。
「我々はドルグ代官様の使いである。村長はいるか」
「これはこれは代官様の使いの方が何のご用でしょうか?我々は税は毎年払っていると思うのですが・・・」
その言葉に使いの兵が頷く
「うむ、それに関しては毎年ちゃんと納められている。今回はそのことでは無い。ここに、フレイとか言う者が住んでいないか?ここ2回ほど税を納めに来ていた者の一人だそうだが」
「その者でしたら確かに我が村におりますが、それが何か?」
「聞きたいことはその者はこのガウン村で生まれた者なのかということだ」
「いえ、あのものは2年程前にこの村に来た者です。腕が立つので我が村で狩りをして貰っておりますが、その者が何か?」
使いの者が厳しい顔をする。
「それは、うかつでは無いか。その者が我が国に敵対している国からのスパイかも知れないではないか」
村長が驚いた顔をしている。
「いや、そんなことは、村の外から来たことは間違いないのですが、今では村の者と皆も認めていますし」
「それこそがスパイの仕事でもある。そうやって、溶け込んで情報を集めているのだろう。信じたい気持ちも分かるが最近になって隣国の動きが活発になってきているという話も聞く。しかも、その者はオークを一人で倒せるのだろう。しかも、若いという、それは何か特別な訓練を受けていたからでは無いのかな」
「しかし・・・」
「うむ、信じたくない気持ちも分かる。だが、逆に怪しいのだ。貴重な魔法袋を持った少年がこんな場所に来るだろうか?父親の形見と言うが母はどうしたのだ?その母を置いて旅に出たのか?冒険者になるなら元いた場所でもなれるだろう。なぜ、ここなのだ?考えれば怪しい事この上ない。しかも、その者は魔法を使うと言う。魔法の中には人の意識を支配するような物もあるという。もしかしたら、君達はすでに彼の支配下にあるかも知れないぞ」
「・・・」
「流石にすぐには納得出来ないだろう。それに、今日と言うわけでは無い。次の税を払うときに領主様が直々に問答しどうするかは決められるだろう。その結果問題なしと言われるかも知れない。そこは私が決めることでは無いがね。さて、では我々はこれで帰ろう。村長、貴方には彼についてもう少し注意深く観察して欲しい。そうすれば、我々の言っていることも間違っていないと分かるだろう。それでは、失礼する」
そう言って、代官の使いは帰って行く。
「・・・」
村長はただ黙って頭を下げる。そして、深く考え込むのだった。