第2話
落ちている
意識を取り戻して思ったことはそんなことだった。意識を取り戻して思った事は、何故、もう一人の自分の意識が起きている時間に僕が起きたのか不思議に思う。
僕は生まれてからずっと、母に殺されそうになっていた。叔父の家にいるときも隙を見ては母は僕を殺そうとしてきたのだ。どうやら、僕の存在は母にとって殺したいほど憎いものだったのだろう。そんな僕は母に抵抗するでもなく逃げた。そうして作り出したのがもう一人の自分だ。
もう一人の自分に昼間のことを任せ僕は夜に意識を起こして魔法の訓練をするという生活を物心ついた頃からやってきた。ハイエルフは基本的に日が沈んだら就寝するという生活である。僕はそこで夜の時にこっそり起き出して魔法の練習をするのだ。もう一人の自分も昼間に生きるための訓練をしている。本来、もう一人の自分が経験したことは僕にはわからないが、闇魔法によりお互いがどういった訓練や練習をしたか、どのような知識を得たかを共有することが出来た。そして、このことは誰にも言わないこともお互いに決めていた。
叔父は《闇魔法マインドクラッシュ》で僕の意識を消したと思っていた。しかし、そこで意識が消されたのは昼間に表に出ていたもう一人の自分の方だったのだ。もう一人の自分の意識が消えたことにより僕の意識が表に引っ張り出されたのだ。そして、闇魔法によりもう一人の自分に起きた事を一瞬で理解した。
「さて、どうしよう。風魔法で落下速度を落とさないと死んでしまうけど向こうから魔物が向かってきてるな。しかも、あれは村で見た古い書物に出てきているグリフォンじゃないかな」
死の森から鷲の頭に獅子の胴体そして鷲の翼を持った魔物がこちらに向かってきている。
「弓は崖に捕まるときに落としてしまっているし、解体用のナイフじゃ流石に無理だし、魔法しかないか。だけどグリフォンって魔法が効かなかったような。《火魔法ファイヤースピア》」
炎の槍がグリフォンに向かって飛んで行く。しかし、グリフォンに当たる寸前で何故か炎の槍が魔法の壁にぶつかり霧散した。これは、相手の魔法防御が高いためで、これを破るにはかなりの魔力を込めないと無理だと思われる。
「やっぱり、だめか。《風魔法ウインドストライク》」
自分の足下に向けて強力な風を放出する。そうして、落下速度を落とすと同時に自分の身体を少しだか浮かせる。そうして、すぐ近くまで来ていたグリフォンの嘴から逃れる。
「次はっと、《水魔法アイスメイク》」
これは空中に漂う水分を凍らせる魔法だ。直接魔法で氷を作ってぶつけても相手の魔法防御を破れない。ならば、一度空気中の水分を凍らせて氷を作る。そうすれば、それは魔法ではなく物質になる。これならば相手にぶつけても魔法防御で防がれることはない。ちなみに、これは村の書物に書かれていた魔法の効かない魔物との戦い方に載っていた。
その氷を薄く刃状にしていく、そして、グリフォンが旋回してまたしても僕に迫ってくる。
「《風魔法フォールウインド》」
上空より風が吹き下ろしてくる。これにより氷の刃も僕自身も下へと落下する。グリフォンは突然下に落ちていった僕の方に首を向ける。しかし、その上から氷の刃が迫ってきてグリフォンの身体を真っ二つに切り裂いたのだ。
「流石に物質攻撃には無理だったみたいだ。これで、身体が硬かったら食べられてたね。まあ、それでも、この後どうなるかわからないけど……」
そうして、僕は風魔法を使って無事に地面へと降り立ったのだった。
死の森に降りた僕はグリフォンの死体のところに向かっていった。幸いグリフォンの死体の周りにはまだ、他の魔物や動物は来てはいなかった。
僕は急いでグリフォンの死体を解体する。血を抜きグリフォンの皮を剥ぎ、肉と魔石を取る。グリフォンの魔石は緑色をしていた。緑色は風属性の証だ。魔石は魔道具作りなどにも使われているので高く売れるらしい(叔父にそう聞いた、ちなみにハイエルフは排他的ではあるが実はエルダードワーフの人たちとだけは交流がある)。グリフォンの皮を木に絡まっている蔓で穴を塞ぎ即席の袋にする。その袋に少しだけの肉と魔石を入れて急いでその場を後にした。
一応、他の魔物達が来ないように風魔法で血のにおいが外に漏れないように注意しながらやっていたので、解体中は他の魔物が寄ってくることはなかった。しかし、ここは死の森である。いきなりグリフォンのような魔物が出てくるような場所である。急いで周囲に気をつけながらその場を離れていった。
そうして、崖伝いに歩いて行くと、小さな川が崖に空いた穴から流れているのが見えた。しばらくの間はその川の近くで過ごす事に決めた。崖を登るのは到底無理で、登ろうとしてもまたグリフォンに襲われてしまうだろう。なら、しばらくはこの川の近くで生活するしかない。幸い森での生活の仕方は村で習ったので何とかなるだろう。そのためにこの数年は頑張ってきたのだから、そうして仮の家づくりを始めた。
「でも、その前にお腹が空いたからご飯かな。と言ってもグリフォンの肉しかないけど、仕方ない塩がないから香草か香辛料がないか探して見るかな」
そうして、森の中に少し分け入っていくと、香草や香辛料は比較的早く見つかった。この辺は習っていたのですぐに見つけることが出来たが、やはり塩は見つからなかった。
「流石に岩塩みたいなのが森に転がっているようなことはないよね。まあ、今日はこれでなんとかして、明日はちょっと、塩でも探してみようかな」
そう一人こぼすと調理に取りかかる。肉を焼いている匂いなどを外に漏らせば魔物がよってきそうなので風魔法で簡易の壁を作り、火魔法で火をおこし、香草と香辛料を使ってグリフォンの肉を焼いていく。
焼けたグリフォンの肉は思ったよりも柔らかくおいしかった。
ご飯を食べた後は寝床を作らないといけない。森から魔物が折ったであろう少し大きめの木を運ぶ。そのために≪地魔法ストレングスアップ≫を使い身体能力を上げる。家というよりはテントといっていいような寝床を作り上げる。時間に余裕が出来たら小屋でも作りたいところだ。
テントを作ったところで日が沈みかけている。もう少しで夜になるだろうがその前に簡単な防犯装置というか魔物や動物が近づいてきたらわかる物を作らねばならない。このまま寝て魔物に襲われたらひとたまりもないからだ。そうして木に絡まっている蔓と、木片を使いそれに引っかけると音が鳴る道具をテントの周りに設置していく。上空からは葉っぱが固まっているだけに見えるので大丈夫と信じたい。
音が鳴る道具を設置した後は、夕食を取る。食べるのは昼間に食べたグリフォンの肉しかないがこの際我慢するしかない。そして、食事を取った後テントに潜り葉っぱを布団代わりに眠る。寝心地は良くないが疲れていたのかすぐに寝てしまっていた。
容姿の設定
主人公フレイ・・・金髪、碧眼、人族
ハイエルフ族・・・金髪、金眼、体型は細身でもそれなりに凹凸アリ(ハイエルフ族は全員金髪金眼です。それがハイエルフの証みたいなものです)
エルダードワーフ族、ドワーフ族・・・黒髪、茶色の眼、ずんぐり体型、男は髭あり、女性は髭なし(鉱物の採取からその鉱物の加工までを得意としています)
皇帝・・・金髪、碧眼、細マッチョ(これで、主人公は誰の子供かはわかりますね)
伯爵・・・茶髪、碧眼、太ったおじさん
人族、エルフは髪の色や瞳の色はバラバラで体型もバラバラです。