第180話
ラントがいきなり家に来たと思ったら一緒に帝国と戦って欲しいと言ってきた。
「今回の戦いはかなり厳しい。あの、魔道具があったとしても勝てるかどうかは分からない。いや、魔道具を使う場合は相手を引きつけないといけない。そうなると、数の多い帝国兵を撤退まで退けるのは厳しいと思う」
「手伝うのは良いけど、動けるのは一ヶ月後、それと僕一人だけだね。フィーナは家の守りに置いておきたいからね」
「フィーナは動かせないのか? それに、フレイ一人だって? フレイのパーティーメンバーのカルラとかセシリアとかは動けないのか?」
僕一人しか動けないと言った事にラントはかなり驚いているようだった。フィーナがいれば、聖武具が使える者が一人増えるのでかなりの戦力になる。そのフィーナすら呼ばないことに驚いているのだろう。
「セシリアは子供が生まれたばかりで動かせない。カルラとファルナの出産が近いからそちらも動かせない。フィーナは僕がいない間の護衛として置いておきたいから動かせない。そうなると、僕一人位しか動けそうに無いんだよ」
僕の言葉にラントはさらに驚いた。
「子供が生まれたのか。ああ、そうなると動けないよな。え、で、ファルナも今は子供を身籠もっているって事か?」
「そうだよ。流石に、出産直後に王都まで行って戦うのはさせたくないかな」
「ああ、そうか。そうだよな。あ、でもフレイだけでも来てくれるなら何とかなるか?」
「まあ、大丈夫でしょ。シルビアさんから聞いていない? 僕が魔物を呼び出せるっていうこと」
「聞いているが、聞いたのは馬鹿でかいドラゴンを呼び出したことだな。しかも、バルドラント王国の王都を瓦礫の山にするぐらいのドラゴンを呼び出したとな。そんなのを呼び出されたら、俺等の王都も瓦礫になるじゃないか」
ラントはバルドラント王国の王都で呼び出した皇龍神グランバハムートを帝国との戦いで呼び出すと思ったらしい。確かに、皇龍神グランバハムートを呼び出せばそうなるかもしれないが呼び出す気は無い。前回はかなり頭にきていたので使ったに過ぎないのだ。
「皇龍神グランバハムートの魔石は使いませんよ。僕は魔石から一時的に魔物を復元してそれを使役することが出来るんですよ。ただし、余り複雑な命令は出来ないですけどね。それで、魔石さえあれば数だけは何とかなりますよ」
「そうなのか。ああ、でも王都にある魔石はほとんどゴーレムにしているからな。あまり残っていないな。残っているのはオークぐらいしか無いな」
「僕の方も余りないですね。それでも、いくつか強い魔物の魔石はあるから、それで何とかしよう。最悪、僕がその皇帝とかいう人を討ち取れば大丈夫でしょ」
「そう簡単にいけばいいけどな。まあ、フレイがいれば何とかなりそうな気がしてきた。すまん、なら、フレイだけでも頼む。帝国を追い返すのを手伝ってくれ」
「さっきも、言ったけど一ヶ月後だよ。流石に、出産の時に側に居ないなんて、後で文句を言われるからね」
「ああ、分かっている」
そう言って、ラントは右手を差し出してきた。僕はそれに答えて握手を交わした。
「それで、ファルナに会いたいんだが、会えるか?」
「もちろん、大丈夫だよ。部屋に案内するよ」
二人でファルナの部屋へと向かう。
「あら、ラントお兄様では無いですか。何時こちらへ来られたのですか」
ファルナはベッドの上で本を読んでいた。そのお腹はかなり大きくなっている。ファルナはその姿を僕に見せたくないのか散歩などは僕では無くアンナ達としていることが多かった。
「今日、着いた。フレイに願い事があってな」
「そうですか、帝国が攻めてくるんですね」
ファルナの言葉にラントだけでは無く、僕も驚く。
「それ以外には考えられませんよ。騎士団や王都にいる冒険者で対処が出来るのなら来る必要はありません。何か呼び出したい用事があれば手紙で済みます。それなのに、直接来るなどかなり重要でしかもかなり危険であると予想できます。セルシュ公国とはそれなりに良い関係を築けている様ですので、そうなると、帝国が攻めて来る位しか思いつきませんでした」
ファルナにズバリ言い当てられラントは頭を掻く。
「いや、まあファルナの言ったとおりだな。帝国にいる諜報員の報告で分かったことだが、戒厳令が敷かれた。ファールン王国に対しての戦争準備を急ぎする様にとお触れも出されたそうだ。しかも、今回は前回と違い皇帝自ら率いてくる」
「親征ですか。前回が五万から七万位の兵との事でしたが、今回はそれ以上なんでしょうね」
「兵は三十万以上になるとのことだ。しかも、前回の敗戦から、若い男は強制的に徴用されたらしい。帝国中からかなり集めているらしいな」
「それで、フレイ様の力を借りようとされたのですね。私は反対ですが、でも、フレイ様が行かないと無理でしょうね」
「フレイは来てくれると言ってくれた。もちろん、ファルナの子供が生まれてからになるとは言われたけどな」
ラントの言葉にファルナは微笑むが、その笑顔には陰りが見えた。
「分かりました。フレイ様が決められたのであれば私は何も言えません。あ、フレイ様、お兄様と二人で少し話がしたいのですがよろしいですか?」
ファルナがラントと二人で話がしたいらしい。事情があって僕の奴隷になってしまっているがラントとファルナは兄妹である。僕は頷いてファルナの部屋を出てカルラの部屋へと向かう。
部屋を出たフレイを見送ってファルナはラントの方を向く。
「どうしたんだ、フレイには聞かせられない話でもあるのか?」
「いえ、別に聞かせられない話では無いのですが、ただお兄様には一度言っておこうかと思いまして」
神妙な顔をするファルナにラントは少し緊張する。
「フレイ様の父親ですが、帝国の前皇帝みたいです」
「……なんだって、それは誰から聞いたんだ」
「フレイ様からです。セシリアさんがフレイ様のお父様の事を知りたいと仰ったときに母親に聞きに行ったみたいです」
「フレイは帝国に寝返るとは思わないが、戦わせない方がいいのか?」
「そこまで、気にしなくてもいいと思います。ただ、帝国は可哀想ですよね」
「可哀想? 何故だ」
ファルナは何故か嬉しそうに言う。
「帝国は第八王子が王になればこの大陸を統一出来ると予言されていました。お兄様は知っていますよね」
「ああ、知っている。それが、どうしたんだ?」
「その第八王子はおそらく、フレイ様の事ですよ。帝国は予言にあった第八王子では無く第九王子を勘違いして皇帝にしているのです。その、統一出来るという王子はこちら側なのですから」
「だから、帝国が可哀想だってか。しかしな、ここで俺達が負けたら、帝国が大陸を統一する事もあり得るぞ」
「でも、フレイ様には何か秘策があるんですよね? でなければ“行く“何て言いませんよ」
「まあ、そう言っていたな」
「お兄様、大丈夫です。フレイ様は友人であるお兄様を見捨てませんよ」
「ああ、そう願っているよ」
ラントは僕達に挨拶をしてから王城へと帰っていった。