第178話
僕が帰ってきた次の日、朝起きて食道に向かうとフィーナが食事を作っていた。どうやら、僕の言ったようにフィーナは料理が作れるようになっていたらしい。近くではメイアがそれを見守っているが手は出していないようだった。
フィーナが料理を作って入る間にセシリア達、他の者も食道へと入ってきた。そうして、皆が揃った頃にフィーナが出来た料理を持ってやって来た。出て来たのは、肉や野菜が挟まれたサンドイッチだった。
皆で揃って一緒に食べる。因みに、料理はフィーナだけでは無くメイアも一緒に作っていたらしい。僕が見たときにはメイアの担当が終わって、フィーナの様子を見ている所だったみたいだ。
「それじゃあ、食べようか」
ここでの食事は僕とセシリア、カルラとフィーナ、そしてファルナの五人である。メイアやアンナ達は後で一緒に食べるということになっていた。なので、ここではセシリア達と食べる。
「それじゃあ、今後の方針を決めようか。といっても、セシリアは安静にしないといけないよね」
「そうですね、出来ればご主人様にもダンジョン等には行かないで欲しいのですけど」
「そうなの? まあ、行かなくても数年は大丈夫だけど」
「ご主人様は強いので大丈夫だとは思うのですが、万が一ということもあります。子供が生まれるまではダンジョン等の危ないことは止めて頂きたいです」
僕が死ぬことはそうそう無いとは思う。それでも、セシリアは心配したみたいである。流石に、低層であろうと油断すれば僕でも死ぬ。
「ご主人が子供が出来るからって浮かれていたら、油断するだろう。それを、セシリア姉は気にしているのさ」
「カルラ、そこまでは言っていないよ。ご主人様なら大丈夫だろうけどね。でも、子供が生まれるのにその父親がダンジョンに行っていて出産の時に側に居てくれないのは、その、寂しいです」
「あ、うん、分かった。なら、しばらくはダンジョンに行くのは止めとくよ」
ダンジョンは長期間になることもある。さらに、罠に掛り長いこと閉じ込められることもあるという。そうなると、タイミングが悪いとセシリアの子供の出産に間に合わないと言うことがあるかもしれない。セシリアはそういう心配をしているみたいだった。なので、セシリアと子供が生まれるまではダンジョンに行かないことを約束する。
「所で、出産って家でするんだよね? 誰か出産に立ち会った経験ある?」
「因みに、この家に出産に立ち会った事がある者は居ないみたいです。メイアさんのいた所の貴族は独り身だったみたいですし」
「そうなると、心配だね。誰か知っている人をギルドが紹介してくれれば良いけど」
僕が口に出して言うと、セシリア達が苦笑いをしていた。
「どうしたの?」
「あ、あの、この町に居る助産師の方が子供が生まれてしばらくの間まで面倒を見てくれる事になっているんですよ。冒険者ギルドで助産師の方を紹介されています」
「そうだったんだ」
セシリアの話によれば妊娠が分かったときに、ギルドに相談に行ったときにその助産師の方を紹介されたとの事である。町には出産の時に手助けしてくれる助産師が必ずいるらしい。
「今は、安定期に入ったみたいでして、当分は激しい運動はしないように言われました。ただ、散歩などの軽い運動はしておくようにとの事でしたね。それでも、二週間に一度はこちらに来て見て頂いています」
「そうなんだ、でも、よかった。僕はその間は何かしないといけないのかな? 初めてのことでよく分からないんだけど」
「ご主人はなるべくセシリア姉の側に居たら良いと思うよ。ダンジョンにはあたいやフィーナ達で行ってお金を稼いでくるからさ」
「カルラ達もダンジョンに行くのは止めようか。今は、セシリアの世話を僕と一緒にしよう。出産がどういう事か知るのも経験だからね」
セシリアの出産が終わるまではダンジョンに行くことをしないことに決めた。その間に、メイアやアンナ達には助産師の方から出産の時の注意点や生まれたばかりの子供の世話はどうすれば良いのかを聞いておいて貰う。
カルラとフィーナとファルナには何時でもダンジョンに行けるように訓練だけは欠かさないように言う。後はメイアやアンナ達の手伝いもお願いした。その訓練には僕がいない間に一緒にダンジョンに行ったというセレスとアメリアも参加していた。
カルラとファルナは時々、僕の部屋で寝るようになった。帰って来た日にセシリアからカルラ達も子供を欲しがっているので相手をしてあげてほしいとの事を言われたからである。
「やっと、ご主人と一つになれた。セシリア姉だけずるいとずっと思っていたんだよね」
「私の様な新参者がフレイ様の相手をさせて貰ってもよかったのでしょうか。フレイ様はまだフィーナさんとは夜は共にしていないのですよね?」
話によると、カルラはセシリアから話を聞いたときからずっと呼ばれるのを待っていたらしく。最初の夜などは泣いていた。ファルナはフィーナより後に奴隷になったのに先に寝所を共にして良いのか悩んだらしい。悩んだ末に、国からそれを求められていることも分かっているので受け入れた。
僕がフィーナに手を出さないのは、妹の様に思っているからである。いや、いつもお兄ちゃんと言って来る妹みたいなフィーナと寝よう等とは思えなかったのだ。
僕が帰ってから数週間が経った頃、ファルナが僕が部屋で一人でいるときにやって来た。
「フレイ様。フレイ様が帰ってきたときに言われていましたが、お父上が帝国の皇帝というのは本当ですか?」
ファルナが神妙な顔つきで聞いてくる。
「そう母親は言っていたね。僕の母親はハイエルフで帝国のある貴族の奴隷になっていたらしい。その時にその貴族の領地に皇帝が視察に来たみたいでね。その時に母は皇帝の相手をさせられたらしいよ。皇帝とその貴族は髪の色が違うみたいだから、僕はその皇帝の子供だろうって母親は言っていたね」
「そうですか、それでフレイ様の年齢は十六か十七歳と……」
「まあ、それ位だね。余り詳しくは覚えていないけどね。それが、何か問題あるの?」
「今の帝国の皇帝の年齢はフレイ様より若いです。となると、フレイ様はその皇帝の兄になります。皇帝では知られていない王子になります」
「そうなるかな。まあ、興味が無いからどうでも良いけどね。もしかして、ファルナは僕が皇帝になりたがっているように見える?」
「いえ、そうは見えません。ただ、帝国にはある予言があり、第八王子が皇帝になればこの大陸を統一するだろうという予言です」
ファルナが何が言いたいのかよく分からなかった。そんな予言が帝国にあった所で僕には関係が無いのだから……。
「今の帝国の皇帝はフレイ様よりも若いです。もしかしたら、フレイ様が帝国の第八王子だったのかもしれませんね」
「今の皇帝が僕よりも若いというのなら可能性はあるかもね。でも、僕は皇帝なんて物に興味は無いけどね。国を治めるとか面倒なことはしたくないよ。僕は自由に生きたくて冒険者になったんだから」
僕の言葉にファルナは嬉しそうに微笑んだ。
「フレイ様が私の想像通りでよかったです。予言が正しければフレイ様はこの大陸の皇帝になれるかもしれません。それなのに、自由の方が大事だというのですね」
「僕にそんなの似合わないじゃ無いか」
「そうですね。フフフ……」
ファルナは嬉しそうに部屋を出て行こうとする。僕はその手を取って引き寄せた。