閑話6
フレイが父親の情報を得るために生まれ故郷のハイエルフの里に向かった後、家に残ったセシリア達はフレイのいない間の方針を話し合う。
「ご主人様がいない間はどうしましょうか? フィーナは家事を覚えないといけませんよね。でも、フィーナがいないとダンジョンは厳しそうですよね」
「ダンジョンの浅い階層であれば大丈夫だとは思うけどね。ただ、浅い階層だとかなりの魔石を集めないと生活費を稼げないと思うよ」
「ご主人様から、いざという時は売っても良いとドラゴンの魔石を頂いていますから大丈夫でしょう。それに、今あるお金でも一年は余裕で生活できるだけありますよね」
「セシリアお姉ちゃん、ダンジョンに行かないの? お兄ちゃんが居なくてもいけるとは思うけど」
「フィーナは家事を覚えないといけないのよ。ご主人様がいつ頃戻ってくるかは分からないけど、ダンジョンに行っていたら戻ってくるのにも時間がかかるわ。ダンジョンに行っていて家事を覚えられませんでしたとご主人様に言うの?」
フィーナはダンジョンに行きたいみたいだった。しかし、フィーナはメイアから家事を教えて貰わないといけないのでセシリアとしては反対だった。カルラはフィーナを除いたセシリアとファルナと自分となら浅い階層なら大丈夫と思ったらしい。
「そ、それは覚えるけど、お兄ちゃんがいつ帰ってくるか分からないよね?」
「そうね、私の予想としては半年は見ているけど、実際、どれくらい掛るかは分からないわ」
「そう言えば、フレイ様は生まれた村に行かれたみたいですが、最初は帝国に行こうとしていませんでしたか?」
「ご主人様の生まれた村は帝国と死の森の間にある森の中みたいですから、帝国に行こうとしたんでしょうね」
「帝国に入れそうに無いから、死の森を突っ切って行く方法に切り替えたんだよね。昔、一度だけあそこの崖の近くまで行ったことがあるけどかなり深いんだよね。あそこを降りようなんて普通は思わないよね。まあ、ご主人は叔父だかに落とされたらしいけどね」
「死の森の魔物はあの崖のお陰でこの地上には出てこられないと本で見ましたね」
ファルナは城にいたときにそのような事が書いてある本を見たことがあるらしい。
「でも、ご主人様が言っていましたけど、バルドラント王国の聖霊ダンジョンの十五階層はその死の森の魔物らしいですね。結局、私達は戦わなかったですけど」
「そういえば、あの時はお兄ちゃんしか戦わなかったね。今度、私も戦ってみたいな。今ならグリフォンぐらいなら戦えそう!」
フィーナはかなりの脳筋になってしまっているらしい。
「それはご主人様が帰ってきてから聞きなさい。当面はフィーナに家事を覚えて貰うことを優先しましょう。何時ご主人様が帰ってきても良いようにね。メイアさんもお願いしますね。一応、私も手伝うから」
「分かりました。フィーナさん、簡単ですから直ぐに覚えられますよ」
「はーい」
セシリアの言葉でしばらくはダンジョンに行かずにフィーナの家事を覚えることに専念する事に決定すした。
それから、フィーナは諦めたのか積極的に家事の手伝いをするようになった。セシリアとメイア、そしてアンナ達を入れて、フィーナだけで無くファルナやカルラも家事を教えていく。
そして、フレイが家を離れてから一ヶ月経った頃にようやくフィーナも料理が作れるようになってきた。最初の頃は分量が適当で合ったためにかなり大変だった。
「カルラお姉ちゃんは移動中の時の料理担当の時は適当にやっていたよ」
というのが、フィーナの言い訳だった。しかし、フィーナからしたら適当に見えていたのかも知れないが、カルラは今までの経験から香辛料や塩等を振っている。フィーナにはその経験が無かった。さらに、火にかけるのにもじっとしている事が出来ず、途中に他のことをしていて料理をよく焦がしていた。
それを、セシリアとメイアは根気よく教えて何とか作れるようになっていた。
「これなら、旦那様に出してもまだ大丈夫でしょう」
「忘れなければ、ですけどね」
フィーナが料理を作れるようになったので、セシリア達は一度ダンジョンに向かうことにした。
「戦闘訓練は続けているけど、このままだと鈍りそうだからね。たまには行った方がいいとおもうよ」
そうカルラが言うので、フィーナが料理を作れるようになったタイミングで行くことになったのだ。
「やったー! 久しぶりのダンジョンだー!」
ダンジョンに行くと伝えたらフィーナはとても喜んでいた。
「戦うことに夢中になって料理や他のことを忘れないようにね」
「大丈夫、一度覚えた事は忘れないよ」
「なら、ダンジョンにいるときに料理はフィーナにお願いしようかな」
「ええ、ずっとは嫌かも」
フィーナは頬を膨らませて文句を言う。それを気にせずにダンジョンへと向かう。今回はせsりあと、フィーナ、カルラ、ファルナに加えて、アンナと一緒に家に来た今はメイドをしている、セレスとアメリアが一緒に行くことになった。この二人は以前冒険者をしていたが片腕と片足を無くしたために奴隷となってしまった者だ。
今回のダンジョン行きではフレイが居ないために月魔法の夜のとばりが無い。なので、夜などに休む場合は見張りが必要になる。なので、人数を増やそうと声をかけたらこの二人が手を挙げたのだった。二人とも三十階層迄なら戦えるとの事で武器を揃えて向かうことになった。
ダンジョンに攻略は順調に進んでいた。進み具合はフレイが居たときよりも遅いのだがそれはセレス達を入れた連携を確かめながら進んだためであった。そして、一ヶ月程ダンジョンに潜っていたときに異変に気付く。
セシリアが時々体調が悪くなるのだ。食事の時には吐いてしまう事もあった。そんな状態でダンジョンは無理と引き返すことになった。
「セシリア姉、体調が悪いみたいだけど心当たりはある?」
「お姉ちゃん、大丈夫?」
カルラ達も体調の悪いセシリアを心配して声をかける。
「心当たりは無いんだけどね。今までこんな状態になったことがないから分からないわね」
セシリアもどうして体調がおかしいのか分からなかった。そんなセシリアの体調を見てアメリアが何かに気付く。
「セシリアさんは食事の時に体調がおかしくなりましたよね? それって、食べようとしたときじゃなくて食べる前でしたよね?」
「そうね、食べる前だったわね」
「それって、匂いで気持ち悪くなったんじゃ無いですか?」
「でも、そんな事、今まで一度も無かったのにいきなりそんな事になるなんて、やっぱり何かの病気なのかな?」
「えっと、本気で言ってます?」
アメリアはどうやらセシリアの体調の異変について分かっているみたいだった。
「えっと、どういうことかな?」
「では、セシリアさんにお聞きしますが最近、月の物は来ていますか?」
「え、えっと、そう言えば今月は来てないかも……」
「それって、妊娠しているって事じゃ無いですか?」
「えっ、妊娠って、お腹に子供が居るって事?」
セシリアは驚いたのか目を見開いている。驚きすぎて固まっているセシリアにカルラとフィーナが抱きついた。
「セシリア姉、おめでとう!」
「お姉ちゃん、おめでとう!」
「え、あ、うん。ありがとう」
セシリアは呆けたように答える。
「セシリアお姉様、おめでとうございます。こうなったら早めにダンジョンを抜けましょう。なるべく安静にした方がいいでしょうから」
ファルナの言葉に急いでダンジョンを出るために急ぐ。そして、家に戻って来て残っていたメイア達にも伝えられ、お祭り騒ぎになった。
それから、数ヶ月してもフレイは戻って来ていなかった。
「お父さん、早く帰ってきてくれないかな。ねっ」
セシリアは窓際の椅子に座りながら少し大きくなったお腹を触り、声をかけながらフレイの帰りを待っているのだった。